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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
二章 炎の錬金術者、来襲
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三十六話「放課後デート2」

 ウィーン。と開く音がして、自動ドアの前に立った二人をスーパー内に迎え入れる。

 スーパー内は少し冷房が入っており、春のちょっとした暑さとは無縁であった。

 彰が入り口付近においてあるカートを用意し、由菜がそれにかごを載せる。

「それで今日は夕食に何を作るつもりなの?」

 入り口付近の野菜売り場で、カートを押している彰に、由菜が献立を聞く。

「おととい、昨日がカレーだったから、今日は魚系だな」

「そう。で、具体的には何を作るの?」

「……確か鮭が特売だったから、そうだな鮭のムニエルとかはどうだ? 家に小麦粉もバターもあったし、カタカナの名前なのに反して結構簡単にできるしな」

「へえ、おいしそうね」

 彰は料理が上手い。というか、どんなことでもある程度はこなせるだけの器用さが彰にはある。

「付け合わせには……」

「見て、彰! このキャベツ安いわよ」

「一玉90円か。……今日使う予定はないが、買っておこうかな」

「サラダでも作らないの? 野菜を切るぐらいなら私もできるんだけど」

「冷蔵庫にレタスが残っていたからな。今日はそっちを使わないといけないな。……ということでサラダは頼んだぞ」

「任せといて」

 彰と由菜は夕食のことをわいわいと話しながら食材売り場を回る。


 次の魚売り場に向かいながら、由菜はこう思っていた。

 二人で夕食の献立を考えながらお買い物。

 何かこれって――


「夫婦みたいねー。二人とも」


「!」

 二人の後ろから声がする。

 由菜はまさにその言葉どおりに思っていたことなので、一瞬自分の口から出てきた物かと錯覚した。


「二人でお買い物?」

 振り向くと、二人とも交流のある近所のおばさん、佐藤がそこにいた。

 年は四十ほど、体形は少し太っていて、趣味は昼間のワイドショーと近所の主婦との井戸端会議という典型的なおばさんである。

 彰の家、由菜の家ともに、ときどき料理を作りすぎたと言っておすそ分けをくれるありがたい人でもある。

「こんにちは、佐藤さん」

 彰がカートごと振り返って挨拶する。

「それと、俺たちは夫婦ではなく、幼なじみですよ」

 佐藤の夫婦云々という言葉を最初から冗談だと思っている彰は簡単に流す。

「……え、え、えと」

 しかし盛大にあわてだして、その言葉を流せない少女が一人。


 佐藤は由菜の肩をガッ! と掴んで、彰から離れて耳元でつぶやく。

「その初々しい反応いいわね!」

「……あの」

「由菜ちゃんは、二人きりで買い物なんて夫婦みたい、とか思っていたのよね?」

「…………その……」

 図星である。

「分かっているわ。……幼い頃からずっといっしょで兄弟のように思っていた幼なじみ。いつもどこに行くのも一緒の二人。……しかしある日少女は、思いがけない少年の一面を見て恋に落ちる。……そういうことでしょ」

「…………///」

「そして突如見知らぬ女の子が彼の元に現れて、更に加速する恋!」

 由菜の顔を覗きこむ佐藤。

「……私たちはその三角関係を見守っているわ!」

「………………///」

 完璧に面白がっている顔だが、由菜自身顔を赤らめているため反論もままならない。

 佐藤は二人の家の近所のため、恵梨が何らかの事情で彰の家に居候していることは知っている。

「私は由菜ちゃん派よ。……確か高山さんが恵梨ちゃんを応援していて、田中さんは由菜ちゃん派だったかな……」

「……そ、そんなのあるんですか?」

 佐藤がつぶやいているのを聞く限り、近所に住んでるおばさんたちの井戸端会議でもこの話は盛り上がっているようだった。


「いきなりどうしたんですか?」

 そこに彰がカートを押しながら寄って来る。

 ちなみに、彰は年上には自然に敬語が出てくる。

「それはね――」

「ちょっと、佐藤さん!」

 自分よりもかなり年上の佐藤に、同級生とふざけあうときの様に手で口をふさぎに行く由菜。

「ふごっ! むごっ!」

「……お、お願いですから、話さないで下さい」

 由菜の必死の嘆願に、佐藤は首を縦に振る。

「ぷはっ! はぁ、はぁ。……もう。冗談なんだからそんな必死にならなくてもいいのに」

「…………?」

 彰は突然始まった一連の流れについていけない。


「はぁ、はぁ。……それで、彰君は今日何を作るつもりなの?」

 佐藤は由菜との約束どおり、何でもなかったように話を変える。

「鮭のムニエルでも、と思っていますけど。……佐藤さんは何を作るつもりなんですか?」

「肉じゃがよ。主人が好きでね。……多めに作るから、明日たぶんおすそ分け出るわ」

「毎度ありがとうございます」

「そうそう、アドバイスだけどムニエルはレモンを少し絞ると味が引き締まるわよ」

「それは初耳ですね」

 会話の途中で佐藤は売り場から、『徳用刺身二人前 398円』を取って、自分のかごに入れながら、

「私はこれで会計に行くわ」

 と、佐藤はレジに向かいかける。


 が、去る前に由菜に小さく一言。

「彰君の両親もいないんだし…………こうなれば、襲っちゃいなさい」

「さ、佐藤さん!」

 恵梨、母親に続きそう言われるのは三回目だが、当然慣れない由菜。

「それでは、また」

「丁寧にありがとね」

 佐藤は今度こそ二人の前から去った。

 いきなり現れて、由菜の心を荒らし、すぐに去っていく様は嵐のようであった。


「じゃあ続きの買い物をするか」

 彰は隣を見ると、

「う、うん」

 顔から赤みが引かず、さっきの言葉のせいで正面から彰を見ることのできない由菜が小さくうなずいた。

「? どうした? 熱でもあるのか?」

 由菜の姿を見て、元気がないのかと誤解した彰が由菜の額に手を当てる。

「ひゃっ!」

 突然の行動に由菜は更に顔を赤らめていく。

 か、顔が近い…………。

「うわっ! 更に熱くなったぞ! おまえ大丈夫なのか!?」

「………………」

「しゃべる元気もないのか!?」

 あくまで彰の顔は由菜を気遣っていて真剣そのものだ。

 その顔がどんどん由菜に近づいていくのだから、由菜が更に顔を赤くして、それに彰が心配するという連鎖が起きている。

「…………その」

「何だ!?」

「…………えと」

「俺は何をすれば良い?」

 更にグッ! と顔を近づけてきた彰に、由菜の感情の針が振り切れて、


「今すぐ離れなさいーー!!」


 彰を思いっきり突き飛ばす。

 彰はバランスを崩してきれいに滑って行った。

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