三百十一話「VS『無敵』? 能力3」
彰対ステニーの戦いに水を差す声。
広場近くの建物の屋上。あのときの少女。
それが指す意味は明白だ。
「ちっ、思ったよりも見つかるのが早いな……!!」
彰は由菜を置いてきた方を振り向く。するとその建物の周辺に『反逆者』のやつらが集まっているのが見て取れた。
彰にとって由菜は守るべき人。戦いながらも意識はしていたし、報告が無くてもそうしないうちに気付いていただろう。
ステニーが戦う前に部下たちに耳打ちしていたのはこれか。俺が守る者が近くにいると考えて、捕まえて人質にでもすればどうにでも出来ると考えてだろう。先の襲撃で由菜の顔まで覚えられていたか。
「わざわざ知らせに来ることじゃないだろうが!! 捕まえてからにして来い!!」
ステニーが報告に来た部下に怒鳴る。
由菜はまだ建物の屋上にいるのが見える。大して『反逆者』どもは地上でうろうろしているだけ。
『風靴』で屋上に置いてきたのはもし見つかっても簡単には捕まらないためだ。無能力者では手間がかかる。
ステニーが怒鳴るのも分かる。この報告はどう考えても無駄、どうにか脚立なり何なりを使って由菜を捕まえてからにするべきだった。
「つうわけで中断だ。じゃあな」
彰は『風靴』を装着。戦域からの離脱を試みる。目的は由菜を完全に安全なところに逃すこと。
敵に完全に背を向けるが、『無敵』能力には攻撃力も機動力も無い。楽勝で逃げられると判断して――。
「っ……逃がすか!!」
ステニーは叫びながら能力を発動。すると空へと駆けだそうとしていた彰の足が止まる、だけでなくステニーの方に引き寄せられていく。
「なっ……!」
くそ……何なんだこの能力は……!!
これまでとはまた違う現象に彰は焦る。思いもしないタイミングで動きを止められ引き寄せられていることや、由菜が狙われているとあって落ち着いて考える余裕も無い。
そのためこれまでに通用した攻撃、圧縮金属化したナイフを2本生成。がむしゃらにステニーがいた方向に投げて解除する。
「くっ……」
ステニーは至近距離で爆風を浴びて吹き飛ばされた。
よし、上手く行ったか!
攻撃を食らって能力が解除されたのか、動けるようになった彰はそのまま振り返りもせず由菜のところに向かうのだった。
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「無事だったから良かったものの……だから俺は反対だったんだ」
「彰……ごめん」
それから少しして。
無事由菜を回収した彰は『反逆者』の追跡を逃れるために『風靴』でガヴァの町中を建物屋上から屋上へと移動しながら宿屋へ向かっていた。
お姫様抱っこされている由菜だが、状況が状況だけにときめきは一欠片も無い。
「由菜だって分かってはいるんだろ。ここは異世界。元の世界とは違って危険だって」
「……」
「なのにどうして付いてきたんだ?」
今一度彰は問いただす。
「私は……少しでも彰の役に立ちたかったの」
「役に……?」
「うん。だってこの異世界に来てからずっと足手まといで彰の足を引っ張ってばかりだし」
由菜が打ち明けた感情に。
「おまえはアホか。無能力者で戦う力が無いんだ、足手まといで当然だろ」
「……だよね。ごめんね、私なんて邪魔だよね」
「邪魔なわけあるか。ああもう思ったより落ち込んでるみたいだな」
いつも通りに見えてたが、どうやら異世界なんて事態に巻き込まれて相当参っているのだろう。戦いに付いてきたいなんて言った時点でそれを察するべきだった。
彰は頭をかきむしる。そして少しの逡巡の後に口を開いた。
「一度しか言わないからよく聞けよ。由菜、俺はおまえが一緒にいてくれて助かってるんだ」
「え……?」
「もし俺一人だけでこの異世界に落とされていたなら、例えレリィたちに会えたとしても俺はすぐに参っていたはずだ。由菜、おまえがいるから、おまえという元の世界での繋がりがいるからどうにか立ち向かえてるんだ」
「……」
「だから……邪魔なんてことはない。謝る必要も無い。むしろこんな事態に巻き込んでしまってこっちこそ謝らないといけないくらいだ」
「そ、そんなことないって! こんな事態予測しろって方が無理だし、彰のせいじゃないから! でも……うん、そっか。彰も本当は……うん」
由菜の感情が落ち着いてきたようだ。
小っ恥ずかしいこと言ったかいはあったみたいだな。
そうこうしている内に二人は目的地の宿屋に着いた。
「よし由菜は部屋に戻ってろ。俺はまたステニーのところに戻るからな」
「え、戻るの?」
「ちゃんと倒しとかないとああいう手合いはどこまでも追ってくるからな」
「そっか……でも勝てるの? 彰の攻撃が全然通ってなかったけど」
「負けるつもりはねえが……思ったよりも面倒な能力でな、攻略に手こずりそうだぜ」
「そうだよね。あの『磁力』の能力、彰と相性悪そうだし」
「ああそうだ、あの『無敵』の能力のタネももう少しのところで分かりそうなんだが…………………………『磁力』?」
由菜のやつ、今何て言った?
「え? だってそうでしょ。彰の錬金術で作った金属を反発させたり、引き寄せたりしてたし。
彰からは見えなかったかもしれないけど近くの露店の鍋とか能力使うのに合わせて動いたり、最後適当な方向に投げたナイフも敵に引き寄せられてたよ。
能力のこと詳しくないけど、あれって敵が強い磁力を出した、とかじゃないの?」
事もなげに言う由菜に。
「『磁力』……………そうか、全部繋がった! 敵の能力は『磁力』か!!」
彰はこれまでの戦いで覚えていた違和感が一気に解けていく。
「『無敵』なんて大仰なハッタリかましやがって…………いや、そうか、この異世界だからこそか! だったらそこを突いて……。
ありがとな! 助かった、由菜! あいつを倒してくるぜ!」
興奮した様子で宿屋から去っていく彰。
「……あ、頑張ってね!!」
事態についていけない由菜はそれだけ言って見送る。
「よく分からないけど……助かったって、言ってたし役に立てたのかな?」
それなら無理を言って付いて行ったかいがあって良かった。
「それにしても彰があんなこと思ってたなんて……」
私がいなかったらヤバかったなんて思ってもらえて嬉しい。
「そうだよね、彰だって平然としてられるわけないんだ」
無能力者で戦う力も無い私なんかじゃ彰の支えになんてなれないと思っていたけど、そんなことは無かった。
これからは無理をしない範囲で、私に出来ることで彰を支えよう。
「ふん、ふふん♪」
さっきまで思い詰めていたのが嘘のようにウキウキ気分となった由菜はスキップしながら自分たちの取っている部屋まで戻る。
「あ、そういえばレリィとメオさんは先に戻っているって言ってたよね。一言言っておこうかな」
浮かれた由菜は彰がいないので『言葉』がかかっておらず、レリィとメオに言葉は通じないということも気付かずに隣の部屋にノックして入る。
しかし。
「……ん? あれ?」
先に戻っていると言ったレリィとメオ。彰の戦いを見ている間で帰る時間は十分にあったはずなのに、部屋には誰もいなかったのだった。




