四十七話「ボーリング1」
第三章「日本、能力者会談」開始!
GW。ゴールデンウィーク。
普通は昭和の日、憲法記念の日、みどりの日、こどもの日などの祝日とその周辺の土日を含めた五月の第一週目を表す。
高野彰の通っている斉明高校は私立で融通がきくので、祝日の間の平日は特別に休日にされている。なので今日から八連休の予定だった。
今日はその初日。彰と恵梨がクラスメイトと共にボーリングに行くことを約束した日である。
「女性は出かける準備に時間がかかるもの、とは聞いたことがあるが……こんなにも遅いとはな」
高校生の少年、高野彰は自宅のリビングでつぶやいた。
あせるように時計を見ると、時刻は昼の十二時を少し過ぎたところ。集合は午後一時のためまだ間に合う時間だが、これ以上遅くなると危ないだろう。
約束に遅れたらクラスメイトたちにノリでどんな目にあうか分かったものじゃない、と彰が約束している相手が相手なため恐怖を覚えてながらも、自分にはどうしようもない。
暇つぶしに机の上においてあった新聞を読む。読んでいるのは社会欄で、政治家の不祥事。アメリカで猟奇殺人事件発生!。有名企業の脱税疑惑!?。などのニュースが乗っていた。
そうしていると階段をドタバタ下りてくる音がして、
「すいません! 遅くなりました!」
彰と同居している少女、水谷恵梨があわただしくリビングに姿を見せた。
たった今まで登場が遅いことを不満に思っていた彰だが、それを表に出すような少年ではない。
暇つぶしに読んでいた新聞を置いて、いつもどおりの表情で恵梨を振り返った彰は、
「じゃあ、家を出、る、ぞ……?」
恵梨の着ている服を見て、言葉が途切れ途切れになる。
「どうしましたか?」
「……いや、そういえば今日の朝は服を買いにいったんだったな」
恵梨の服装が今まで見たことがあるのと違っていた。
ファッションに疎い彰には名前が分からないが、恵梨が普段とは違う出かけるとき用の格好をしている。
今日の朝、恵梨は由菜やクラスメイトと服を買いに行っていた。
科学技術研究会に追われて逃亡していた恵梨は、彰家に来た時着ていた制服しか服が無かった。その後は彰の幼なじみで隣に住んでいる由菜から、パジャマや部屋着は借りていた。なので恵梨のセンスで選んだ服は新鮮に見えたのだろう。
しかし彰の反応を見て恵梨は憂慮した顔になり、
「……やっぱり。……この家においてもらっている立場なのに――」
「それ以上は言わなくていい。おこづかいなんだから、おまえが自由に使えよ」
彰は恵梨の言葉をさえぎる。
というのも、彰の経済事情はいきなり二人暮らしとなったため一時ピンチになりそうだったのだ。
しかし月末のため彰は両親から新たに多めな生活費を振り込まれ事なきを得たので、恵梨にもおこづかいということである程度のお金を渡していた。居候の身である恵梨はとても遠慮したが、横から由菜が「もらっておきなさいよ」といったのでしぶしぶもらっている。
その金を使って今日は由菜やクラスメイトとショッピングに行ったため、恵梨は申し訳ない気持ちになっているのだろう。
「……でも」
それでも続けようとする恵梨に、
「似合っているじゃないか、その服」
彰は細かい意図もなしに褒める。
「………………。…………えっ!」
一拍遅れてその意味を理解する恵梨。ドクッ! 心臓が高鳴る。
「ファッションとかよく俺には分からないけど、なんか良いんじゃないか」
「……そそそ、その。あ、ありがとうございます」
恵梨が少し顔を赤くしながらそう返した。
……恵梨がこんな顔するとはな。
彰は科学技術研究会を退けて恵梨と同居生活を始めて二週間ほど経ったが、やはり二週間程度ではその人の全ての面を見ることなどできない。
恥ずかしがっている恵梨の姿が新鮮で、もう少し見ていたかったのだが、
「! そういえば約束までそんなに時間が無いぞ!」
彰はさっきまで焦っていたことを思い出す。
「あっ、そうでした! 急ぎましょう!」
恵梨も彰と同様の約束をしている。なので、二人はあわてて家を出た。
午後一時、つまり約束の時間にあと少しのところで二人は目的地についた。
場所は全国にチェーン展開されている複合型娯楽施設。ボーリングやカラオケ、ゲームセンターなどがそのビルに入っている。地方の小都市といった結上市にはこのような施設はここしかない。
入り口の近くにゲームコーナーがあって、中に入った二人に莫大な音が流れ込んでくる。奥に進んでいくと、集合場所であるボーリングのゲーム申請をするカウンターの前には一年二組の生徒達がいた。人数もほとんど揃っていて、彰たちはほとんど最後のようだ。
「間に合った」
一息ついた彰に、
「遅かったね」
彰の姿を認めて、幼なじみで隣に住んでいる少女の八畑由菜が声をかける。彰よりも一足先に着いていたようだ。
「いろいろあってな」
遅かったのは恵梨の準備が長かったからという理由であるが、それをわざわざ言う必要も無いだろう。
クラスのみんなはその場所に固まって雑談やら携帯電話をいじったりしている。恵梨は他のクラスメイトに呼ばれてそっちの方に行ったようだ。
「へえ、そうなの」
由菜は不明瞭な彰の言葉を気にせずに納得して、
「……そういえば話は変わるけど、何で昨日は早く帰ったの? 本当なら昨日の午後遊ぶ予定だったんだけど……なんか用事があったの?」
まだ集合していない人が二、三人いる。だから暇を潰す意味合いもあってこのタイミングで由菜はそれを聞いたのだが、
「――」
それを聞いた瞬間、彰は頭を高速回転させ始める。
さて、どう言い訳するか……。
本当の理由は炎の錬金術者である火野正則と戦ったからなのであるが、能力者関係の話を由菜にするわけにはいかない。
というわけで、不自然に思われないよう速攻で由菜を納得させる理由をでっち上げなければならない。
斉明高校の四月の課題試験で一年生一位を取った頭脳がコンマ数秒ではじき出した答えは、
「……まあ、いろいろあってな」
「そう。で、何があった――」
いったん言葉を濁してから、
「それよりも、その服似合っているな」
間髪いれずに話を変えることであった。
実際、由菜の服も恵梨と同様に彰が見たことのない服であった。
「ふぇ?」
呆然とした由菜からおかしな言葉が漏れる。
「今日の朝、恵梨と一緒に買いに行ったときのか?」
誤魔化しきれそうだと彰がごり押しで話を進める。
「……そ、そうだけど。……えーと、あれ?……」
恋する少女である由菜は嬉しい部分もあり顔を赤くするのだが、それ以上に視線を右往左往させて困惑している。
由菜はその場で深呼吸。気持ちを落ち着けてから、
「彰がそういうことで褒めるなんて珍しいね」
「そうか?」
彰としてはあまり覚えが無い。
「だって、今まで私が努力しても褒めたことなんてほとんど無いじゃない」
「そうだっけか。………………努力?」
「っ! 今の無し! 忘れなさい!」
「……?」
もちろん彰に振り向いてもらうための努力である。服を褒めることができながらも、それに気づかない彰はやはり鈍感なのか。
自分の失言でまた気持ちが乱れ始める由菜。そこに救いの主が現れる。
「わりぃわりぃ、遅れちまったぜ」
今日来る予定だった最後の人物、スポーツ少年の東郷仁司が姿を見せた。
「遅いわよ。……では、行きましょうか」
このイベントの計画者でありまとめ役でもある、噂好きの少女の西条美佳が言う。すでにボーリングのゲーム申請は終わっているらしく、この場所にいたのはただ集合場所だからという理由でしかなかったようだ。
「そうね! 行きましょう!」
それ幸いと由菜は彰から離れてさっさと歩き出して行った。
他の人も動き出し、置いてかれそうになった彰はあわててついて行った。
ゴロゴロゴロゴロ、……ゴトン!
というわけでボーリングが始まった。みんな和気藹々(わきあいあい)と楽しんでいる。
「次は俺の番か」
自分の前の番が終わったのを見て、彰は待っていた席から立ち上がる。
レンタルのボーリング用のシューズを履いた足を動かし、これまたレンタルのボーリング球の穴に右手の指を入れる。
レーンの前まで来て両手を胸元まで上げる。右手を引きながら動き出して、タイミングよく前に振り出す!
ゴロゴロゴロ、投げた球は転がっていき、ガッシャーン! ピンを倒した。
「……まあまあだな」
結果、六本のピンが倒れて四本のピンが残っている。
そのまま二投目を続ける。今度の結果は三本倒しただけで、執念深いような一本のピンが残ってしまった。
「……さて、次で最後の一ピンを倒すか」
彰は三投目を投げようと自分のボールのところに向かおうとして、
「……それは本気で言ってるのかな? もしかしてボーリングのルールも知らないの?」
次に投げる番の少女、西条美佳にテンションの高い時に使う明るいながらも辛辣な口調でそう言われる。
「冗談に決まっているだろ。……くっそ、今までスペアとストライクで続けてきたのに」
その口調に慣れている彰は軽く返した。
美佳がもう一つ持っている丁寧な口調に戻って話を始める。
「……そういえばもう一つ頼みたいことがあるんですが」
「何だ?」
「どうせいつも通り既に考えているんだろうけど、何か仁司をひどい目にあわせてもらえますか?」
突拍子の無い提案。
「……いつも争いを止める方向に動くおまえからそう頼まれるなんて珍しいな」
仁司とは一応友達である彰だが、最近でもバレーボールを顔面スパイクしたり、寝ているところにいきなりイスを引っこ抜いたりと、彰は仁司に対する扱いがひどい。
美佳から見れば友達だからこそそんなにふざけたことができるんだろうと思っているが、本人に聞いたことは無い。どうせ彰に聞いたところではぐらかされて、それを認めないだろう。
美佳は話を続ける。
「……私ががんばってまとめているというのに、あの野郎のうのうと遅刻しやがって、少しお灸を据えてやらないといけませんね……ということです」
美佳はこの集まりの計画者だ。昨日から一日でこれだけの人数を集めたりと、かなりがんばったからこその感情であった。
それに対する彰の答えは、
「それならまかしとけ。馬鹿な仁司なら引っかかるであろう案を既に一つ思いついている」
いつも通りに今日も仁司をいじる予定だった彰。
「頼もしいわね。じゃあよろしく」
美佳はそう言ってボーリングの玉を取ってレーンのほうに歩き出す。
彰は案の実行に必要な物を取りに行った。
少し時間が過ぎて、
「よっしゃ、俺の番か!」
自分の番が来たため、仁司は待っていた席から立ち上がる。
彰は、仁司が自分がレンタルしているボーリングの球を取りに行こうとするを見ている。
「あれ? なんか違うな……」
仁司が疑問に思いながらも自分が取ってきたと思われる赤色のボーリングの球は一つしかないためそれを手に取る。
かかった!
彰が内心でガッツポーズを取る。
彰が用意した策。
それは、ボールのすり替え。
レンタル用ゆえに同じような球が、重さつまりポンドごとに用意されているのを利用した策。
仁司は今まで八ポンドを使っていたが、彰がすり替えたのはここにおいてあった最大の十五ポンドであった。
「何かさっきよりも重い気がするな……?」
仁司はそれに気づかない。
気づかずに投げようとする。
そしてここで彰が用意した策は違和感を与える物だけではない。
十五ポンドのボールが八ポンドのボールと違うのは重さだけではない。指を入れる穴の大きさも違うのだ。
つまり、
「よし、行くぞ。…………あっ! (ゴトン!) ぎゃーー!」
滑って落としやすいということだ。
案の定仁司もボールを滑らしてしまい、自分の足の上に落としてしまった。
「プッ!」
彰もここまで上手く行くと吹き出してしまう。
「くっそ! 何か滑りやすいな。…………待てよ」
そこで仁司は自分のボールを注意して見る。
「なっ!? 十五ポンドなんて俺は取って無いぞ!」
「今更気づいたのか! 馬鹿だな、おまえは!」
そこで彰が高らかに笑って、仁司を侮蔑する。
「おまえの仕業か!?」
「そうだ、と言ったらどうするんだ?」
「この馬鹿にしやがって! ……なら、おまえのボールだって十五ポンドにしてやる!」
「いや、そんな事されても俺は普通に気づくし」
不毛な争いに突入する二人。周りの人はそれを見て、いつも通りだなと苦笑するのだった。
鬱憤を晴らしてもらった美佳は一言。
「まあ、ケンカするほど仲が良いって言いますしね」




