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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
十一章 平和な日々、移ろう季節
291/327

二百七十九話「文化祭 能力者劇場9」

 舞台が暗転。その間に、パーティーに使われていたテーブルが退かされる。

『それではこれよりダンスの時間に移ります。参加される方は、パートナーと一緒に会場中央までお越しください』

 アナウンスと共に舞台に照明が戻り、彩香が演じるリルトーと彰が演じるビスタの二人が組んでいる姿が見えてきた。


「……先ほども言ったように私はダンスが初めてなのだ。だから……その……」

「大丈夫ですって、ちゃんとリードしますから」

「そ、そうか」

 ビスタの頼もしい言葉にリルトーは安堵する。

 そのときダンス用の曲が始まり、二人とそして周囲の参加者も踊り出す。


「上手じゃないですか」

 ゆったりとした曲調に合わせて、ステップを踏む二人。

「ビスタのリードが上手いからな」

「そう言って貰えると嬉しいです。……っと、曲調が変わるようですね」

 ビスタの言葉通り、勇ましい感じに代わり、合わせて二人の動きも激しくなる。

「この感じは、何だか剣舞に似ているな」

「剣舞はしたことがおありで?」

「ああ。士気を高めるため、出陣前にやらされたことがあった」

「なるほど、それは見たかったですね」

「……な、なら今度見せてやろうか?」

「あ、そういう機会があるんですか?」

「そ、そうじゃない。おまえの……ビスタのためだけに踊ろうか、と言っておる」

「それは……なるほど期待してます」

「う、うむ」

 会話しながらもダンスをこなす二人。


「「……」」

 その後しばらく、無言でダンスを踊り続けた。見つめ合っている様子は、完全に二人だけの世界を作り上げている。




 その雰囲気とは逆に、観客の少女二人の周りは空気が凍り付きそうだった。

「あんなに彰さんと密着して……」

「大丈夫よ、あれは演技、演技、演技、演技、演技………………………」

 言うまでもなく恵梨と由菜である。

「……なあ、二人はどうしたんだ?」

「触らぬ神に祟りなしやで、仁志」

 一緒に観劇している仁志と火野は目を逸らすように舞台を見続ける。




 それからしばらく二人の踊るシーンが続いた後。

「こんなに楽しいなら、もっと早くに参加するんだったな」

「リルトーが良ければ、私はいつでも一緒しますよ」

「そうか……ならよろしく頼む」

 約束が結ばれた後、幕が閉まって場面が切り替わる。




 三度、閉まった幕の前に出てきたのは公爵であった。

 公爵もパーティーの装いをしているところから、参加者の一人なのだろう。

 そこにビスタもやってきた。

「手短に状況を説明せよ。おまえといるところを他の客に見られては厄介だ」

「はい。既にリルトーは私に心を許している様子。この後、場所をバルコニーに移して殺害を試みます。そのまま逃走して、外部犯の仕業に見せかけます」

「少々強引だが……まあパーティーで気が緩んでいる今がチャンスか。それに証拠さえなければどうにでもなる」

「…………」

 公爵の言葉に黙ったままのビスタ。

「どうした、ビスタ?」

「あ、いえ少々考え事を……」

「……? まあよい。そうだ、先ほどのダンス見ていたぞ。結構楽しんでいたな」

「い、いえそんなこと……!」

 返事が乱れる。ビスタはいつになく慌てていた。

「まさか……貴様、リルトーに惚れたんじゃないだろうな――」

「っ……!」

 気づかれたのではないかと凍り付くビスタだったが、公爵はそれに気づく様子はなく続ける。

「と思わせるほどの演技じゃった。闇討ちだけでなく、そっちの才能もあるとはな」

「……」

「結果、楽しみにしておるぞ」

「……分かりました、それでは失礼します」

 一礼して去っていくビスタ。


「…………おい、誰かいるか?」

 残った公爵は、別の部下を呼びつけた。

「はっ、何用でしょうか?」

「手隙の者たちで、ビスタを監視せよ」

「ビスタ様をですか? これまで数々の任務をこなしてきた彼に限って、ミスをするとは思えませんが……」

「念のためだ。これまでの任務は全て闇討ち、ターゲットとこれだけ接触したのは初めてだ。情が移った可能性がある」

「そういうことですか。ならば分かりました、命じておきます」

 そこでスポットライトも途切れる。




 再度幕が開いたそこはパーティー会場のバルコニーであった。

 そこにリルトーとビスタは二人きりでいる。パーティーの喧噪もここまでは届かない。

「着替え終わりましたか?」

「ああ、あのようなヒラヒラした服はやはり合わない。ダンスも終わったし、もう元の服に戻っていいだろう」

 リルトーはドレスから、訓練でも使っていた服装になっていた。


 しばし夜風に当たる二人。

「ここはダンスで火照った熱を冷ますのにちょうどいいな」

「……ですね」

 ビスタの返事は少々元気がない。リルトーもそれに気づいたようだ。

「どうかしたのか?」

「……悩んでいるんです」

「悩み?」

「ずっと世話になっている人がいて、その人に恩も感じていて今まで言われるがままに仕事を手伝ってきました。

 しかし、この度言い渡された仕事を進めているうちに……どうしても自分にはこなせそうに無い、こなしたくないと思うようになってしまって」

「ふむ、よく分からないが、ビスタは恩と無理な仕事の板挟みになっているということか」

「……はい」

「なるほど……」

 リルトーも顎に手を当てて思案顔になる。


「どうすれば良いと思いますか、リルトー?」

 ターゲットだというのに、すがってしまうビスタ。

「…………その、何だ。………………私もそこまで思われていると言われると照れるぞ」

 ビスタの吐露を聞いて、リルトーは途中までは真面目に答えようとしたのだが、耐えきれずに顔を赤くして頬をかいた。


「え……?」

 ビスタは呆気にとられる。

「あれ……今の話は、私を殺したくないって話じゃないのか?」

 リルトーは周知の事実を確認するように聞く。

「な、何でそのことを……って、あっ、そうじゃなくて……!!」

「落ち着け、落ち着け」

 ビスタは自分の計画がバレていることに焦り、何故かそのターゲットから落ち着けと言われる始末に陥った。

「すーはー……」

「落ち着いたか?」

「……はい。それで……いつから私がリルトー殺そうとしていると見抜いたんですか?」

 暗にリルトーの言葉を認めるビスタ。


 リルトーはあっけらかんと言った。

「最初からだ。殺気を持ってこちらを監視していた時点で半分、私と渡り合えるほどの腕を持っているところでもう半分だ」

「最初から……」

「仲良くなったフリで油断させて殺すつもりだったんだろう。こちらも泳がせておいて背後にいる人物を炙り出そうと付き合っていたんだが……いかんせん遊びすぎたな」

「……? というと」

「貴様と同じだ。私も情が移って、貴様を断罪するか迷ってしまった。演技だったんだろうが、これほどまでに男性と仲良くなったのは初めてでな」

「演技……だったんでしょうか?」

「……さあな。私もそれに応じていたのが演技だったのか、もう分からなくなった」

 とぼけたフリをして、二人とも自分の気持ちにはっきり気づいていた。


「……だが、このままでは収まりが付かないだろう。この場を監視している者の存在もあるしな」

 それとなくリルトーは周囲を見回す。

「監視……ですか?」

「気づいていなかったのか? そちらの手の者だと思ったが……」

「いえ、聞いていませんが……公爵様が私の働きに疑問を持って向けたのかもしれませんね」

「……いいのか、その名前を私の前で言ってしまって」

 公爵とビスタの繋がりはバレてはマズい事実のはずだ。


「どうせ誰が背後にいたのかなんて気づいていたでしょうに」

「……悪いな、先ほどの慌てている姿が大層おかしくてもう一度見たかったのだ」

「意地が悪いですね」

 リルトーが悪びれる様子は無かった。


 さて、とリルトーが話を戻す。

「このまま貴様も仕事をしないわけには行かないが、私だって殺されたくないし正義に立つものとして貴様を見逃すわけには行かない」

「どうしたって……引き裂かれる運命ですよね」

「ふむ……そうだな」

 リルトーは少しの間思案した後提案する。


「ならいっそのこと……本気で殺し合うか」


 狂気に触れたとしか思えない提案。 

 しかし、ビスタはどこかこれを予見していたようで。

「ですね……鍛錬で打ち合っていて思ったんです。この人とは一度本気で戦ってみたいって」

「そうか、気があうな。……ちなみに言っておくと、鍛錬の時は七割も力を出していないぞ」

「そうですか、私は六割です」

「だったら五割だ」

「だったら、ってどういうことですか……」

 ビスタは苦笑しながら舞台の端まで歩いて剣を抜いた。


「……本当に手加減はいらないからな」

 リルトーも真面目な表情になって、反対側の端で剣を構える。


「まさかそんな人に見えますか」

「念のためだ。それでは――行くぞ!!」

 その声と共に、互いに距離を詰める。


 カンッ!!


 直後、剣と剣がぶつかり合う音が体育館中に響いた。




「おおっ、すげえ!」

「本格的だな……」

「これどうなるんだろう……」

 殺陣シーンの始まりに沸き立つ観客たち。


「ストーリー的に言えば……彰が勝つわけにはいかないよね。だって、彩香さんを殺すことになるんだし」

「いや、勝負は勝つけど、結局殺しきれないって展開かもしれないぞ」

「あ、そういうのもあるのか」

「どっちが勝つってことになってんだろうな……」

 由菜と仁志も手に汗を握って展開を予想しあう。


 しかし。

「いや……二人とも違います……」

「そうや……そんな話やない」

 それを残りの二人、恵梨と火野が否定した。


「え? どういうこと?」

「そうだぞ、十分にあり得る話だろ」

 由菜と仁志が意図を計りかねる。


 だが、恵梨と火野には――彰と彩香が戦う姿をよく見てきた二人には、今舞台上で行われていることの本質が見えていた。


「彰さんも彩香さんも……演技じゃなくて、本気で戦っているんです!」


 通常殺陣のシーンとは打ち込みの順番を決めて、それ通りに動くようにして戦っているように見せるものだ。だが、今の二人の戦いにはそのような様子は一切見られない。

「そ、それってリルトーとビスタとして、本気で戦っているってことじゃなくて……」

「物語の中の本気じゃなくて、現実の本気になっています!」

「それじゃどちらが勝つか分からなくてストーリーも決まらないだろ!」

 由菜と仁志が信じられずに否定するが、恵梨と火野だって目の前の光景に理解が追いついていない。


「そうは言っても、どちらが勝つか取り決めているなんて到底思えない、気を抜けばその瞬間負けるような戦いなんや! 何を考えてるんや二人とも……!」


 恵梨と火野は別の意味でハラハラしながら、二人の戦いを見守る。

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