二十七話「火野との戦闘1」
彰と火野の戦いが始まる。
周りに誰も人がいない裏通りを舞台にして。
剣での攻撃には主に「刺突」と「斬撃」がある。
彰は最初の攻撃に横から剣を振るう、斬撃を選択する。
刺突は速さとリーチが出るも、腕が伸びきった瞬間無防備であるため相手の反撃に会いやすい。また「点」での攻撃ゆえ避けられやすい。
相手の力量が分からない内は選択すべき攻撃でない、というのが彰の考えだ。
その点斬撃は「線」での攻撃で避けにくく、また防御行動にも移りやすい。相手、つまり火野の力量が分からない以上、堅実な初撃で行く方針だ。
「ちっ!」
対して、火野は身体を引いて彰の攻撃を避け、同時に剣を突き出す。
彰はその突きを難なくかわす。
……まあまあだな。
彰は最初の攻防での火野の動きから、火野が前に戦った戦闘人形ほど剣の技術がないことが分かった。……比べる相手が戦闘マシーンであったため仕方なかったのかもしれないが。
この程度の実力なら勝てるだろう。
彰は再度攻撃に移る。
今度は突きを選択。速度の出る一撃を火野に叩き込もうとする。
火野は避けてカウンターを狙おうとするが、それは承知済み。最初の一発目は半ばフェイントだ。
「!?」
火野が驚いた表情をとる。
彰は途中で剣を引き、もう一回刺突。相手の攻撃よりも先にこちらの攻撃を通そうとする。
彰は相手の剣の腕を見切ったつもりであった。
であるからこそ、この攻撃でいきなり決着をつけるつもりだった。
しかし、それは過信だ。
目の前の火野は剣士ではなく、能力者なのだから。
「残念だったな!」
罠にかかった獲物を見て、火野が叫ぶ。
「何っ!?」
彰は、太刀筋上に炎が燃え盛っているのに気づく。遅れて炎が赤色の盾に変わって宙に浮かんだ。彰の攻撃を先読みした火野が、炎の錬金術で作り出した防御だ。
軌道修正する暇もなく、彰の剣が盾にはじかれる。
……つまり致命的な隙ができる。
それに火野は防御はしたがカウンター攻撃行動中だ。遅れて彰に斬撃が迫る。
「くそっ!」
彰はあわてて体を引く。しかし避けきれず右腕を少し斬られた。
崩れた体勢を立て直し、火野の追撃をいなしながら後退。火野も深く追い込むと危険と見て、あっさり距離が開ける。
斬られた右腕からは、赤い血が流れ出している。
油断していた……!
彰は火野との戦闘にあたって、同じ能力者である戦闘人形との戦いを念頭が置かれていた。
しかし、戦闘人形は戦闘マシーンであり能力を上手く生かすという考えがなかった。極端に言えば戦闘人形にとって、錬金術は剣を生み出すだけの物であった。
だから、火野に能力を工夫して使われることを想定していなかった。
「能力者同士の戦いは始めてか? まぁ、普通の人間じゃ防御と同時に、攻撃なんてできないからな!」
火野は彰の油断を笑いながら、盾を解除して炎に戻す。また彰の攻撃にあわせて盾を作り出すつもりなのだろう。
「……まぁ、そうだよな」
彰は自分の失策を認めながらも落ち着いていた。
火野は剣の腕はそこまでないが、剣だけでなく能力の使い方まで含めて火野の実力だ。
それを彰はなめてかかったのだから、傷をもらって当然だ。
「どうした? 負けを認めるのか?」
「まさか。俺はまだ実力を見せきってないぜ」
火野の挑発を、彰は笑い飛ばす。
それもそのはずだ。
彰はまだ剣しか使っていない。
しかし、彰も剣士ではなく能力者だ。
さて、一週間の練習のほどを見せてやりますか……!
彰は走って距離を詰める。
「さあ、来い!」
火野は動かず、向かい撃つつもりのようだ。
さっきから自分から攻撃してこないあたり、カウンターを主な戦略としているようだ。
彰は剣の届かない距離から行動を始める。
イメージを集中しろ……!
彰は風の錬金術で扱える範囲、自分を中心とした半径二メートルほどの領域のぎりぎりの場所にイメージを集中。
風の錬金術とは空中でも物を作ることができる。彰が思い描いたとおり、空中に風が吹き、ナイフができる。
ナイフは火野の背中側、火野から少し離れたところに浮いた。
食らえ!!
彰はそれを魔力を使って加速。火野を背中から狙う。
完璧な奇襲。
しかし、能力者は魔力の発現を感知できる。
それは彰も恵梨から聞いて知っている。
つまり、相手の目がない背中側からナイフで狙っても、ナイフが魔力で作られた物である以上、その存在は気づかれるのだ。
「!?」
なので当然火野はそのナイフに気づく。
彰が前から迫っているため、後ろを振り返れない。
しかし、
「な、め、る、な!」
火野は飛んでくるナイフを炎の錬金術の応用で火を生み出し、燃やし尽くした。
空中でナイフが燃える様は、火の玉が浮かんでいるようだった。
ほう。ナイフを燃やし尽くすほどの高熱な炎を生み出せるとはな。
彰は斬撃の体勢に入りながら感心する。
だがこれで、詰みだ。
火野は後ろに気を取られすぎている。
そこに、彰の剣が迫った。
火野はあわてて剣でガードするも、
「おらっ!」
彰は剣を弾き飛ばす。
彰はもう一度剣を振り上げる。
剣を飛ばされた火野は、それを防ぐ術を持たない。
殺す必要も無いし……峰打ちにしておくか。
彰が戦いの幕引きをしようとしたその瞬間、
「このクソがーーーーーーーー!!」
火野が感情をむき出しにして吼えた。
はは。そうやって後悔するといい。
彰はそう笑って……しかし火野の目を見て考えを改める。
火野の目はまだ諦めていない者の目だった。まるでここから逆転する秘策があるかのような。
何故だ? ここから挽回する方法はないだろ!
恐れを振り払うように、彰は剣を振り切ろうとして、
突然足が地面から離れる。
「は?」
彰はそのまま自動車にはねられたがごとく横にふっ飛んで、裏通りの建物の壁にぶち当たった。
「ぐはっ!」
壁に叩きつけられた衝撃で、一瞬意識が飛びかける。彰は地面に崩れ落ちる。
何だ!? 何をしたんだ!?
彰の目からは火野が何かをしたようには見えなかったが、状況からして彰が飛ばされたのは火野が原因だろう。
ホントにいったい何をしたんだ!?
地面に倒れ伏しながら、彰は困惑した。




