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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
二章 炎の錬金術者、来襲
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三十三話「襲撃の真相」

 恵梨が送ったメールの本文はこのようなものだった。


『このようなことは初めてですが能力者に関して少し事件が起きたため、報告させてもらいます。


 まず初めに事件の始まりですが私、水谷恵梨の両親、水谷(まこと)と水谷月代(つきよ)が先日お亡くなりになられました。

 科学技術研究会と呼ばれる組織が、何らかの目的のため二人を殺したのです。

 そして、研究会は私も殺そうとしたのですが私は逃亡しました。しかし、一週間ほどの逃亡生活の後、結上市という場所で私は見つかって殺されそうになりました。

 けれど、私を助けてくれる高校生がいました。高野彰さんです。


 二人で協力して追っ手を退けましたが、翌日、科学技術研究会は新たに戦闘人形(ドール)と呼ばれる、風の錬金術者(アルケミスト)の少年を差し向けてきました。

 当然私は混乱しました。皆さんもご承知の通り、現在《風の錬金術者(アルケミスト)の家系》の風野(かざの)家には、娘の彩香(あやか)しかおらず息子はいません。風の錬金術者(アルケミスト)の少年がいるはず無いのです。

 その戦闘人形は無言で、無慈悲に戦う、戦闘用の機械みたいな人でした。私は殺されそうになりましたが、そこでまた助けてもらいました。

 そして、彰さんも風の錬金術者(アルケミスト)だったのです。

 二人で戦闘人形を退けて、一応の平和を取り戻しました。


 その家系に属していない能力者というのは初めてで、私には訳が分かりません。

 何か分かることのある方は教えてください。


 それに科学技術研究会には能力研究部門なるものがあって、能力者を実験の対象として狙っているらしいです。

 気休めかもしれませんが、気をつけてください。


 また、今度の能力者会談に彰さんを連れて行きます。

 本格的な話はそこでします。


 水谷恵梨』




 能力者会談……?

 と疑問符を浮かべながら、彰はメールの文面を見て一言。

「何か言葉使いが堅いな」

「……能力者の中には大人もいますので、形は整えた方がいいと思いまして。……それにこんなことは初めてで緊張して」

「こんなメール送るのは初めてなのか?」

「……言いましたでしょう。本来能力というのは目的のないもの。当然敵など本来はいないものですから」

「……つまり、科学技術研究会みたいな明確に能力者を害する存在は珍しいのか」

「はい」


 目的があればそれを邪魔する敵もできるが、この能力にはそんな物がない。

 日常を生きていれば、現代は平和なので普通は命を狙われることもない。

 物語の中の世界とは違うものだと、彰は改めて認識しつつ恵梨に訊ねる。


「大人にも送ったって、これは火野だけに送ったんじゃないのか?」

「違います。日本の能力者全員です」

「全員!? そんなことできるのか!?」

「? メーリングリストを使えば簡単ですよ」

「そういう意味じゃないんだが……」

「?」

「何故恵梨が日本の能力者全員の連絡先を知っているんだ?」

「メールにも書いてあった通り、能力者会談では日本の能力者が全員集まるんです。そこで聞きました」

「………………」

 彰が能力者について知らないことはまだまだあるらしい。

 いろいろ聞きたいが、今は火野に関しての話が先だろう。


「それで、このメールを見て火野は俺が能力者だと知ったのか」

「そうみたいですね」



 ラティスの記憶メモリーで俺と恵梨しか戦闘人形(ドール)との戦闘を覚えていないのだから、このメールでしか俺が能力者だとしか分からない。

 つまりこの文面から、火野は何故か俺を敵だと思ったようだ。

 恵梨の話によると、少し正義感の強い普通の高校生であるはずの火野が何故俺を狙ったのか?


「ん?」

 ………………正義感が強い……?

 そうだ。正義感が強いやつがこのメールを見て思うことは何か。

 彰は火野の気持ちを想像しながら、もう一回メールを読む。


「たぶん……戦闘人形(ドール)が許せないってことだろうな……」

「彰さん?」

 つぶやきに反応した恵梨が呼びかけるも、彰は自分の思考に没頭している。


 火野は戦闘用の機械であるような戦闘人形(ドール)を、その存在かその所業か、どちらかは分からないが許せないと思うだろう…………。


「そうか!!」


 そこまで考えたとき、彰にひらめきが訪れる。


 さっき恵梨から能力者について説明されたとき引っかかったことが、火野のセリフが、彰の脳裏で蘇る。

 そこから、一気に推測が組みあがる。


 火野は勘違いをしている! だからあんなことを言ったのか!


 彰は自分の推測を強化するために、恵梨に質問する。

「恵梨。火野は正義感が強い。それは確かだな」

「はい」

「そして、猪突猛進の馬鹿野郎でもあるよな?」

「……そ、それは」

 恵梨は人の悪口は言えない性分である。

「言い方が悪かったか? ……なら、火野はそこまで頭が良くないだろう?」

「……まあ、はい。……なんで分かったんですか?」

 恵梨がおずおずと認める。推測通りだ。


「火野が何故俺を狙ってきたのか分かったぞ」

「えっ? どうしてですか?」

 恵梨のもっともな疑問に、彰は順を追って説明する。

「まず、火野は恵梨から送られてきたメールを見た。そして正義感の強い火野は戦闘人形(ドール)のことを許せないと思った」

「火野君のことですから、そうなりそうですね」

「そして恵梨のメールには書いていないことがある。……戦闘人形(ドール)の外見的特徴と戦闘人形が戦闘の後どうなったかだ」

「……? それがどうしましたか?」

「関係あるんだ。火野はメールを読んで戦闘人形(ドール)を倒したいと考えた。しかし、メールから分かるのは、結上市という場所で戦ったという事と、戦闘人形(ドール)が無口な戦闘用の機械みたいなヤツということだけだ」


「……」

「だからその情報を持って、火野は戦闘人形(ドール)を倒しにこの結上市までやってきた」

戦闘人形(ドール)を!? ……というか、戦闘人形(ドール)はこの町にいませんよね!?」

「だから恵梨はメールに、『戦闘人形(ドール)は鹿野田が連れて何処かに連れて帰った』と書いていないだろう」

「…………そんなの火野君が私にメールを出して聞けばいいんじゃないんですか?」

「火野は猪突猛進なヤツなんだろう。思い立ったときには確認もせずに行動していたに違いない。……その方が俺の前でいった言葉とも合うしな」


「何て言ったんですか?」

「最初に会ったときだけどな。

『ん? しゃべれたのか? ……まあいい。俺の名前は火野正則。

 炎の錬金術者(アルケミスト)だ、って言ったら分かるか?』

 って言ったんだ」

「……?」

「しゃべれたのか? と火野は聞いているだろう。つまり、火野は俺が口を聞けるやつだと思っていなかったんだ」

「…………! そういうことですか!」

 恵梨も気づいたようだ。



「そう。火野は俺と戦闘人形(ドール)を勘違いして襲ってきたんだ」



 さっき引っかかったこと。

 俺と戦闘人形は、どちらも風の錬金術者(アルケミスト)の少年というところで似ている。

 それに、メールには戦闘人形(ドール)の外見的特徴を書いていなかった。

 だから、《風の錬金術者(アルケミスト)の少年》という特徴だけでこの結上市に戦闘人形(ドール)を探しに来た火野は、俺が風の錬金術を使うのを見て勘違いしたんだろう。


「そんな勘違いを……」

「しかも、その後俺は名乗ったのに気づかないなんて…………仁司並みの馬鹿だな」

「ははは」

 恵梨は乾いた笑みを浮かべるしかない。



「つまり、その誤解を教えてあげれば彰さんはもう火野君に狙われる事はないんですね?」

「………………」

「私は、火野君の連絡先は知っていますし簡単ですよ」

「…………そんな簡単にいくといいんだけどな……」

 解決策が見つかったのに彰の顔は優れなかった。

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