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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
十二章 夏の始まり
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二百八十九話「『強化(ブースト)』」

 彰たち四人を囲む、武器を持った荒くれ者八人。


 三人を守りながら戦わないといけない彰は、どうすべきか分かっていた。

 初撃が重要だ。

 八人を相手に斬り合っている暇はない。一手目、それもやつらに近づかせないままにどうにかする必要がある。

 自分が持つ手札の内、何を切るべきか判断しようとして。


「発動! 『強化ブースト』なのじゃ!」


 レリィの魔力が身体の内に流れ込んできた。


「……っ!」

 今まで味わったことのない感覚に、反射的に身がすくむ。

 こいつは何を……!?

 異物感に『レリィから攻撃された!?』と感じたのは一瞬、すぐにレリィの魔力が自分の物と混ざり一体となる。


 効果は劇的だった。


 敵が……スローモーションのように捉えられる……!?

 八人の動きが見えすぎるほどに遅くなっているのに、錬金術によるナイフの生成はいつもより早く完了する。

 これがレリィの能力『強化ブースト』の力なのか……!?

 驚きながらも彰はその効力を含めて、取るべき手段を決定。

 いつもなら風を込めるのに時間を要する圧縮金属化を瞬時に完了させ、ナイフを量産すること八本。


 八人がどの方向、スピードで近づいてきてるのかは把握済み。

 だから地面を蹴った瞬間、踏ん張りの効かない空中にいるタイミング。そこを狙って、それぞれの一歩先にナイフを打ち込んで解除してやった。


 ババババババババンッ!!!!!


 風の爆発が連なること八回。

 地面の表層をも削り飛ばすレベルの風に、荒くれ者たちが声も出せずに吹き飛んでいく。


 にしてもいつもより威力が上がっているような……これも『強化ブースト』の力なのか……?


「……っと」

 そこで彰の世界が元の速度に戻る。『強化ブースト』の効力が切れたのだろう。強力な分、効果時間が短いのか。


「……す、すごいわね」

 一変した光景に、由菜が唖然とした声を上げる。

 風の爆発が砂埃も巻き上げたため視界が効かない。が、近づいてくる敵影はないため、八人とも吹き飛ばしたということだろう。

「今の内に逃げるぞ」

 吹き飛ばしただけで、戦闘力は奪い切れてはいないはず。打ち所が悪ければ気絶くらいはしているかもしれないが、全員そうなっているとは思えない。

 こちらに戦わないといけない理由は無いし、逃げれるなら逃げておくべきだ。


「お主、中々やるな。見直したぞ。……にしても今の能力は風使いか? 資料で見たことがあるが……しかし、風使いの家系はずいぶんと昔に途絶えたはずじゃ…………?」

「無い頭で悩むのは後にしてください。さっさと逃げますよ」

「な、何じゃと!?」

 レリィがまたとてつもなく気になることを言っているが、メオさんの言うとおり今は逃げるのを優先すべきだ。


 敵が残っていた場合を考えて、彰を先頭に戦域を脱出しようとする……その直前。


「くそっ……待ちやがれっ!!」

 土煙の向こうから、怒声が届いた。

 おそらくリーダーの男だろう。姿は見えないが意外と声が近い。……風が爆発する瞬間に、武器を地面に刺して飛ばされるのを阻止したのだろうか?

 何にしろ、相手からこちらの姿は見えていないはずなので逃げるのに支障はない。どうにかする手段も無いだろう。手ではなく口を動かしているのがその証拠だ。


 こちらが無視して逃げていく気配を感じているだろうが、それでも男の怨嗟の声は止まらない。

「俺たちはおまえらを許さない! 俺たちの大事な物を奪っていった能力者を……絶対に許さねえ!!」

「…………」

 初めて会った相手なのに……どうして能力者ってだけで、それだけの恨みを持つことが出来るんだ?

 一体どれだけのことを、誰にされたのか。


「あやつら……やはり」

「……」

 レリィとメオは思い当たる節があるらしい。


「……行くぞ」

 気になることがどんどん増えていく。

 多くの謎を抱えたまま、彰は封印の穴から落ちたその場所を離れた。









 警戒しながら進むこと数分。

 彰たちは森を抜けて、整備されている街道に出た。舗装はされておらずところどころに石も転がっているが、気を抜くと足下にはびこる木の根で転びそうになる森の中よりはよっぽどマシだった。


「ここまでくれば安心じゃな」

 尾けられている様子はない。距離も十分に取ったし、レリィの言う通り安全は確保出来たと見ていいだろう。


「改めて助かりました……ええと」

「ああ、彰だ。高野彰」

「アキラ様ですね」

 メオが言い淀むのを見て、自己紹介する。そういえば未だに名乗ってすらいなかった。

「そっちの少女は何と申すのじゃ?」

「あ、私? 私は八畑由菜です。よろしくお願いね」

「……うむ、そっちのアキラより礼儀がなっておるの」

 由菜も自己紹介したところで、四人とも名前を知る関係となった。


「この度のことは何とお礼を申せばよろしいのか……」

 メオは彰たちを巻き込んだことに負い目を感じているのか恐縮している。

 対してレリィは特に感じておらず。

「……あ、そうじゃ! アキラ、土下座せよ! お主のせいで、メオに酷い目に合わされたからの……覚悟していたたたたっっ!!!」

「全く命の恩人に何をさせようとしているのか。……すいません、この通りレリィお嬢様も頭を下げていますので」

「メオが下げさせてるんじゃろ!! いたっ……ごめんなさい、力込めるの止めてください、お願いします」

 アイアンクローしたまま、レリィの頭を上下させるメオ。中々に肉体派の人だな。


「そこまでにしてあげといてください、メオさん。レリィの能力に助かったところはあるので……まあ、土下座はしないですけど」

「そうですか……良かったですね、アキラ様の許しが出ましたよ」

「そ、そうか……ってどうして妾の方が許される側なのじゃ!?」

 痛む脳天を押さえながら、釈然としない思いを叫ぶレリィ。


「全く……メオは加減というものを知らんのじゃ…………」

 少しだけかわいそうに思えたが、良い薬だと思い気にせず質問する。

「ところであの『強化ブースト』ってのは『他の能力者の能力を強化する』能力ってことでいいんだよな?」

「うむ。妾の能力『強化ブースト』はその通りじゃ」

「やっぱりか。いつもよりナイフが早く作れたし、圧縮金属化の威力も増していた。敵がスローモーションに見えたのも、能力を精密に扱うための補助って感じか?」

「……そこらは妾には分からん。何が強化されるのかは強化される能力によって変わるのじゃ」

「能力によって?」

「うむ。例えば時間制限のあるタイプの能力を強化すると制限時間が延びたり、遠距離型はその射程が伸びたり、とな。それも妾が何を強化するのか決めるじゃなく、能力ごとに元々から決まっておる。聞いたところによると、アキラの風使いは能力の精密性と威力が上がったようじゃな」

「そういうことか……中々に強い能力だな」

「うむうむ、妾の力を思い知ったようじゃな! まあ強力な分連続して使用できないし、一人じゃ何も出来ないが……なに、ささいな問題じゃ!」

 いや、結構重大な欠点だと思うが……機嫌を損ねても面倒だし黙っとくか。



 彰はメオの方を向く。

「ああそれとメオさん、お礼のことは後回しで、とりあえず聞きたいことがあるのですが」

「何でしょうかアキラ様。私に分かることならば何でもお答えします」

「そうですか……だったら――」


 彰は確認するつもりだった。

 封印を解いた先、底なしの穴を経て辿り着いたここがどんな場所なのかを。

 レリィもメオさんもこの事態には関わっていない。

 それでもこの場所の正体に繋がる情報を持っているはずだと、彰は確信していた。


 そうだ、ちょっと質問するだけで、謎が解ける。

 煩っていた問題が無くなる。

 喜ぶべき……なのに。


「…………」

「アキラ様? どうされましたか」

 中々言い出さない彰に、メオが心配する。


 既に彰にはこの場所が何なのか推測が付いていた。

 それが思っていたとおりなら……大変なことに巻き込まれたことになる。

 質問して、答えが帰ってくるのが怖い。

 躊躇ってしまう。


 でも。

「彰……」

 心配そうに見つめてくる由菜。由菜と一緒に、また家に帰るためにも現状の把握は必要なことだ。

 一緒に帰るんだろ……由菜に宣言したじゃないか。

 だったら立ち止まっている場合じゃない。


「それじゃあ――――」


 彰が意を決して口を開いた瞬間。




 ザァァァァッ!


 燦々と照らしていた日差しが何かによって遮られ、辺り一帯に影が差した。

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