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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
十一章 平和な日々、移ろう季節
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二百七十二話「文化祭 能力者劇場2」

 先日、文化祭でクラスの劇が恋愛物をすると決まった日の話。


 ファミレスの一隅には、ドリンクバーから取ってきたジュースを片手に話す少女たちの姿があった。

「あーテニス部の模擬店で店長することになったけど、絶対忙しくなりそう。はあ……」

「由菜さん今年から副部長ですもんね。私は楽しそうだって思いますけど……」

「そういえば美佳さんがクラスの劇の脚本をするのね。文芸部だってことすっかり忘れてたわ」

「酷くない?」

 放課後、帰宅道中の寄り道。現在久々に美佳から召集により、第三回乙女会議が開催中だった。


 落ち込むフリを決め込む美佳に構わず、由菜が早速切り込む。

「それで今日はどういう用件で呼んだわけ?」

「何か深刻な問題が起きている……というわけじゃないですよね?」

 恵梨がおそるおそる聞く。一回目、二回目ともに重い話だったのを思い出したからだ。


 美佳はフリを解いて、あっさりと話す。

「ああ、そういうのじゃなくて、今回は軽い話、軽い話」

「そうなの、なら」

「よかったです」

「緊張して損したわ」

 ほっと胸を撫で下ろした三人に美佳は今回の本題を伝える。

「そうそう、あんまり気構えなくて良いわよ。三人の中で誰か彰と一緒に舞台の主演やったらどう? ってだけの話だから」

「「「全然軽い話じゃない(です)(わよ)!!!」」」

「うわっ……予想以上の反応ね……」

 狙っていたとはいえ、ここまでとは思っていなかった美佳。


 三人は突如降ってきた話に動揺を隠せないようだ。

「え、彰と一緒にって……今回の劇って恋愛物よね……?」

「ということは彰さんと……劇の中で恋人に……!?」

「わ、分からないわよ。恋愛物と言っても、結局結びつかない悲恋物だったりもあるわけだし……」

「いや、そこは私が脚本なわけだからどうとでも出来るわよ」

「「「……っ!!?」」」

「そこまで揃ってると面白いわね」

 三人共雷に撃たれたようなリアクションだ。


 状況を理解した三人は美佳にゴマをすり始める。

「えー美佳様……ずっとただの幼なじみだと思ってた女の子と主人公が何気ない幸せを掴む話……とかどうでしょうか?」

「そ、それより悪い組織に追われている少女を颯爽と助ける主人公、二人は次第に引かれあって、とかの方がいいですよ!」

「いえ、自分が最強だと傲慢に思っていた少女の前に突如立ちふさがった主人公。二人は勝負の末にお互いを認め合う……みたいな内容の方がいいわよね?」

「身も蓋もないわね。……というか、みんな自分のことそんな風に思ってたの?」

 欲望ダダ漏れの三人に呆れる美佳。


「残念だけど内容は舞台映えする上流階級物で行こうと思ってるから全部没ね」

 美佳は両手の人差し指を合わせて×マークを作ってみせる。

「そんな……」

「あんまりです」

「くっ……!」

「一般の人にも観てもらうのにそんな個人の趣向に片寄れ無いわよ。ちょっとしたシチュエーションの要望くらいなら聞いてあげるからそれで我慢してちょうだい」

「な、なら――」

「私は――」

「そうね、だったら――」

「ちょっと待って。それと一つ勘違いしていない? 私は三人の内誰か、って言ったのよ。主演女優三人なんて変則的なこと出来る訳ないし」

 早速口を開く三人の機先を制して、美佳は忠告する。


 その言葉に由菜、恵梨、彩香はお互いの顔を見合わせた。

「つまり……」

「誰が彰さんの隣に立つか……」

「競争というわけね……!」

「そこまで火花を散らされると……えっと、これで全てが決まる訳じゃないから……ね! それに彰が主演をするって決まった話じゃないし……だからもうちょっと穏便に……!」

 煽った美佳が心配になるほど、白熱している三人。


「受けて立つわ!」

「負けません!」

「私が勝つわよ!」

 しかし、忠告など耳に入っていないようで、三人とも宣戦布告するのだった。






 そして現在。

 主演女優にその三人が立候補したところに話は戻る。


 彰は人の目が無ければ、その場で頭を抱え込んでいただろう。

「……」

 やる気があるのはいい……誰もしたがらない中から生け贄を選ぶようなマネは俺だけでたくさんだ。

 だけど……立候補したのが俺に近しい三人だけっていうこの事態には、作意を感じるなという方が無理な話だ。


「委員長、三人が立候補したけどどうするのー?」

 素知らぬ顔をして催促するのは元凶と思われる美佳。本来なら今すぐにでも問いつめたいところだが、委員長という立場がそれを許さない。

「……三人以外に立候補する人はいないか?」

 クラスに問いかけるも、返答は無し。

「だったらこの三人から決めることにする」

 彰は黒板に三人の名前を書く。


「それで決め方だが……」

「相方になる彰が自分の好みで選びます」

 美佳の横槍。

「っ!? 彰、誰を選ぶの!?」

「わ、私ですよね!」

「そんなのわ、分かりきってるわよ……わ、分かってるわよね?」

 三人がすがるように見てくる。

「選ぶわけあるかっ!! クラス全員で投票だ、投票! 民主主義だ!」

 彰は美佳の混ぜっ返しに屈さずに、こういうときのために用意していた投票用紙を立候補した三人以外に配る。

「みんな用紙は行き渡ったな。そこに主演女優に推す一人の名前を書いて、前まで持ってきてくれ。記名は不要だからな」

 美佳に邪魔されないようにさっさと進める。


 さて、これで問題はあらかた片づいた。残るは……。

「どうするかな……これ」

 自分の席に戻った彰の目の前にある投票用紙。

 候補者三人はともかく、俺だけ投票しないのもおかしな話だし仕方がなかった。一瞬、開票係が投票しては不正する可能性があると逃れることも考えたが、俺と三人を除けばこのクラスの人数は27人だ。ちょうど三人に九票ずつでばらける可能性を考えると、最後に俺の意見で決まるという事態に陥りそうで(というより美佳が仕込んでいそうで)なら無記名の投票で先に選んでおくのが最善だと判断した。


 頭を振る彰。

「まあそれは流石に考えすぎかもしれないけど……」

 にしても三人に九票ずるばらける可能性……か。

 俺は誰かが票を独占するって思ってないんだな。

 ああ、そうだ。恵梨、由菜、彩香。三人ともそれぞれ違う魅力がある。

 俺なんか……と自分を卑下するのは駄目だと分かっているが、それでも俺が選ぶような立場にある訳がない。

 それでも誰かを選ばないといけない場面が来るかもしれない。

 今みたいに、そしてこれからも……。

 そうなったとき……俺は誰を選ぶのだろうか?


「……まあ現実逃避はやめにして、さっさと書くか」

 周りを見ると前まで投票用紙を持って行っている人が多い。

 彰は一人の名前を書いて席を立った。






 そして全員の投票が終わり開票が始まる。

 彰の予想通り三人の票数は接戦だった。


「……や、やったわ!!」


 そして結果、十票を獲得した彩香が主演女優の座に就いたのだった。

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