二百八十三話「上陸」
「彰、こんなところにいたの?」
「由菜か、どうした?」
理子が出ていった後しばらく動けなかった彰は由菜に声をかけられる。
「もうそろそろ着くらしいっておじさんが言ってたからみんなに伝えておこうと思って。彰が最後だけど」
「そうか」
地図にない島、二度目の上陸は近いようだ。俺の今の心境は――。
「まあ俺も恵梨たちや雷沢さんを責めることは出来ないよな……」
「……?」
「いや、何だかんだでワクワクしてるってことだ」
地図にない島には能力が関わっている。
といっても小さな島だし危険なことはない、と俺は踏んでいた。
万が一何かあったとしても、俺には能力がある。仲間がいる。研究会を退けることも出来た俺たちが、協力すれば乗り越えられないことは無いだろう。
それに危機感のスパイスこそが俺の気持ちを引き立てるのだ。
幼い頃、先生に危ないから登っては行けませんと言われた小学校の裏山。しかし、禁止されたからこそ冒険心が沸き起こって挑戦してみた。
結局特に何かがあったわけではないが、登っている最中は背徳感やらの色々な感情が入り交じって、こうして今でも思い出せるほどの出来事になっている。
今回もそれと同じ。
またいつか今日の出来事をあのときは若かったなあと振り返るのだろう。
そういう感じのことを由菜に伝えてみると。
「……彰って妙に思考がおっさん臭いわよね。去年のボートの時も、自然を感じられて落ち着く言ってたし」
「そんな昔のことは忘れたな」
「そうやって都合良く物忘れするのもおっさん臭いわよ」
「男子高校生におっさんって言うなよ! デリ――」
「デリケートなんだよ……だったよね? 同じこと言うのも本当におっさんの特徴だよ」
「…………」
めっためたに打ちのめされた。
「でも……彰が達観してるのも仕方ないのかもね。それだけの経験をしてきたもの」
「自慢じゃないが濃い人生を送ってるぜ」
「本当自慢じゃないわね……」
最近こそ落ち着いているが、去年は本当毎月のように能力者の騒動に巻き込まれていたし。
「というか由菜こそワクワクはしないのか? 妙に物憂げだけど」
「……憂鬱だけだったら付いてきてないわよ。私だって楽しみにはしているけど……でも同じくらい不安があるのよ。
地図にない島。そこには本当に何も危険が無いのか……って」
「……去年はおまえの方が島に付いたときはしゃいでたと思うけどな」
「あのときは現実感が無かったのよ! でも、こうやって落ち着いてみると……どうして地図に載っていないのか、おかしいじゃない」
「まあ、そっちが普通の反応だよな……」
先ほど理子との会話でも自覚させられたが、由菜と理子を除いた、研究会の本拠地にも乗り込んだ六人は妙に度胸がある。
罠があると承知で本拠地に踏み込むくらいだしな……準備はしっかりすべきだって話にはなったけど、中止すべきだとは誰も言わなかったし。
今だってピクニック気分の恵梨彩香火野、ロマンを語っている雷沢、その話を聞いている光崎にも不安は無さそうだった。
元々そういう素質があったというのもあるだろうが、戦う力があることも関わっているだろう。大抵の障害は能力を使えば振り払えるし。
「大丈夫……よね」
由菜の不安気な眼差しに、彰は胸を張って言った。
「安心しろ。何かあったとしても、おまえは俺が守るからな」
「…………ふぇっ!」
唐突な発言に顔を赤くする由菜は。
「それに俺だけじゃなくて恵梨たちも、ちゃんと由菜を守るだろうって」
「そ、そういう意味よね! ……わ、分かってたんだからね!」
いつも通りの彰が何か悔しくて負け惜しみを言い放つ。
「着いたぞー! 降りる準備をしてくれ!」
おじさんの声が聞こえてきたのは、ちょうどそのときだった。
荷物を持ち、島に上陸した八人。
「ここが地図にない島……さあ、何が隠されているんだ……!」
「GPSにも何も映ってないね~」
「恵梨の言う通り、大きくはないようだけど……」
「さっき言ってたのがあの山です。あそこなら見晴らしも良さそうですし」
「ほら、お兄ちゃん早く!」
「ちょっ、荷物全部持たせるのは無いやろ!」
「……一年ぶりね」
「そうだな」
思い思いの感想を口にする。
「それじゃ夕方にまた迎えに来るって話だったな?」
「お願いします」
「がははっ、沖にも出たことだし、その間おっちゃんは釣りでもしとくぞ! 旅館に渡して調理してもらうようにするから、夕飯は楽しみにしといてくれ!」
自慢らしい釣り竿を見せびらかすと、おじさんは船を運転して島を離れていった。
時刻は昼前、夕方までには十分に時間がある。
「さあ、探索を開始するか……!」
八人は意気揚々と地図にない島に足を踏み入れた。




