四十一話「再戦宣言」
「明日からはGWだが、羽目を外し過ぎないように!」
帰りのホームルームで担任の畑谷がそう締めくくって、
「起立、礼!」
委員長の彰も勢いよく号令をかけ、
「「「ありがとうございました!」」」
クラス中の生徒が元気よく挨拶をする。
「本当に気をつけろよ!」
畑谷が最後に付け足して教室を出て行く。
そうして放課後が来る。
「来たーーー!!」
元気の良い生徒が意味もなく叫ぶ。
それが普通の行動のように思えるほどに、教室中に大小の歓声が沸いていた。
仁司と美佳も教室の隅で話し合っている。
「やっとGWだ!」
「先に言っときますけど、宿題はありますからね」
「それは置いといて。……とりあえず、今からどこか遊びに行こうぜ」
「……まあ、残り三人の予定を聞きましょう」
美佳が言った三人とはいつも一緒にご飯を食べる五人組の残り三人、彰と由菜と恵梨だ。
なのでとりあえず彰の席に向かった二人だが、
「彰なら帰ったわよ」
そう答えたのは彰の隣席の由菜だ。
「帰った?」
そう疑問を浮かべるのは仁司。
まだ放課後になってから三分も経っていない。つまり、彰はよほど急いで出て行った事になる。
「そう。何か今日は予定があるんだって。……けど、明日なら大丈夫って言ってたわよ」
「……ならどこか行くのは明日にしましょうか。三人で行ってもなんか締まらないですし」
「そうだな」
三人は明日の予定を漠然と立てて今日は帰る事にした。
帰りの挨拶からすぐに教室を飛び出した彰と恵梨。
予定とはもちろん火野との戦いだ。
午前は授業の後、掃除などもあったので現在時刻は一時。火野との戦いは開始時間を三時としていたのでまだ少しは余裕がある。
「車もあったんですね」
「親が出張で出て行くまでは使っていたからな」
二人は家に帰って軽く昼食を食べて、彰が提案した作戦の準備をすることにした。
彰家の車庫での会話である。
「それで本当にあるんですか」
「確かこっちに保管していたはずだが……」
車庫の内部は窓がないために暗い。車庫の大部分のスペースは当然車が埋めているため、探し物は隅にあるはずだった。二人は壁伝いに歩きながら作戦に必要なそれを探す。
「あれですか」
「ああ、それだ」
恵梨の指差す方向を見て、彰は声をあげた。
探し物は見つかり、戦いの準備は整った。
時刻は二時過ぎ。二人は動きやすい服装に着替えて家を出て、戦い場所の小野公園を目指す。
小野公園は彰の家の近くにある公園だ。そこそこの広さと緑があり、土曜の昼の今も散歩している人がいる。戦闘人形と戦った場所でもある。
二人は早めについて、火野を待っておこうという予定だったが、
「よお、遅かったな」
「「………………」」
好戦的な少年、火野はすでに公園にいた。時刻はまだ二時過ぎであるのにだ。
彰は驚いて、火野に理由を聞く。
「……どうしておまえはもういるんだ?」
「簡単や。俺が昨日もここで野宿したからやな。……だいたいここに来るだけで金が結構やばいんや」
火野が住んでいるのは結上市からかなり遠いところだ。夜行バスでここまで来たようだが、それに金をかなり使ったらしい。
「……学校はどうしたんですか?」
「サボりや」
火野は本来、彰と同じ高校生である。
「……おまえは本当に後先考えない馬鹿なんだな」
「……私も否定し切れません」
「はは……よく言われるぜ」
一瞬和やかな雰囲気が訪れる。
しかしそれは仮初めの雰囲気。この場でこれから起きるのは戦いだ。
「それでは予定よりも早いけど、戦いを始めるとしますか」
火野はその言葉とともに、臨戦モードに入る。
「ああ、そうだな」
彰もそれに応じ、二人の間の緊張は高まる。
「「………………」」
「……ちょっと待ってください」
だが、恵梨はそれを止めに入る。
「……どうしても戦いをやめることはできないんですか? ……火野君。彰さんは戦闘人形ではないんです。信じてもらえませんか」
恵梨はこの期に及んでも火野の誤解を解こうとする。
対して火野は緊張を落とさずに一言。
「無理や。……俺は自分自身の直感を信じる。……つまりおまえは本当は戦闘人形で、水谷はだまされているとな」
「……ぶっちゃけ俺はおまえに逃げっぱなしは嫌だ、というだけでしかないんだがな」
ある意味二人とも己の信念に乗っ取った発言。
「……そうですか」
それを聞いて、恵梨は戦いを止める事を諦める。
火野は右手を横に突き出す。
そして火野の右手の中で炎が燃え盛り、二、三秒遅れて炎が収束して赤色をした金属製の剣が握られる。
彰も右手を横に突き出す。
そして、一秒ほど遅れて、彰の右手の中で風が吹き荒れ、収束して緑色をした金属製の剣となる。
恵梨も持っていてペットボトルを逆さにする。
水は空中にとどまり、剣の形に変え金属化。恵梨の手に握られる。
「戦闘開始や!」
火野の叫びとともに戦いは始まった。




