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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
十一章 平和な日々、移ろう季節
289/327

二百七十七話「文化祭 能力者劇場7」

更新遅くなりすいません。

 文化祭二日目もすでに昼過ぎを迎えた。


「ただいまより十分間の休憩を挟んで、次のプログラムに移ります」

 体育館に響くアナウンスの声。

 それをきっかけにトイレに向かう者や、次の演目を目当てに入ってくる人など人の行き来が激しくなる。

「……ど、どうやら時間ちょうどですね」

 その中の一人、小走りで体育館までやってきた恵梨は、入り口の壁にもたれかかり息を整えた。


「あ、恵梨。間に合ったんだ」

 そこに約束をしていた由菜がやってくる。

「由菜さん……」

「模擬店で忙しいから、来れないんじゃないかって心配してたけど」

「ちょうど昼のピークも過ぎましたし、ここの時間だけは何とか休めるように調整していましたので。今日は彰さんと彩香がパレードでした宣伝が良かったのか、客も予想より入って来て大変でした」

「恵梨が大変っていうくらいだから、よっぽどなのね。それなら今からは彰たちの劇を見て楽しみましょ」

「そうですね」

 恵梨は会話をしながら、由菜に連られるまま人混みをかき分けて歩き、先に取っておいた席にたどり着いた。


「おう、こっちやこっち」

 先に向かっていた仁志と火野が手を振って場所を示す。

「席取りご苦労様」

「二人で四人分の席取ってるから肩身が狭かったぞ」

 体育館に設けられた観覧席はかなりの数を取っているが、それ以上に人が押し掛けている。後ろの方では立ったまま見ることに決めた人たちもいるほどだ。

「恵梨も間に合ったんやな。そういや焼きそばおいしかったで」

「二人とも三人前買ってくれたって聞きました、本当にありがとうございます」

 仁志と火野が焼きそばを買いに来たときも、恵梨は奥で指示を飛ばしていたため直接は会っていなかったため、このタイミングで礼を伝える。


 四人とも目当てはこれから始まる二年一組の劇の鑑賞だ。

 いつも集まっているメンバーの内、彰と彩香はもちろんこれから始まる劇の主役。そして美佳は台本兼監督として裏から見守るようで、この場にはいない。


 四人が並んで席に座り、落ち着いたところでアナウンスが鳴った。

『ただいまより二年一組の劇『剣で語る恋情』を開始します』


 待っていました、と由菜が手を打つ。

「それじゃ二年一組のもう一つの出し物……とくとご覧しますか」

「彰が主役……失敗したら大笑いしてやる」

「剣で語る恋情……何か物騒なタイトルやな」

「美佳さんオリジナルでしたけど……大丈夫ですかね」

 四人が見守る中、体育館の照明が落ちた。

 体育館の窓は全て暗幕を降ろしているため昼であっても暗闇に陥る。

 そして。

 次にスポットライトが舞台を照らすと同時にその幕が上がった。




 豪奢な宮殿を背景に、煌びやかな衣装で着飾った男女がパーティーを楽しんでいる。

「我がスヴァン王国の勝利を祝って!!」

 その中央、異様な熱気に包まれた男性の集団が杯を掲げた。

「連戦連勝、これは帝国を打ち破る日も近いですな!」

「野蛮な帝国人に鉄槌を!」

「王国軍の向かうところ敵無し!!」

 テンション高いまま談笑する男性たち。



 パーティー会場を人々が行き来する。それに紛れて、パレードでも使った衣装の彩香が舞台袖から出て来た。



 彩香を見つけるや否や、パーティー参加していた一人の女性が駆け寄ってくる。

「あ、あなたはリルトー様ですよね!?」

「む……すまない、依然どこかで会ったことがあっただろうか?」

 リルトー役の彩香は気まずそうに応じる。

「いえ、初対面です……ですが、リルトー様の武勇はお聞きしております! 何でも今回の戦場は、リルトー様が王国を勝利に導いたのだとか!!」

「そんなことはない。王国が勝てたのは皆の働きのおかげだ、私一人の働きなど些末なもの」

 謙遜するリルトー。


「あ、あれリルトー様じゃない……?」

「凛々しいお方ね」

「話しかけてもいいのかしら……」

 他のパーティー参加者もその姿を見つけたようだ。女性たちが羨望の眼差しでリルトーを見る。


 そのとき。

「……おっほんっ!!」

 最初に盛り上がりを見せていた男性の集団。その中心人物が大きく咳払いをした。そのまま周囲を見回すと、人々は目を合わさないように慌ててサッと顔を逸らす。

 場を掌握したその男性は、さっきまでと打って変わった静寂の中、リルトーの前まで集団を引き連れて歩く。


 周囲に緊張感が走る中、二人は向き合った。

「これはこれはリルトー殿。ご機嫌はいかがですか?」

「楽しんでいますよ。これも公爵殿に招待してもらったおかげです。……しかし、先ほどのように周囲に対して威嚇しては、萎縮してしまいパーティーを楽しめないのでは」

「いやはや、そうですな。老いぼれが出しゃばってしまったようですね。ですが先に気分を悪くしたのはあなたですぞ」

「そうですか?」

「戦場は男の仕事場です。女が立ち入る場ではありません。王に気に入られているからといって調子に乗っていると……その内痛い目に遭いますよ」

「ご忠告感謝します」

「……ふんっ、行くぞ」

 公爵は踵を返すと、集団を引き連れたまま舞台から退場する。


 それから少しして、パーティー会場に元の喧騒が戻ってきた。

「あ、あの……リルトー様大丈夫ですか……?」

 公爵が迫ってきたのを見て、慌てて避難した女性が戻ってくる。

「これくらい日常茶飯事だ。公爵殿が言っているように、私は王のお墨付きである以上そう簡単に手出しできまい」

「ですが……」

「大丈夫だ。どのような嫌がらせに会おうと、この剣のように私は折れん!!」

 腰から剣を抜き、掲げてみせるリルトー。


 その勇ましさに周囲から黄色い声援が送られる。

「リルトー様、万歳!」

「女性にとっての希望の象徴ですわ!」

「そうよ、男になんて負けないで!」

 自分を信奉する女性たちに囲まれるリルトー。

「リルトー様、此度の戦についての話を聞いてもよろしいですか!」

「わ、分かったから押すな!」

 そして揉みくちゃにされながら、幕が下りてフェードアウト。

 照明も一旦落ちて再び体育館が暗やみに包まれる。




「くそ……っ!」

 降りた幕の前に出てきた公爵。スポットライトが彼だけを照らす。

「リルトー……あの小癪な小娘め……!」

「お呼びでしょうか、公爵様」

 そこに現れた男性が膝をついて公爵の指示を仰ぐ。

「よくぞ来たな。仕事だ。貴様も知っているか、リルトーの名を」

「女性でありながら戦場に立つことを許されたもの……でしたか?」

「その通り。そして命令だ、彼女を……殺れ」


 物騒な命令に、少々考え込んだ後男性は質問する。

「……意見をいいですか」

「手短にな」

「どうして彼女を?」

「戦場は男だけのものだ。それを汚したというだけで理由は十分」

「バレたら不味いのでは? 彼女は王のお墨付きです」

「貴様がバレるような仕事をするのか? これまでも見事な手際だっただろうが」

「お褒めの言葉ありがたく頂戴します。……しかし今彼女が死んでは、対立している公爵様が疑われるのは必然です」

「疑われようが、証拠がなければ罰することは出来まい」

「ですが……」

「くどいぞ! 貴様は儂の命令だけを聞いていればいいのだ!!」

 癇癪を起こした公爵に、男はそれ以上の質問を諦める。


「分かりました。では、このビスタただいまよりその任に就くことにします」


 ビスタ役の彰は再度礼をするとスポットライトの外、闇に溶け込んでいった。

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