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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
三章 日本、能力者会談
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四十九話「夕食1 at由菜の家」

 GW一日目が終わった。

 ボーリングは、あの後彰はクラスメイトの男子たちに追い回されたせいで体力が無くなり調子を崩していった。その結果、彰のスコアは初心者である恵梨のスコアに負けるという散々足るものであった。(ちなみにクラスで一位であったのはコツコツと点数を重ねた美佳である)


 GW二日目と三日目。

 恵梨は宿題に追われ、彰はのんびりとしながらも旅行の準備をしたりと過ごした。GW四日目から七日目まで能力者会談があるのでその準備である。


 そして現在はGW三日目の夕方。


 彰と恵梨は隣の由菜の家に珍しく招待されていた。

「GWという事だし私の家で夕食にしようよ。お母さんもそうしたい、って言っているし」

 と由菜が提案したからである

 由菜家は彰家同様にそこそこの広さのある二階建ての住宅だ。



「手伝いましょうか?」

 そのキッチンでエプロンを着た女性、由菜の母である八畑優奈(ゆうな)に彰はそう訊ねた。


「あらあら、そんなこと気にしなくていいのに」

 なべをかき混ぜながらおっとりとそう返した優菜は、正確には彰も知らないがたぶん三十歳ぐらいの女性だろう――、

「…………今、彰くん私の年齢のこと考えていなかった?」

「! い、いえっ! そんなことないです!」

 彰の思考を読んだのか、急に表情を消して優菜がそんなことを聞いてくる。優菜に歳についての話は厳禁である。

 エスパーか! と彰はつっこみたくなるのを我慢する。そんなツッコミしたら自分がそう考えていたことを証明してしまう。

「そう。ならいいんだけど」

「ほ、ほんと、急にどうしたんですか。ははは」

 彰は乾いた笑みを浮かべて誤魔化しにかかる。


 最初に応対した時の主婦らしい穏やかさは優菜の仮の姿で、実際はどちらかと言うとこのように鋭い性格だ。

 主婦の人生ではなくキャリアウーマンになる人生でも成功するだろうと思わせる女性であった。


 そう思っていると、優菜が頬に手を当てながら、

「そうね。キャリアウーマンになる人生も良かったかもしれないわね」

「………………」

 本当にエスパーなのか!?

 彰は驚愕してそう言おうとしたが、実際には口にしなかった。

「違うわよ。エスパーなんかじゃなくて、ただ私が(さと)いだけよ」

「………………」

 言わなくても優菜には伝わるだろうという皮肉だったのだが、実際にそう返されると何だか彰はへこみそうだった。




 ドアを開けて自室に入ってきた彰に由菜は声をかけた。

「で、どうだったの? ……ってここに帰ってきているようじゃ駄目だったみたいね」

 彰は手伝いの申し入れを由菜の母に断られた後、二階にある由菜の部屋に来ていた。由菜の部屋は、ぬいぐるみなどあからさまに少女趣味な物は置いてはいないが、見れば女子の部屋であると分かるようなきれいに整頓された部屋である。

 由菜だけでなく恵梨もこの部屋にいる。元々は三人で夕食ができるまで雑談でもして過ごす予定だったのだが、彰が持ち前の真面目さを発揮して夕食の準備をしている優菜に手伝いを申し入れたのだ。

「お母さんは客をキッチンに入れるような人じゃないからね」

「……まあ分かってはいたんだが、一応な」

 彰と由菜は幼なじみだ。つまり彰は由菜の母である優菜との付き合いも、その人の性格が分かるくらいには長いのであった。


 恵梨が話題に上がっている優菜について自分の感想を言う。

「由菜さんのお母さんって結構若いですよね。……その、由菜さんにとっては年の離れたお姉さんって感じじゃないですか?」

「そんな感じなんだけど……お母さんが姉みたいな距離感で接してくるっていうのもねえ」

「そういうものなんですか」

 自分は体験したことの無い感覚に恵梨は素直に納得する。


「あの人は、こう、無駄にパワフルだからな」

 彰が由菜の意見に追従すると、

「ご飯ができたわよ~」

 そのタイミングで夕食の準備をしていた優菜が一階のキッチンから二階にある由菜の部屋に向かって呼びかけた。

「分かったわー。……さて、私たちも下に降りましょう」

 由菜が優菜に対応した後、彰と恵梨に言った。

 彰と恵梨にもちろん異論など無く、三人は一階に降りた。





「「「「いただきます」」」」

 そんなこんなで夕食が始まった。

 四人で由菜家のダイニングのテーブルを囲んでいる。彰の対面には優菜が、隣には恵梨がそして斜向かいには由菜が座っている。

「…………。っ! おいしい!」

 彰はさっそく食べ始めて、たまらず感想を述べた。

「あらあら、嬉しいわね。……急に決まったことでたいした物を用意できなくてごめんね」

 偽りのおっとりとした調子で優菜はそう返す。

 食卓に並べられているのは肉じゃがであった。味のしみこんだじゃがいもや牛肉が入っている。上手に甘く味付けられていた。

「そんなこと無いですよ。おいしいです」

 彰の隣で恵梨も優菜の料理に舌鼓を打っている。

「……なんか今日は特に気合いが入っているような気がするけど」

 優菜の料理を毎日食べている由菜には、いつもの物とほんの少し違和感を感じたようだった。

 言われた優菜は箸を立てて、彰の方を見ながらその理由を小声で隣の由菜に告げた。


「そんなの当たり前じゃない。だって未来の娘婿(むすめむこ)の前でがんばることくらい普通よ」


「ぶっ! ……お、お母さん!!」

 いきなりの言葉に由菜がご飯中にもかかわらず吹き出してしまう。

 非難の言葉を優菜はスルーしつつからかいを続ける。

「あら~? 由菜はそうなりたいんじゃないの?」

「そ、それは……」

 顔を真っ赤にして言葉をためらいながら、由菜は正面の様子をうかがう。

「よくこれだけの物を作れるな……。主婦の味、か……」自炊もする彰は感心してつぶやきながら食べるのに夢中で、このやりとりを聞いていないようだ。

 対照的に恵梨はこちらを見てニヤニヤとしている。今の優菜のセリフが聞こえたのだろう。


 つまりは由菜の味方はこの場にはいないということだった。


「ねえ、どうなの? その気があるんでしょ?」

 母は赤面し始めた娘に追い打ちをかける。

「ふふふ、由菜さん顔が真っ赤ですよ」

 恵梨が(ほほえましい感情がたっぷりつまった)微笑を浮かべて由菜のことを見てくる。

「………………。そういえば由菜どうしたんだ? 顔が真っ赤だぞ。肉じゃが熱かったのか?」

 ようやく周りを見る余裕を取り戻した彰が由菜の顔を見て鈍感発言をする。


 そういうことでいっぱいいっぱいになった由菜の取った行動は、

「………………………………フン!」

 そっぽを向くことであった。(まあ、向いたところで頬も赤く染まっているのが正面の恵梨と彰からは確認できたのだが)


「あらあら」

「かわいい仕草ですね」

「???」

 優菜は顔に手を当てやれやれといった感情で、恵梨はますますほほえましい物を見る目になって、そして彰は状況をつかめず疑問符を浮かべるだけだった。

続きます。


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