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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
二章 炎の錬金術者、来襲
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三十四話「襲撃の翌日」

「おはよー、恵梨」

「おはようございます、由菜さん」

 火野の襲撃があり、その後彰の過去話や能力者についての話をした翌日。

 彰の家の玄関から出てきた恵梨を見て、それを待っていた由菜が挨拶した。

「彰さんはもう出ましたよ」

「分かってるわ」

 この場に彰の姿はない。

 彰は一年二組の委員長として呼び出しを受けていたため、朝早くに家を出ていた。

 昨日火野と戦って傷ついたはずなのに元気なことである。


 学校に向かいながら二人は話し出す。

「そういえば彰さんは何の呼び出しなんですか?」

「文化祭についての会議よ」

「えっ! ……文化祭はいつあるんですか?」

「六月よ。……秋に文化祭をするところも多いけど、十月には体育祭もあるから、行事があまり重ならないようにということで斉明高校では六月にするのよ」

「まだ四月なのに早いですね。……あっ、おはようございます!」

 後ろから追い抜いてきた自転車通学の女子クラスメイトに挨拶する恵梨。

「二人ともおはよう! また後でねー」

 背中側の恵梨と由菜に向けて手を振りながら、自転車は進んでいった。


「……恵梨もすっかりいろんな人と仲良くなったわね」

 いきなりで声を出せなかった由菜が感心する。

「そんな。……みんな良い人だからですよ」

「恵梨は入学式からそんなにしないうちに転校してきたから、一緒に入学したようなものよね」

「…………」

 由菜がそこに疑問を覚えられないことに、恵梨はラティスの異能、記憶メモリーを思い出す。 

 そして、自分が能力者であることを意識してしまう。

 普通の人間でないことを意識してしまう。


 …………でも。

「そんなこと関係ないです」

 能力者も、能力が使えるだけでベースは同じ人間だ。

 自分がそこに引け目を感じる必要は無い……はずだ。


「どうしたの、恵梨?」

「えっ! ……えと、その、なんでもないです」

 隣に由菜がいるのに自分の思考にはまりすぎていたと恵梨は反省する。

「そ、それで、何で朝から彰さんが呼ばれたんですか?」

 あわてて由菜に元々していた話を振る。

「ああそれね。……確か、文化祭ではクラス単位で出し物とか模擬店をするからそれが被らないように調整する会議とかだったっけ」

「朝からそんな話なんて熱心なんですね」

「部活動もいろいろ出店したりするから各部長もその会議に出席して、人が多すぎて大変らしいわよ。

 …………それで恵梨、昨日の話聞いてもいい?」

 由菜が話を変えてくる。


 昨日の事とは彰が火野に襲われた話だろう。由菜は途中で帰ったため、余計に気になっていただろうから。

 ちなみに昨日火野襲撃の真相が発覚した後、火野の誤解を解くために電話をしようとしたが、夜も遅かったため今日の学校から帰ってから電話することにした。


「それはですね………………」

 あれ?

 恵梨は説明を始めようとして、由菜にどう説明していいのか迷った。

 まさか、能力者が襲ってきたとは言えない。


「えーと、……恵梨は聞いたの?――」

 言いあぐねていると、由菜の方から声をかけてきた。

「――彰が昔、何をしていたのか」

「昔? ……その、不良だったという話ですか?」

「そう、それ。……私はそのころ彰がケンカで負かしたヤツが、今さら復讐に来たのかと思ったんだけど……」

 由菜が彰の傷ついた姿を見て、最初に発した「復讐」という言葉はそういう意味だったのかと、納得しながら恵梨は否定する。

「それは違いますよ」

「? ……なら何なの?」

「…………そのいろいろ事情がありまして」

 能力者のことが言えない以上、言葉を濁すしかない。

「そうか…………」

「……?」

 言葉では納得しているのに、表情では納得していない由菜。

 恵梨はそれが気になったが、

「さあ、急いで学校行きましょう!」

 由菜はすぐにその表情を引っ込めて、元気な表情を見せ、いきなり走り出した。

「ちょ、ちょっと、由菜さん! 学校に遅れるというわけでもないのに、何でですか!」

 恵梨も由菜の後を追って走り出した。




 二人とも学校に遅刻せずに着いた。

 会議に行っていた彰は朝礼が始まるぎりぎりに教室に滑り込んできた。




 一時間目が終わり休み時間。

 授業から開放された生徒たちがつかの間の休息を過ごす中、由菜は隣の彰に話しかけた。

「おはよう。で、どうだったの会議は?」

 朝、彰が忙しかったため、今日初めてとなる会話を始める由菜。

「ああ、おはよう由菜。……会議だけどな、たくさんの人がみんな自分の意見を主張するもんだから本当ごちゃごちゃしていてまとまりがなかったぜ」

「……ここの文化祭ってそんなに熱心な雰囲気なの?」

「あの会議を見る感じそうだな」

 高校一年生のため、まだ斉明高校の文化祭の雰囲気を味わっていないが、早くも自分の机にもたれかかってげんなりする彰。

「今日の放課後も会議だってさ。……GW明けまでもう会議がないのが救いだが」

 文化祭に関しての会議はGWまではもうなく、だからこそ早めに準備にかかりたい人たちが取り決めを決めるのにヒートアップしているという印象が見られた。

「そんな雰囲気なのに、文化祭までに間に合うの?」

「……俺も心配になってきた。……だが、今日は生徒会長が休みだったからなー」

「生徒会長ねえ……」

 入学式で挨拶した生徒会長の雰囲気を由菜が思い出していたところに、


「何の話をしているんですか?」


 恵梨が会話に入ってくる。

「ああ、今日の会議がハチャメチャだったって話だ」

「そんなに言うほどなんですか?」

「そんなに言うほどなんだ」

 彰は言葉を返しながら、思いついたことがあった。

「そうだ、恵梨。今日の放課後、会議で遅くなるから先に帰っておいてくれ」

「そうなんですか。では、分かりました」

「……それと昨日の食事当番、俺と変わってもらったから今日は俺が作るよ」

「そんな気にしなくてもいいですのに。……でも冷蔵庫に何も入ってないので、買い物しないといけないですよ?」

「俺が帰りに買ってくる」

「会議で遅いんじゃないんですか?」

「言うほどは遅くならないから大丈夫だ」


 彰の言葉に、聞いていた由菜が反応する。

「彰、どれくらい遅くなるんだ?」

「ん? ……そうだな。そんなに長くは会議が出来ないと言っていたし一時間くらいだと思うが」

「それなら私も放課後、数学の再試験がちょうど終わったころだし一緒に帰ろ?」

「そうか………………再試験?」

「あっ!」

 墓穴を掘ったと声をあげる由菜。

「……おまえには、あれほどまじめに勉強をしておけと言ったのに」

「そ、そうは言っても、数学は私には難しいんだ!」

 由菜が主張するも、勉強のできる彰には理解しがたい。

「だから、ちゃんと日ごろから勉強しておけば、あんな小テストは――」


「あの、彰さん!」

 説教モードに入ろうとした彰を止めた声は恵梨だ。ちなみに恵梨は小テストに合格していた。

「それなら、由菜さんと一緒に買い物に行ってはどうでしょうか!?」

「……買い物?」

 いきなり説教を止められて少し不満そうな彰だったが、それでも恵梨の提案を吟味(ぎんみ)して、

「……そうだな。由菜が嫌じゃなかったら一緒に行くか?」

「えっ!」

 二人で買い物に行くとは、簡単に言えば買い物デートだ。

 由菜は驚いて恵梨を見ると、片目をウィンクしている。

 恵梨の目が『私に任せなさい』と告げている。

「ついでに、この前言っていた喫茶店に行くという約束を果たしてみてはどうでしょうか!?」

 恵梨は更なる提案をする。


 恵梨が言う約束というのは、『恵梨と彰が同棲している』という事実を口封じするために彰が由菜にした約束だ。

 実際その後ばれたため無駄になったのだが、それでもその約束は生きていた。


「そうだな……けど、それだと帰りが遅くなるぞ?」

「ちょっとぐらいなら大丈夫です。……ほら、由菜さん。行きたいですよね?」


「え、え!? ……その………………………………」

 由菜はたっぷり逡巡した後、

「………………迷惑じゃないなら、……一緒に行きたい」

 教室の喧騒(けんそう)に混じりきってしまいそうな声で由菜はその案に賛成する。


「では、そういうことで!」

 第三者の恵梨が強引に進めて、彰と由菜の放課後デートが決まった。

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