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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
十三章 異世界序幕
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三百二話「火事」


 自分たちを囲むように迫ってくる炎。


「くそっ……あいつら……!!」


 火野は敵に対して憤る。

 ここは森の中。一度燃やせば簡単には火は収まらない。能力者と無能力者、力の差がある相手に対する手として地形を利用するのは上々や。

 そこはむしろ感心する。


 怒っているのはここに理子が逆さ吊りにしていた敵の一人がいるということ。

 仲間がいるのに、そいつもまとめて攻撃する……反吐が出るようなクズやな。

 笛を鳴らした時点でこいつもこの末路を覚悟していたんやろうが……自分の命を使ってまでして、どうして昨日会ったばかりの俺たちを殺そうとする? 何かそこまでの理由があるのか?


 ……まあそういう難しいことは俺には分からん、とりあえず現状の対処やな。


 といってもやることは簡単だ。

 もしこの状況に陥ったのが風の錬金術か水の錬金術だったら大変だっただろう。

 しかし、火野は炎の錬金術の使い手。

 目の前で燃えさかる炎は彼にとって材料でしかない。




「理子、片っ端から金属化しろ!!」

「分かってる、お兄ちゃん!!」

「二人ともお願いね!!」


 火野と理子の二人で炎を赤い金属に変えていく。ボトッ、ボトッ、と地面に落ちていく音が連なる。全てを金属に変えてから、上空に打ち上げて解除すれば、今度は燃え移る物が無く火は消えるだろう。


 二人の炎の錬金術者による作業は続く。

 光崎は手伝えることが無く見守るしかない。


 数分が経って――しかし、状況は良くなかった。




「まだ炎が残って……もう魔力が残り少ないのに……!!」


 理子が絶望して叫ぶ。

 かなりの炎を金属化した二人だが、燃え広がるスピードの方が早く消火が追いつかない状況だ。金属化にも魔力を使う。底を尽きたら炎に巻かれることになるだろう。


「気合いや、気合い!!」


 同じく魔力が底を尽き欠けている火野は気力を振り絞る。




「え、えっと、二人とも、どうにか……!」

 光崎は頑張る二人を前におろおろすることしか出来ない。

 この中で一番年長なのは私なのに……でも『閃光フラッシュ』じゃ火を消すことは出来ない。

 だったら何か……何でもいいから手段を……。


 辺りを見回す光崎。


 すると上空に不思議な物を見つけた。




「あれは……バケツ?」


 そう、バケツが空を飛んでいる。しかもその数が一つだけでなく複数のバケツが渡り鳥のように群れになっている。

 その絵の奇妙さにあっけにとられる光崎の前で、バケツは光崎たちの上空に到達し、その中身である水を上空から次々に落として火を消していく。


「……ん、何や? この辺りではバケツが鳥みたいに飛ぶんか?」

「そんなわけ無いでしょ……って言いたいけど……どういうこと?」


 頭をひねる火野に理子もツッコむが、事態を理解しているわけではない。


 最初に気付いたのは光崎だった。


「あのバケツから微かにだけど魔力を感じる……誰かの能力によるものなのかな?」

「あ~なるほど」

「言われてみればそうですね」


 能力者は魔力を関知できるが、バケツが遠かったため最初は気づけなかったのだ。




「…………」

 だとしても、光崎は考える。

 私たちを襲ってきた探知系の能力者。

 そして状況からしてこの火事を消そうとしている能力者。

 能力者の存在は珍しいはずなのに……どうしてこうも次々と遭遇するんだろう。

 偶然? それとも……。




 しばらくして完全に消火が終わった。


「よっしゃ行くでー! たーまーやー!!」


 火野は錬金術の操作でこれまでに金属化したものを上空に打ち上げて解除。空中で炎が広がるが燃え移る物が無いためそのまま消える。


「あっ、じゃあ私も私も! かーぎーやー!!」


 理子も同じようにして炎を処理する。




 全て片付いたところで、三人の前に一人の青年が現れた。




「○×△」


 物腰柔らかそうなその青年は何やら辺りを指さしながら口を開き……何かを質問しているようだが、生憎その言語が分からない。


「……」

 光崎は状況からしてバケツを操っていた能力者だろうと推測する。

 敵意は感じられない……火事を消してくれたことといい、悪い人でも無いし、色々話も聞きたいんだけど……。

 どうしても立ちはだかる言語の壁。


「えっと……ディス、マイ、ワーク! オッケー!?」


 火野が大きく身振り手振りを交えながら対話を試みる。英語なら通じるだろうという火野なりの精一杯な考え。




「○×△……」


 青年はその様子に少し考えて、ポンと手を打って理解した表情を見せる。

 そして能力を発動。




「スタリシア語を知らないとは露知らず混乱させたね。これでもう大丈夫かな」


 三人は青年の言葉を理解できるようになる。


「うおっ、何や!? いきなり日本語話し始めたで!!」

「いや、違うんじゃない? 魔力反応があったし能力……恵梨お姉ちゃんももらったっていう『言葉ワード』を使ったとか」


 火野は驚くが、理子は冷静だ。


「ああ、旅が好きでね。どんな場所でも言語が通じるこの能力、『言葉ワード』は重宝しているんだ」


 青年は答えるが、光崎は疑問顔だ。

 『言葉ワード』って恵梨ちゃんと彰君は異能力者隠蔽機関のハミルさんからもらったんだよね。この人も同じようにもらったとしたら……その関係者?

 いや、それともやっぱりこの場所は……。




「申し遅れたね。僕の名前はクラル。ひとまずここじゃ落ち着かないし、良ければ僕が今滞在している村まで案内するけどどうかな?」



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