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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
二章 炎の錬金術者、来襲
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二十八話「火野との戦闘2」

 激しい攻防から一転、裏通りに静寂が訪れる。


「ハァ……ハァ……どうだ」

 火野はフルマラソンを走りきったかのように息切れしている。

 彰は倒れた状態から、顔だけを上げた。

「まあまあ…………だな」

 口ではそう言いつつも、彰の消耗は激しい。

 壁にぶつかった全身からは鈍い痛みが、斬られた腕からは鋭い痛みがする。

 壁に当たった瞬間息が吐き出されたので、呼吸が不規則になる。


 しかし、彰は頭を働かせる。

 ……火野が疲れている?

 倒れている彰に追撃を加えるチャンスなのに、火野は手を膝について下を向き息を整えている。

 カウンターばかりを狙っていた火野が、これまでの攻防でそこまで疲れたわけではないだろう。


 ……ということは、俺を吹き飛ばすことで疲れたということか。

 そう考えると、何も触れていないのに彰が吹っ飛んだ理由を一つ推測することができる。

 

 火野は二つの能力を持っているのではないか、という推測だ。

 

 炎の錬金術と……念動力(サイコキネシス)とかだろう。

 二つの能力を持つことができることは、異能力者隠蔽機関のハミルが証明している。

 ハミルは確か、探知(サーチ)念話(テレパシー)の異能を持っていた。


 最初から念動力(サイコキネシス)を使わなかったのは、火野が激しく消耗するからだろう。ゆえに、奥の手だったに違いない。


 現状を理解した上で、彰はこれからを考える。

 ……まあ、この状態で戦い続けるのは無理だな。

 彰は今も気を抜いたら、気絶するように寝てしまうだろう。それほど危ない状態だ。

 ちらっと火野のほうを見る。火野はまだ息を整えていて動けない。

 ……ここは逃げの一手だな。


 彰は感情に任せて火野と戦い始めたが、だからといって引き際は心得ている。


「よし……!」

 彰は無理やり傷ついた身体を起こす。衝撃の抜け切らない体が悲鳴を上げるが構わず立ち上がる。

「ハァ……ハァ……さて、やり始めるとするか」

 火野は息を切らしながらも、まだやる気があるようだ。

「……残念だが、俺は逃げさせてもらうぜ」

 彰はそれに取り合わない。

「……ハァ、俺が逃がすと思うか?」

「……思わないから、力ずくで逃げさせてもらうぜ」

 彰は風の錬金術で空中にナイフを形成。

 火野に向かって加速させる。

「ちっ!」

 火野も盾を作り出し防ぐ。

 彰は防がれるのを気にせずにナイフを乱射。彰はまだ風の錬金術で一度に大量の物は作れないので、弾かれたナイフはすぐに解除して風に戻している。盾とナイフがぶつかる金属音が辺りに撒き散らされる。

「くそっ!」

 火野は防御に専念している間に、彰は壁に手をつきながら一歩一歩戦場を後にする。

 彰はすぐそこの横道に入る。

「逃がすかよ!」

 火野も身体を奮い立たせて、しかしゆっくりとした足取りで彰を追い始める。


 ……火野も疲れているが追って来るだろうし、一直線に家には向かえないな。

 とりあえずは火野の追跡を撒かないといけない。

「鬼ごっこの始まりだな」

 疲れた者同士、体力の条件は同じ。

 ならば、この場所の地理をどれだけ知っているのかの勝負になる。


 ……この裏通りで俺がどれだけ過ごしたと思っている。


 彰は負ける気がしなかった。






「由菜さん、この問題どうやって解くんですか?」

「それなら、X=2を代入するのよ」

「なるほど」

 解法を聞いた恵梨がシャーペンを動かし始める。

 恵梨と由菜は、彰の家のリビングで宿題をしている最中だ。

「恵梨~、これはどうやって解くの?」

「それは右辺を左辺に移項して、因数分解するんです」

「そっか」

 由菜がうなずく。


「………………」

 リビングに、カリカリというシャーペンの音だけが響く。

 ふと、恵梨が時計を見上げた。

「彰さん遅いですね。どうしたのでしょうか?」


 ただの疑問なのだが、

「………………」

 由菜の周りの空気が少し重くなった。


「もう七時三十分なのに。……由菜さんはどう思いますか?」

 恵梨は由菜の変わりように気づかずに話を振る。

「……そうだね」

 ポツリと由菜が肯定する。

「? ……どうしましたか、由菜さん?」

 恵梨がようやく由菜の異変に気づく。


「いや………………昔のことを思い出して」

 それを告げることをためらったが、結局口に出す。

「?」

「………………恵梨には、彰の本質について気になっていたでしょ」

「……まあ、そうですけど」

「彰の本質……いや違う。本質って言うより過去かな。それを思い出したの」

「何がですか?」


「あのころはいつも夜帰るのが遅かったから」


 恵梨は、由菜が見たことも無いような表情をするのを見て。


 そのとき玄関のチャイムが鳴った。


「!! 彰さんかも!」

「……そうね!」

 ひとまず話は置いて、恵梨と由菜が一斉に立ち上がり玄関に向かう。

 二人が玄関に着くのと、扉が開くのは同時だった。

「……よう」

 彰がぼろぼろの身体を引きずって入ってきて、崩れ落ちる。

 二人は半そでの制服なのでむき出しになっている彰の右腕を見て、

「「血!?」」

 斬られた傷を見て驚く。

 それ以外にも、彰の服装はぼろぼろだった。


 二人は、

「どうしたんですか!?」

「彰! ……今頃になって復讐とかされたのか!?」

 それぞれ違う反応をする。


「……復讐?」

 恵梨は由菜の言葉が気になったが、そんな場合ではない。


「由菜それとは別件だ。…………ああやべぇ。少し眠くなってきた。……すまないが、傷の手当て頼めるか……?」

「えっ、彰さん!」

「彰!」

 彰は疲労が限界に達し、玄関で死んだように眠り始めた。

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