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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
二章 炎の錬金術者、来襲
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三十九話「電話」

 プルルルル。プルルルル。プ、ガチャ。

 三コール目が鳴る前に火野は電話に出た。

「こんな夜遅くにすいません。水谷恵梨です」

「何だ? 電話なんて珍しい事やな」

 律儀な恵梨の挨拶に、火野は陽気な声で応対した。

 恵梨は携帯をスピーカーモードにして、隣の彰にも会話が聞こえるようにする。

「……で、どうしたんか? もう少しであれがあるっていうのに、今言わないといけないことなんか?」

 せっかちな性格の火野はいきなり本題を聞いてくる。恵梨としてもそちらの方が助かる。

「単刀直入に聞きます。……今あなたは結上(ゆいがみ)市に居ますね」

「……おっ! すごいな、何で知ってるんか? 親にも妹にも言わずに出て来たっつうのに」

「私の知っている人があなたに襲われたからです」

「?」

 その言葉に火野は考え、一拍遅れて返事が返ってくる。


「……俺がこの町に来て襲ったつうのは、戦闘人形(ドール)しかいないが……」


 …………はぁ。恵梨は落胆する。

 彰が推測した通り、火野は彰を戦闘人形だと勘違いしているようだ。恵梨は誤解を改めさせ始める。

「その人は戦闘人形(ドール)ではありません。……私のメールを読んだのなら分かるでしょう。あなたが襲ったその人は、高野彰さん。私を助けてくれた人です」

「…………???」

 火野は頭に疑問符を浮かべる。

「そういえばそんなやつがいるってメールに書いておったな」

「気づいてなかったのかよ! ていうか俺、名乗っただろ!」

 携帯から聞こえてきたその言葉に、火野には伝わらないがおもわず彰は文句する。

「でもな……あいつがその協力者だってのはありえんだろ」

「……何言ってるんだ、こいつ!?」

 どうやら火野は認める気がないらしい。よほど自分の考えが正しいと思っているのだろうか。

 一人でヒートアップする彰を、恵梨は苦笑いで見ながら、

「どうしてですか?」

「だってそうやろ。


 そいつは簡単にケンカに応じて来たんやで。戦闘が好きな戦闘人形(ドール)らしいやろ」


「………………」

 否定できない事実に黙る彰。


「……そ、それは。……でも、その人は高野彰って名乗っていませんでしたか?」

 恵梨は別の角度から火野に理解を求める。

「そうやったな……。そうか! あいつはその協力者に、自分の罪をかぶせようとしたんやな!」

「違うだろ!」

 火野の自分に都合のいい思考に、彰はツッコミを入れる。

「…………私がメールに書いた通り戦闘人形(ドール)は無口なんですよ」

戦闘人形(ドール)は言語能力を手に入れたんやな!」

「黙れ!」

 電話口にいない彰はどれだけツッコミしても、火野には届かない。

「……その、戦闘人形(ドール)は敵の研究者が回収して、どこかに行ったんです」

「つまり、再びこの地に舞い降りたっていうわけやな」

「………………」

 彰は口を開く気力さえ失う。


「……それで、どうして水谷は戦闘人形(ドール)をかばおうとするんや?」

 質問攻めにされた火野が逆に聞いてくる。火野の頭の中では、戦闘人形(ドール)=彰だ。

「……か、かばうって………………はぁ」

 ここまで人の言葉を理解しようとしない火野に腹が立ったのだろう。


 恵梨が笑っている。


 その顔を見て、彰が背筋をゾッとさせる。

「……あのですね。ちゃんと話を聞いてください。理解してないようですが、あなたが襲ったのは戦闘人形(ドール)ではなく、高野彰さんなんです」

 声音も冷ややかな物になっているというのに、火野は陽気な声で、


「……! そうか! 水谷は戦闘人形(ドール)にだまされてるんやな!」


「………………」

 恵梨は笑顔を消して、全く感情のない顔をしている。

 その雰囲気の変化に気づかずに、火野は妄言を垂れ流す。

「気をつけろ、水谷! そいつは危険やぞ! それはお前が一番分かっているやろ! …………はっ! もしかして洗脳されているのか!? 科学技術研究会とかいう怪しげな組織やったし、それぐらいのことはできるかもしれん。……水谷! 正気にもど――」


「……あんたこそ正気に戻りなさい」


「!!」

 恵梨が感情を削ぎ落とした声で告げる。

 電話を通じて、火野がビクッ! とした気配を感じる。矛先にないはずの彰でさえも恐怖を感じるほどだった。

「………………」

 そのまま無言の恵梨。

 時計の短針が一周するほど待った後、彰はそーっと話しかける。

「……あのー、恵梨さん」

「………………」

「ここからは俺に任せてもらえますか?」

「………………」

 ホイ、と恵梨に携帯を手渡される。


「……電話変わったぜ」

 電話の先で火野が恵梨から電話が変わったことで安堵する雰囲気が伝わってくる。しかし声に聞き覚えがあったのか、

「お前は……戦闘人形(ドール)だな!」

「違うわ!」

 あいかわらずな火野。

「……まあいい。どうせ馬鹿なおまえの誤解は正すことができないかもしれないと思っていたからな」

「俺が馬鹿だと……よく言われるわ」

「……自分が馬鹿だと自覚しているだけ、仁司よりはマシか」

 ひどいことをつぶやきながら、友の顔を思い浮かべる彰。


 彰はこんなときのために考えていたことを話す。

「それより、馬鹿なお前にも分かりやすいようにもう一回勝負しよう」

「勝負やと?」

「ああ、勝負だ。……戦って俺が勝ったらおまえは今後一切俺に手を出さない。その代わり、お前が勝ったら俺をどうしてもいいぞ」

「あ、彰さん! 何を言ってるんですか!」

 心配する声をかける恵梨は通常運転に戻っている。


「はは。分かりやすいな……だが、おまえは俺に一回負けたことを忘れているのか?」

「逃げただけで、負けてはいないだろ。……まあ俺が不利なのは分かっているから、こちらは恵梨も一緒に戦う。……二対一だ」

 さて、この条件が通るのか。

 火野には不利な条件だから、彰はもめる事も覚悟していたが、

「水谷も戦わせるだと! まさかおまえ本当に水谷を洗脳しているのか!」

「………………」

 見当違いなことを言う火野。もはやこのノリにはついていけない彰。

「……分かったわ。俺がおまえを倒して、水谷から洗脳をといてみせる。

 それこそが正義やろ!」


 悪を倒す俺はかっこいい、みたいなことを火野は思っているのだろう。

 彰はそう分析する。

 まあ、そんなヤツじゃなければわざわざ戦闘人形(ドール)を倒しにこの町にやってくるとかできないだろう。

 誤解で俺が狙われていなければ、仲良くできたかもしれなかったな。


 二対一の条件も飲んだようなので、彰は考えていた時間と場所を火野に告げる。

「それでは明日の午後三時、小野(おの)公園に来い」

 小野公園は彰の家の近くの公園だ。戦闘人形と戦った公園でもある。

「分かったわ。三時に小野公園だな。……尻尾巻いて逃げ出すなよ」

「そっちこそな」

 お互いが挑発しあった後、彰は電話を切る。


 こうして火野との再戦が決まった。

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