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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
十一章 平和な日々、移ろう季節
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二百六十三話「帰還者 語られし過去5」

「君たちが……」

「ああ、先の研究会の作戦に協力してくれた能力者と、由菜は親父も知ってるだろ」

「……そうか。っと、玄関で話すことでもないな。とりあえず……いらっしゃい」


 職員会議に向かった畑谷と別れ、高野家に着いた彰たち。

 玄関で出迎えたのは彰の父、透だった。


「おう、彰の親父さん、よろしくな!」

「こら、靴くらいそろえなさい! ……すいません、お邪魔します」

「そうかしこまらなくていい」

 靴を脱ぎ散らしながら物怖じせずに挨拶した火野と、礼儀正しい彩香。二人とも透とは初対面だ。

「お久しぶりです」

「八畑さんのところの。……こちらこそ久しぶりか。大きくなったな」

「そうですか?」

 交流のあった由菜は再会の挨拶をする。


「都合が付いたのは三人だけか、彰?」

「ああ。大体予定があったりで……まあそう朝に言われて集まれるもんじゃねえだろ。他の人には俺がまとめて伝えとくから」

「そうか」

 透が頷く。

「……そういや母さんはどうした?」

 玄関に出迎えたのは父一人。母の姿は見あたらない。

「美佐子なら……まあ、リビングに行けば分かる」

「あー……」

 それだけで悟ったのはさすが親子と言うべきだろうか。

「?」

 恵梨は疑問に思っていたが、一同でリビングに向かったところで理解した。


「おかえりー」

 ソファでだらんと横になったまま、客人を迎える彰の母、美佐子。

「……」

「あれ、恵梨ちゃん面食らってるぅ? ごめんねぇ、こっちが本当の私なんだ」

 ダルさを物隠ししない美佐子。


「えっとな……朝はかなり頑張ってた方なんだ。恵梨の前で、頑張って普通の母親を演じようとしてたんだ……」

「実際は生活力皆無の人で……これで私より研究の方では才能があるからタチが悪い……。天才とはどうして才能以外を犠牲にしないと成り立たないのだろうか……」

 彰と透がダブルで落ち込んでいる。


「恵梨は聞いてなかったっけ? 彰のお母さんがご飯を作るの面倒がって、うちの母さんがご飯を作ったりしたこともあったって」

「……そういえば、聞いた覚えがありますね」

 なるほど、こういうことだったのかと納得する恵梨。


「ま、まあ今は男女共同参画社会だから……」

 彩香の言葉はフォローになっているのか怪しかった。




 透に勧められるまま、テーブルを囲んで座る彰たち。

「そういうわけで話は私の方からさせて貰おう」

「あ、何か気づいたらフォローはするから」

 ソファに横になったまま、美佐子の手だけがひらひらと振られる。


 その言葉に彰は身を硬くした。

 ようやく……明かされるのか。

 謎に包まれた研究会の過去、そして自らの出生の秘密。

「……」

 どんな真実だろうと……受け止める覚悟はしている。


「まずは……そうだな、研究会という組織についてから説明した方がいいだろう」

 透はそう前置きをする。

「二十年ほど前、アメリカが外交で有利を取るために行った策。それは能力者を人間兵器として紹介することだった。

 どんな検査にも引っかからない人間兵器。そんなのが自分の国に進入されていたらと考えると恐怖しかない。色々と脅しだったりかけられるだろう。

 研究会はその対抗組織として世間からは秘密裏に作られた。目には目を、兵器には兵器を……ということだな」

「その話なら聞いたことあるぜ」

 藤一郎さんの調査結果だったはずだ。


「そうか、ある程度は事情を知っているのだったな。……そういうわけで立ち上がった研究会。私と美佐子はそのメンバーの一人だった。まあ、お互い結婚もしてなくて、面識も無い状態だったがな」

「ということは……最初は兵器派だったってことですか? 能力研究派って後から作られたって聞きましたけど……」

「その通りだ。当初は化学兵器によって人間兵器をどうにかしようとする、俗に言う兵器派しかなかった。

 日本以外でも同様の動きはあったようで、それぞれでアメリカの人間兵器に対抗する手段を研究しだした。そして、その最中で各国は、自国にもいた能力者の存在に気づき始めた」

「それでアメリカの言葉が嘘だと気づいたって話だったか」

 これも調査の中にあった話だ。


「それも知っていたか。……調査のレベルが随分と高いな」

 透が感心する。

「うちの父さん……アクイナスのお抱えですので」

「……話には聞いていたが、君はあの大企業の社長の娘だったか」

「風野彩香です。……えっと、すいません、話の腰を折ってしまって」

 申し訳なさそうにする彩香に、透が質問する。


「なら、この話も知っているのか? 日本に、研究会に、能力者の存在を伝えたのは誰なのか」


「……いえ、それは」

「そうか。ならここからは詳細に語っていこう」

 前置きは終わりのようだ。


「……」

 彰は考える。

 日本に能力者の存在を伝えたのは誰か……?

 考えられる可能性は二つだろう。

 能力研究派の創設メンバーに入っていた能力者は二人。『交換リプレイス』のサーシャとそして――。




「その者の名は風野大吾。彰の……ある意味本当の親で……今はこの世にいない人だ」




 透の言葉は、今からする話がもう終わっている悲劇であることを予想させた。

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