表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
二章 炎の錬金術者、来襲
30/327

二十九話「疑問」

 恵梨と由菜は二人で協力して、彰をリビングのソファに運んだ。本当は彰の部屋のベッドに運びたかったのだが、二階にあるため二人の力ではどうしようもない。

 彰の家に詳しい由菜が救急箱を持ってきて、ひとまず腕の切り傷の手当てをする。軽く拭いた後消毒液をかけて、ガーゼを張る。

 ここまでの間、彰は全く目を覚まさなかった。


「彰さん、大丈夫でしょうか」

「そこまでひどい怪我では無いようね」

 恵梨と由菜は心配するが、そんな気持ちも知らずに目の前の彰はすやすやと眠っている。

「由菜さん、時間大丈夫ですか」

 恵梨が時計を指差す。慣れない手当てなどで時間を消費して、時計は九時を過ぎている。いつもならそろそろ由菜は帰る時間だ。

「そうね。……彰の状態もそこまで悪くないみたいだし、それに恵梨がいるから私は帰るわ。彰のこと頼むわよ」

「はい、任されました。……そういえば結局夕ご飯を食べてませんが、どうしますか?」

 二人とも彰を待っていたため、まだ夕ご飯を食べていない。

「家に帰れば何かあるだろうし、いいわよ」

「そうですか」

 由菜はリビングに広げていた宿題を片付ける。

「じゃあ、よろしく」

「はい」

 そうして、由菜は隣の家に帰った。




 俺に勝てるやつがいるはずがない。

 そう思っていたあのころ。

 裏通りで戦ったためか、そのころのことを思い出す。

 ただ何も考えずに。

 感情に任せて。

 無意味に戦っていたあのころ。

 今、俺は変われているだろうか……。



「……………………んっ」

 彰はソファの上で目を開ける。

 すると、


 目の前、至近距離に恵梨の顔があった。


「…………………………」

 お互い数秒見つめあった後、

「うわっ!」

「きゃあ!」

 何か恥ずかしくなって、同時に目を逸らす。


 二人は慌てふためく。

「ど、どうしたんだ恵梨?!」

「いいい、いえ。あ、彰さんがお、起きるかどうか、た、ただ見ていただけで!」

「「……………………」」

 第三者が居たら爆笑して空気を戻してくれるだろうが、あいにくここには二人しか居ない。


 一時経って、

「……お腹すきましたよね。その、ご飯食べますか?」

「……ああそうだな」

 やっと二人は落ち着いた。



 時刻は十時ほど。遅い夕食の準備が始まる。

 昨日のカレーを温めなおして、その間に恵梨は簡単なサラダを作る。

 本来食事を用意する当番である彰は怪我人なのにその責務を(まっと)うしようとして、恵梨に止められた。「今日ぐらいは寝ていてください」と言った優しそうだが目が笑っていない恵梨の顔は、彰は始めてみる顔だ。(ちなみに、由菜はお風呂場でそれを一回見ている。)

 彰がおとなしく寝ていると、テーブルに食事が用意された 

「「いただきます」」


 そうやって夕食が始まって、しばらくしたころ。


「それで彰さん。何があったんですか?」

 恵梨が気になっていることを問う。

 彰はカレーを食べながら、頭の中で今日の出来事を簡単にまとめる。

「……能力者に襲われて、それを撃退しようとしたら返り討ちにあったという所だな」

「能力者!?」

 恵梨が驚きを漏らす。

「何で襲ってきたんですか!?」

「…………そういえば、何でだろうな?」

 あまりにいきなり戦闘が始まったため、火野が彰と戦う理由を聞いていない。

 恵梨はそれに信じられないという顔をして、

「知らずに戦っていたんですか!?」

「……そうなるな」

 彰は肯定するしかない。

「もういいです。……それで、どうして彰さんはそれに応戦したんですか!?」

「あっちが敵意を見せるから、感情に任せてな」

 あっけらかんとして彰が答える。

 それにしても、珍しく恵梨の感情が高ぶっているな、と思った彰は、


「…………どうして。……どうして、逃げなかったんですか……?」


 心が悲鳴を上げたかのような恵梨のセリフに、彰は凍りつくことになる。

「私、心配したんですよ……!」

 さっきまでの恵梨の態度は、心配の裏返しであった。

 恵梨は本来、戦いとは無縁の普通な女の子だ。彰が傷ついて遅く帰ったら当然心配に思うだろう。

「………………ごめんな」

 それに気づかなかった彰は素直に謝る。

「ごめんな」

 それしか方法がない。

「ほんとに、ごめん」



「……彰さん」

 沈黙していた恵梨がいきなり言葉を漏らす。

「……何だ?」

「彰さんは一つ嘘をついてますよね」

「……?」

 いきなりで恵梨の真意が分からない。

「彰さんは……本当は空手なんて習っていないんですよね」

「…………ああ」

 彰はその嘘に思い当たり、素直に認める。

 その嘘は彰が最初に科学技術研究会の追っ手から恵梨を守ったときに言った嘘だ。


「……どうして分かったんだ?」

「まず最初に疑問に思ったのは彰さんが風の錬金術で生み出した剣で戦闘人形(ドール)と対等に戦ったからです。……そもそも、風の錬金術を持っていること自体おかしいのですが。……まぁ当たり前ですが、空手では剣術は習いませんよね」

「………………」

「剣道も一緒に習っていたという可能性もありましたがそれは否定しました。……理由は、彰さんが戦いに慣れているように見えていたからです。それこそ、習い事の試合とかでは比べられないような戦いに」

「……続きを」

「はい。……由菜さんからも聞きました。あのころはいつも夜帰るのが遅かったから、って。彰さんが戦い慣れているのは由菜さんの言う《あのころ》が原因ですか? きっと今日感情に任せて戦ったのにも関わっているんですよね?」

 恵梨が口を閉じる。


 全ての音が遠くに感じられる状態が長く続き、


 彰は静かに、

「……その通りだ」

 と、答える。


「………………」

 恵梨は無言で続きを促す。

「……その、恵梨の疑問は大体今からする話で解けると思う」


 彰はこの話をすることをためらっていた。

 だからこそ、空手を習っていると言う嘘をついていた。

 無駄に恵梨を怖がらせるだけだと思っていたから。

 しかし、恵梨が気になっているのなら……それに答えるしかあるまい。答えずにはこれからを過ごすことはできないだろう



 しかし、この話をした後どうなるかは分からなかった。



「俺は昔、ケンカに明け暮れる不良だったんだ」



 彰は話し出す。

 その昔の日々は全て過ぎ去った今だからこそ、何も感情を込めずに話すことができる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ