三十二話「能力者について1」
恵梨が学校の先生のように確認を取ってくる。
「能力は遺伝する、という所までは話しましたよね、彰さん」
つまりは能力とは努力で身に着けるものでなく、遺伝して持って生まれた才能のような物である。
「……ああ。それは聞いたが……それの何が関係するんだ?」
彰も教えられる生徒のように質問する。
「能力が遺伝するっていうことは、つまりですね。能力者の家系っていう物ができるんです」
えーと、つまり古い貴族制度みたいに《水の錬金術者の家系》だとか《風の錬金術者の家系》という物ができるのか。
そう言われてみればそうなるな、と彰は納得する。
「そして、能力は遺伝でしか身につけることができません。
ですから、何らかの能力者だったら、その家系に属してないといけないって事になりますね」
「そう……なのか」
彰は今の説明は腑に落ちたが、しかし気になることがある。
「なら、どうして恵梨は火野の名前を当てられたんだ?」
それでは、こちらが説明していないのに、炎の錬金術者の少年だってことだけで名前を当てられたことに納得できない。
「それは、今言ったことに関係があるんです」
「……?」
「私は炎の錬金術者の家系の方々を知っています。そして、炎の錬金術者の家系には一家族しかいません」
「ふむふむ」
「その炎の錬金術者の一家族は、四人家族です」
「?? ……その、少ないんだな」
「はい。父、母、娘、息子の家族構成です。つまりその中で少年は一人、火野正則君だけです」
つまり、炎の錬金術の能力を持っているのは世界で四人、その家族しかいなくて、炎の錬金術者の少年となると一人しかこの世にいないっていう事か。
「……だから、《炎の錬金術者の少年》って聞いたところで、誰かが分かったということか」
「そうです」
恵梨が肯定して、続けて説明する。
「ですから、彰さんの存在もおかしいんです」
「!? どうして、いきなり俺が罵倒される流れに!?」
彰は恵梨がナチュラルに馬鹿にしたと思い、
「? ……あっ! そ、そういう意味じゃないんです!」
恵梨はあわてて言葉を選びなおして、
「その、彰さんが風の錬金術者であることです」
「………………?」
たぶん今までの話と関わりがあるのだろうと考えを巡らすが、彰は思いつかない。
「どういう意味だ?」
「私は風の錬金術者の家系を知っていますが、そこに彰さんはいません。……能力は遺伝しないといけない以上、彰さんがその家系に属してないとおかしいはずですが」
「……俺の両親が実は能力者だったということにはならないのか?」
「では、彰さんの両親は誰から能力を遺伝したんですか?」
「………………」
そう言われると反論できない。
彰は頭の中で考えをまとめる。
つまり、その風の錬金術者の家系に属していないのに俺が能力者であるということは、つまりその家系に一子相伝の技術を、何故か部外者である俺が身につけているとかそういう状況なんだな。
恵梨にそう説明すると、
「大体のニュアンスは合っていますね」
彰の解釈は及第点のようだ。
「そうか………………で、何で俺は能力者なんだ?」
事態を正確に理解すると、彰は自分がどれだけイレギュラーな存在かを認識した。
「それは分かりません。……こんなこと私も初めて聞きましたから」
能力者に関して彰よりも知識のある恵梨にも分からないようだ。
「同時に科学技術研究会の戦闘人形の存在も異質なんです」
「……俺と同じように風の錬金術者の家系に入っていないのに、風の錬金術を使うからか?」
「その通りです」
つまり、彰と戦闘人形は敵同士だったのに、似た者同士だったということだ。
「ん?」
彰は何かが頭のすみに引っかかった。
「どうしましたか?」
そこに恵梨が話しかけてきて、その何かから意識のピントが外れる。
「……いや何でもない」
彰は話を変える。
「それで、恵梨は火野の事を知っているんだよな」
「はい」
「なら、どうして俺を狙っているのか分かるか?」
「……何ででしょうか?」
恵梨は続ける。
「彰さんには前も言った通り、私にとってこの水の錬金術は目的のない能力です。……会った事があるから分かりますが、火野君もそのはずです。本来火野君も、少し正義感が強いだけの普通の高校生のはずなんです」
「火野はこの町には住んでないんだろ」
「ここから、結構離れたところですね。……平日にこんなところにいて、高校は大丈夫なのでしょうか?」
「さあな。……でも、明らかに俺を狙ってこの町を探していたらしいぞ」
彰はそこまで言ってある疑問が浮かび上がる。
「……そういえば、なんで火野は俺が能力者だって知っているんだ? 戦闘人形と戦ったのを見たというわけでもないし」
噂を聞いたと言うのは無しだ。なぜならば、異能力者隠蔽機関のラティスが異能、記憶を使って、あの騒ぎのことを忘れさせているはずだから。
だから、答えの出ない問いのはずだったのだが、
「それなら、私が教えたからですよ」
恵梨が答えを持っていた。
「……どうしてだ?」
「メールを使ったんです。……科学技術研究会は能力者を狙っている素振りでしたよね。ですから、警告の意味もあわせて、知っている能力者に事態の顛末を記したんです」
そう言って、恵梨はリビングにおいてあるパソコンに向かう。
元々彰の家に設置されていた物だが、恵梨も時々使っていた。
「これです」
恵梨はパソコンを起動して少し操作して、メール送受信の画面を開く。
そこには恵梨が送ったとみられるメールの文面が表示されていた。




