四十二話「火野との戦闘3」
土曜日の昼下がりの公園。散歩に来ていた人たちは驚いて、現実とは思えない能力者同士の戦いを見ている。
彰は走りながら剣を構え、火野に斬りかかる。ガキン! 火野は手に持った剣でその攻撃を受け止める。
しかし彰は受け止められた瞬間には風の錬金術を使うのに意識を集中。
すぐに、火野の頭上に緑のナイフが現れる。
「くらえ!」
「っ!」
垂直に断ち切るように落ちてきたナイフを火野は身をよじることで回避。しかし、頭上に気を取られた火野。その隙を狙って彰が受け止められていた剣を引いて、再度斬りかかろうとする。
が、目の前の空中、彰の腰ほどの高さに炎が浮いているのに気づく。すぐにそれは剣の形を成して金属化。彰に襲いかかる。
「ちっ!」
彰はあわててそれを剣で受け止めるが、動き出そうとした瞬間に無理な防御を入れたため体勢が崩れる。
「もらっ――」
それを見て、火野が追撃を入れようとするが、
タイミング良く、火野に青のナイフが飛来する。
「おっと!」
とっさに火野は攻撃の目標を変更。飛んできたナイフを打ち払う軌道で剣を振るう。
青のナイフによる攻撃は失敗したが、しかし彰が体勢を立て直すための時間は得られる。
彰はいったん仕切りなおすためにバックステップで距離を開ける。
「大丈夫ですか!」
青のナイフを投擲した恵梨が声をかける。
「なんとかな」
彰がそれに答える様子を見ていた火野は、
「水谷は本当に戦闘人形に騙されているんやな……」
彰が戦闘人形だと信じて疑わない火野は的外れな感想をつぶやく。
「……まあいいか。……勝てばいいんや」
火野は下げていた剣先を上げる。
「そして正義は必ず勝つ!」
どこまでも自分中心な火野は彰に向かって距離を詰めていった。
彰は二日前に火野と戦って、怪我を負いそして逃げている。
しかしそんなことお構い無しに彰は勇敢に火野に斬りかかって行く。ケンカ慣れしている彰は心身ともにタフだ。
恵梨は二人の戦いに巻き込まれないために、また彰の作戦のために二人の戦いの場からは離れたところに居る。
その恵梨の遠距離からの援護があるのだから、もともと剣の技術では負けている火野は押されている。
前は相手の攻撃を待って反撃していた火野だが、それは彰の実力が測れなかったから。しかし彰の実力が分かっている今、自分から攻撃に行っても劣勢は覆せない。
数回目の攻防が終わった時だった。
「やっぱりな」
彰は火野と戦っての感想を伝え始める。
「どうしておまえは、この前俺を壁に叩きつけた能力を使わないんだ?」
「…………そんなこと関係ないやろ」
火野はいらいらしくしながら、そう答えた。
彰は戦いの前からの考えを述べる。
「それは簡単だ。……炎の錬金術をそんな風に使ったら魔力を一気に消費するからだろ」
「…………ちっ!」
火野はいらいらしさそのままに舌打ちするが、それはつまり答えであると認めたものだ。
「? 炎の錬金術を使うって、どういう意味ですか?」
恵梨が彰の言葉に疑問を浮かべる。
「……恵梨、炎とは何なのか分かるか?」
質問に質問で返される。
「炎ですか? ……炎といえば、熱いとか、物が燃えてるとかですかね」
「……まあそれもあるが」
彰は望む答えが出なかったため、自分で正解を発表する。
「炎とは燃焼熱。つまりエネルギーだ」
「はい」
「………………」
「……それで何なんですか?」
続きの言葉を待つ恵梨に、それで分かるだろうと思っていた彰はがくりとうなだれる。
「……目の前に居る火野は炎の錬金術者だ。炎を自在に操ることができる。……つまりなエネルギーをも操ることができるんだよ。……俺が吹き飛ばされた原因は火野に強大な運動エネルギーを強制的に与えられたからだ。……そうだよな?」
最後は火野のほうを見て付け足す彰。
「……ああそうだよ」
火野は開き直って強く肯定する。
つまり彰は吹き飛ばされたのではなく、高速で移動させられたのだった。
「そうだったんですか」
恵梨が感心する。
「それが分かれば二つの弱点が見つかる。……一つは火野の領域内でしか吹き飛ばすことはできないということ」
領域とは錬金術を使える範囲のことだ。炎の錬金術の応用系である念動力も当然その中でしか使えない。
「二つ目に、本来燃焼熱を扱う炎の錬金術で無理やり運動エネルギーを扱えば、それだけ魔力の消費が激しいということだ」
魔力とは能力を使う際に消費する物である。その魔力を一気に消費すると、同時に体力もかなり消費するようだった。
「そこまで分かっているとはな」
火野は静かに認め、
「……だがそれが分かってどうするんだ?」
彰に問いかける。
「……どうして俺が公園を戦場に選んだか分かるか?」
唐突にそんなことを聞く彰。
「?」
「それはな、……念動力で叩きつける壁がないからだよ!」
三人の戦う公園は開けたスペースだ。裏通りのように近くに壁はない。
「それさえなければ、念動力の威力は半減だからな!」
確かに火野の念動力は敵を高速で動かすだけの物だ。叩き付けるものがなければ、威力は出ない。
弱点を指摘した彰は剣を手に持ったまま火野に向かって走り出す。そして走りながら頭上で剣を形成。空中で制御。
「くらえーー!」
彰は手に持った剣で右から、空中の剣で左から火野に斬りかかる。
しかし、
「馬鹿だろ、おまえ」
火野の呆れた声が突き刺さる。
瞬間、彰の体は地面に叩きつけられた。
炎の錬金術の応用。念動力だ。
その代償として、息を切らしながら地面の彰に告げる。
「ハァ……ハァ。壁がなければ地面に叩きつければいいだけだろ」