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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
二章 炎の錬金術者、来襲
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四十四話「対話」

「あれ~。少年は隣の少女のように驚いてはくれないのかい?」

 ラティスはのんびりとした口調でそう告げる。前回は正体の知れない三人に恵梨が敵意を見せていたが、今回は最初から穏やかなムードだ。

「……一般人がいる中で戦えば、おまえらはその記憶を消すために現れるだろうと思ったから、俺は火野とこの場所で戦うことを決めたんだ」

 つまり彰は異能力者隠蔽機関の出現を予測していたのだ。

「まあ君たちの戦いを見ていた人は、既に記憶メモリーを使って戦いが思い出せなくなっているけど。……それにしても僕たちの仕事を増やさないで欲しいね」

 ラティスが呆れた調子で返す。

「それはすまんな」

「本当にそうだよ~。大体、前回の戦いから一週間ほどしか経っていないじゃないか」

「俺だって好きで戦っているわけじゃないんだ」

 彰は悪びれない。


 ……確かに彰さんから戦いを起こしたわけではないですけど、積極的に戦いに巻き込まれていった彰さんはその言葉を言う資格はあるんでしょうか?

 そう思いながら、恵梨が話に入ってくる。

「あの……すいません。あなたたちはどうやっていきなり現れたんですか?」

 前回会ったときからの疑問を訊ねる。前回の戦いのとき、三人はいきなり二人の背後に現れて、目の前でまばたきもしない内に消えた。そして、今回も突然二人の前に現れている。

「……何かの能力なんですか?」

 その指摘に彰もうなずいて、

「ラティス以外のどちらかの能力だろ?」

 意見を付け足した後、ラティスの両隣にいるスーツ姿の女性、リエラとハミルを見る。


「すごいね~。当たりだよ」

 ラティスがパチパチと拍手をして、リエラの方を見る。

 その意図を汲んで三人並んでいたところから、リエラが一歩前に出る。

「私の能力でございます」

「「……どんな能力なんだ(なんですか)?」」

 更に気になった二人が一斉に訊ねると、

「それは見てもらえたほうが早いかと。……私の能力は離れた位置に移動する能力。つまり――」

 ヒュン!

 語り始めたリエラの姿が二人の前から消えて、


空間跳躍(テレポート)でございます」

 二人の背後からその声が聞こえてきた。


「「!?」」

 あわてて振り返ると、そこには一部の隙もない有能な秘書を思わせるリエラがそこにいる。

「前回も今回も、私が三人一緒に空間跳躍(テレポート)したのですが……ということで、分かりましたでしょうか?」

 リエラが落ち着いた調子で二人が理解したか聞く。

「…………ああ、分かった」

「……その……はい」

 驚いた二人はそんな返事しか返せない。


 その後、リエラはラティスの隣まで歩いて戻る。

「ということで疑問は解けたかな?」

 リエラに代わって、ラティスが話し始める。

 彰は何とか驚きから抜けて、頭が普通に回転し始める。

「そうだな。…………そういえば、おまえらはどこからここに空間跳躍(テレポート)してきたんだ?」

 いきなり出現する『方法』の分かった彰は、何となくその『経緯』が気になって質問する。

 ラティスは答える。

「僕の異能、記憶メモリーは思い出せなくしたい事象の近くにいないと使えないからね。……君たちが戦っている間に、ここから近くに空間跳躍(テレポート)してきて、先に仕事をしてから、頃合を見て君たちの前に現れたというわけさ」

「それでは、ここの近くに来る前はどこにいたんですか?」

 恵梨が会話を続ける意味合いでそれを聞いたのだが、


「ああ、ここに来る前はアメリカにいたよ~」


 ラティスからいきなりそんな答えが出てくる。

「アメ……リカ……?」

「…………あの……太平洋を越えた先にある国ですか?」

 二人とも目が点になる。

「そういえば言ってなかったね。……リエラの空間跳躍(テレポート)の有効距離は……。

 約一万キロメートルなんだよ~」

「?」

 具体的な数字を言われてもすぐにはピンと来ない恵梨だが、

「一万キロメートルだと!?」

 彰には分かったようだ。

「それって、二回使えば地球の裏まで行けるじゃないか!?」

「えっ!? ……あっ、確かにそうですね!」

 地球の円周が赤道付近で約四万キロ。つまり約二万キロで半周する計算だ。


「……そうだよ~。……というかそれぐらいないと、異能力者隠蔽機関の仕事ができないってば」

 ラティスが二人のあまりの驚き具合に苦笑する。

 その言葉に彰は疑問を持つ。

「……異能力者隠蔽機関って、全世界に支部みたいなのがあるんじゃないのか?」

 彰は勝手に漠然とそう思っていたのだが、ラティスは否定する。


「違うよ。……僕ら三人だけで、全世界の能力者に関する記憶を操作して回っているんだよ。……確かに能力者は全世界にいるけど……記憶を操作する能力は僕しかいないからね」


 ラティスはいつもどおり表情をニヤニヤさせながら言葉を続ける。


「能力者の状況が分かる探知(サーチ)やその他の能力を持つハミルと、事が起きたらすぐに現場に急行するための空間跳躍(テレポート)を使えるリエラと、記憶を思い出させなくする記憶メモリーが使える僕。……この三人が合わさっての異能力者隠蔽機関さ」


「「………………」」

 そのスケールの大きさに、二人はどう答えればいいのか分からないが、

「……すまんな」

 とりあえず彰は謝る。

「全世界って……そんなに忙しいなら、やっぱり人のいないところで戦った方が良かったよな。……おまえらに聞きたいことがあったからこんな方法を取ってしまったけど」

 火野との戦いを、この公園ですることに決めた彰は謝る。

「いいよそれぐらい~。……大体君らがそれを気にすることないよ~。それが僕らの仕事であり、罪滅ぼしだからね」

 その事について、ラティスは何とも思っていない。

「それで、話ってなんだい?」


 そのラティスの様子を見て、逆に気にする方が相手に迷惑をかける、と彰はさっきまでの調子を取り戻す。

 そして、恵梨がおかしな時期に転校したことについて疑問に思うことを記憶メモリーで消したのか? と聞いたり、他にもいろいろ気になっていることを聞いた。




「……組織っていうのはね。書類さえあればどうにでも動くから、記憶メモリーで書類を受け取る経緯さえ思い出させなくすればいいから楽なんだ」

「そうなのか」

 彰が感心する。そうやって話をしていると、

「……! ラティス様! ヨーロッパで能力者同士のケンカが発生しました! 一般人も周りにいる模様です!」

 ハミルが突然声をあげる。異能力者が何をしているのか分かるハミルの能力、探知(サーチ)でそれを知ったのだろう。

「そうかい」

 ハミルの方を見てうなずくラティス。彰も確認する。

「仕事か?」

「そうみたいだね」

「……本当に忙しいそうだな」

「まあ、しょうがないさ」

 ラティスはやれやれというジェスチャーを取って、

「さっきの君の話に対する答えだけどね。……僕に遠慮する必要はないよ。君は気にせず戦っていい。……能力者は何故か、自分や仲間を守るために戦いになることがよくあるからね」

「……ありがとな」

「……ありがとうございます」

 彰と恵梨が気を使って貰ったことにお礼を言う。


「いいよそれぐらい。子供を気遣うのが、大人の役割さ。

 …………リエラ、よろしく」

「はい。それでは空間跳躍(テレポート)を使います」

 ラティスが隣のリエラに指示を出した瞬間。


 三人の姿が消える。


 今頃ヨーロッパにいるのだろう。

「……すごいですね」

「……そうだな」

 残った二人はつぶやきあう。


 ラティスがしていることは人類のためだが、彰は自分のことで精一杯だ。

 それは自分の力が足りないせいだ。

 それに今回も自分がもっと強ければ、火野との戦いに恵梨を巻き込まずに済んだはずだ。


「……帰りますか?」

「……そうだな」


 ……帰ったら能力扱いの練習でもするか。

 彰はそう決めて、二人は公園を振り返らずにとぼとぼと歩き出した。






 汗をかいたまま気絶した上に公園のベンチに放置された火野。彼の気がつくのはこの先の夜中で、その後風邪を引いたのは言うまでもないことだった。

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