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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
二章 炎の錬金術者、来襲
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四十五話「続き」

 火野との戦いが会ったその日の夕方。

 自分の部屋として使っている彰家の両親の寝室で、恵梨は自分のケータイがチカチカ光っているのを見つける。メールを受信しているようだ。

「誰でしょうか?」

 恵梨はケータイを取ってベッドに腰掛ける。

 差出人を確認すると、美佳からであった。内容は『話したいことがあるから、電話して』との事。それに従って恵梨は電話をかける。


 すぐに美佳は電話に出た。

「メール見ましたけど、どうしたんですか」

「……ああ、ごめんなさいね。メールでも良いかと思ったけど、電話の方が話しやすいと思って」

「何の話ですか?」

「明日、みんなで遊ばないかと誘おうかと……いえ、強制的に参加してもらおうと」

「強制的ですか!?」

 なにやら自分の知らないところで予定が決められている。


 恵梨の驚くさまに、軽く笑いながら美佳は続ける。

「冗談よ。……でもなるべく参加して欲しいわ。一応明日は、転校生の恵梨の歓迎会という名目で一年二組の生徒のほとんどが集まるからね」

「……いえ、参加するつもりですし、私のために歓迎会なんてありがたいんですが……名目がそれで、実態は何なんですか?」

「みんなで集まって遊びたい。ただそれだけよ」

「ぶっちゃけましたね」

 ……まあ高校生は何かと理由をつけて遊びたい年頃ですし。

 そう思って、恵梨は詳細を聞く。

「それで、明日どこに集合ですか?」

「最初はいつもの五人でカラオケでもと考えていたけど、何故か話が広まって人が増えたからボーリングに代わったわ」

「ボーリングですか……」

 恵梨は彰家に住む前は田舎に住んでいた。そのためボーリングは全くではないが、一回しかやったことがない。それも小学生の頃の話だ。

「どうしたの?」

 恵梨が言葉を濁したことが気になった美佳。

「い、いえ、何でもないです」

 まあルールも分かりますし、大丈夫……のはずです。


 美佳の用件はそれで終わりのようだが、そのまま話は続く。

「しかしゴールデンウィーク初日なのに、クラスの生徒の大半が集まるなんてスゴいですね」

 今日、急に決まったことなのに異常な集合率だ。普通は自分の予定などを優先する物だと思う。

「まあ、それが私たちのクラスの雰囲気だしね」

 美佳が言うとおり、ノリがいいのが一年二組の特徴だ。

「……そう考えると、彰が学級委員長ってのはやっぱり合っているかもね」

「どうしてそう思うんですか?」

「だってそうじゃない。ふざけてばかりのクラスをまとめることのできる真面目さと、時には一緒にふざけられる面をどちらも持っているからね」

「……確かに適任ですね」

 本人が聞いたら、「俺も好きでやっているんじゃないんだ!」とか言われそうである。


「…………彰がそんな性格なのは、あんなことがあったからでしょうね……」

 美佳は一瞬言いよどんだが、

「……ねえ、恵梨は彰の過去について知っているの?」

 美佳が声を落として聞いてくる。人の過去とは、あまり気軽に話題にしていいものではないと分かっているのだろう。

 恵梨はたぶんこれだと思うものを答える。

「……もしかして彰さんが昔、不良だったっていうのですか?」

「……あっ、恵梨も聞いてたんだ」

 美佳は自分から聞いておいてとは思うが、恵梨がそれを知っているとは予想していなかった。

 会ってからまだ一週間とちょっとしか経っていない恵梨に、彰が自分の過去を話すとは思ってもいなかったからだ。


 だから美佳は口を滑らしてしまった。



「それで、その話の続きは聞いているの?」



「………………続き、ですか?」

 恵梨は思いもよらなかった言葉に首をかしげる。

 彰さんが不良だったという話……その続き?

 恵梨のその反応に、美佳は自分が口を滑らした事に気づく。

「……っ! ごめん! 恵梨、今の言葉は忘れて!」

 美佳が電話の先であわてだすのを聞いて、恵梨も我に帰って、

「続きってどういう意味ですか!?」

 その言葉の真意を問いただす。

「ごめん! ……でも、それは私の口からは言えない。例え恵梨でも、気軽に話せるものじゃないから」

「……ですけど」

 誤魔化してくるなら恵梨もそのまま追及できただろうが、真摯(しんし)に謝られると恵梨としても更には聞き出しにくい。美佳が原因でないらしいから余計にである。

「……やっぱり、私がこの話をする資格はないと思う。……ごめん。彰に直接聞いてもらえる?」

「…………そうですか」

 恵梨は美佳から聞きだすのを諦める。

「………………ごめんね」

 美佳はそう言って電話を切った。



 彰さんの過去……その続き。

 恵梨は腰掛けていたベッドに寝転がり、持っていたケータイも放り出した。

 柔らかなベットに沈み込むように考え出す。

 確かにあの時は気づかなかったけど……そう考えると彰さんの話は抜けているところがある。


 彰さんは昔、ケンカをしてばかりの不良だった。


 しかし今は正反対、テストで学年一位を取るぐらい真面目だ。




 それなら、そう変わったきっかけは何なのだろうか?




「たぶん、それが美佳さんの言っていた『続き』なんでしょうね……」


 そのきっかけとは何だろうか?


 何らかの決意か? 誰かの言葉だろうか? 



 それとも……何らかの後悔だろうか?



「……彰さんに聞いてみましょうか」

 恵梨はベットから降りて立ち上がった。




 彰は火野との戦いで疲れていたので、自室のベットに寝転がっている。

「はあーーーー」

 けれど、何故か眠る気になれなかったのでぼーっとしていた。

 そこにコンコン、とドアを叩く音がする。

「入って良いぞー」

 語尾を延ばすそのだらけきった声に反応して、ガチャ、とドアが開けられた。

「すいません」

 そこにいたのは、一緒に住んでいる恵梨だった。

「どうした? 俺の部屋を訪ねてくるなんて珍しいじゃないか」

 一緒に暮らし始めて一週間ほどだが、いつもリビングなどで話をすることが多い。恵梨がこの部屋に入ってくるのはご飯ができたのを呼びに来るときなど、何かの用があるときしかなかった。


 恵梨は部屋の入り口で立ったまま話し始めた。

「……少し聞きたいことがあるんです」

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