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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
十一章 平和な日々、移ろう季節
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二百六十二話「帰還者 語られし過去4」

 始業式も恙なく終わり、ホームルームの後、下校の時刻となった。

 彰たちはそのまま家に帰らずに、生徒指導室に向かった。


「今年も先生が担任だなんて思いもしませんでした」

「まあ、なるべく持ち上がるようになってるからな。その方が生徒のことをよく把握できるだろうっていう学校の方針だ」

 部屋にいるのは彰、恵梨、彩香、火野の能力者と、それを知る由菜と畑谷であった。

 彰が畑谷が職員室にいるところを呼び出して、ここまでやってきた次第である。


「しかしこのメンツを集めたってことは……高野、何かまた問題でも発生したのか?」

 能力者を知るものばかりが集められたことは、畑谷も当然気づいている。職員室から場所を移動したのは、他の人に聞かれてはマズい話をすることだとも。

「問題……といえば問題ですが、その前にこのまえの研究会侵入作戦の顛末を話しておこうと思いまして」

 春休みは生徒こそ暇だが、教師にとっては忙しい時期だ。すっかり報告する時間がないまま新学期を迎えてしまっていた。

「それか。気になってたんだ、頼めるか?」

 畑谷はうなずいた。


 そして彰は語った。

 作戦で起こったこと、新たに判明したことを。

「高野と戦闘人形ドールが……クローン人間……」

「その様子だと先生も知らなかったんですね?」

「ああ。兵器派には全くそういう情報は回ってこなかった。俺が新参者だったからって可能性もあるけどな。戦闘人形ドールという能力者がどこから来たのか疑問にはなっていたが……」

「……作戦後、鹿野田とサーシャは逃走。その足取りは追えてません。戦闘人形ドールは異能力者隠蔽機関がしかるべきところで保護するということで引き取って、ルークはギルドに帰って行きました。これで報告は終わりです」

「ああ。ありがとうな、わざわざ」

 生徒だろうと素直に礼を言うのが、この先生の性分だ。


「しかし……分かったことが多いとはいえ、謎は多いままだな。その風野大吾って研究者も依然行方不明で、鹿野田先輩にサーシャも逃走。年配の兵器派の人なら何か噂ぐらいは知っていたかもしれないが、あの事件の時に全員殺された。能力研究派について知る者はもう他に……」

「いえ……あと二人。それでここからが本題なのですが――今朝、俺の両親が突然家に帰ってきました」

 彰は長い前置きを終えて話す。

「高野の両親……か」

 その符号が意味することをこの場にいる者は理解している。

「昔、研究会の一員だったっていう」

「はい」

「なるほどな……それは問題だな」

 全ての謎を知っているかもしれない人物。


 彩香が口を開いた。

「それで何か話を聞けたってわけ?」

「いや、それはこれから聞く予定……というか、みんなも一緒に聞いてくれないかっていう提案だ。雷沢さん達も誘ったが、大学の講義があるらしくて無理らしい」

「なるほどね……そういうことなら私は行くわ」

 彩香は即座に賛成の意を表する。

「私も。久しぶりに挨拶もしたいし」

 彰の両親と面識がある由菜の言葉。

「ま、俺も聞かんわけにはいかんやろ」

 火野も特に反対する様子はなかった。


「それで先生はどうですかね?」

「……気になる話ではあるが、午後から会議があってな。すまんが顛末だけ教えてくれ」

 午前中に下校となった生徒と違って、教師は忙しいようだ。名残惜しそうに畑谷は断る。

「分かりました……では、この話はおしまいなんですが」

「……が?」

 恵梨が疑問を持つ。これ以外に何か話すことがあっただろうか?


「……何だ? まだ能力者関係の話があるのか?」

 畑谷も気になったのか聞いてくる。

「いえ、能力者の話……というと、関わっているというか、関わっていないというか」

「珍しいな、高野がそこまで歯切れ悪いなんて」

 いつも自信にあふれる彰らしくない姿。


「どうしたの?」

 由菜の問いかけ。

「ただの予想に近いんだけど……今日クラス分けが発表されたよな」

「そうね」

「そのクラス分けだが……こうしてまた能力者が一つのクラスにまとめられたわけだ」

「私も最初見たときはすごい運だって驚いたけど……あ、もしかして」

 由菜も悟ったようだ。


「ああ。今回のクラス分け……先生がいじったんじゃないですか?」


 全員の注目が一斉に畑谷に集まる。

 その視線の圧力に屈したのか。

「まあ……そうだな。全く、こういうのはあんまり言うもんじゃないんだが」

 畑谷は早々に認めた。


「去年、事ある毎に騒動に巻き込まれていただろ。だから、また何かあったときの備えってやつだ。能力を知る先生が、おまえらを一括で管理していた方が何かと都合がいいだろ?」

「助かりますが……」

 去年の事件のほとんどは研究会を端に発していたわけで、それが潰れた今巻き込まれることは少なくなるだろうが、無いとは言い切れない。

「あ、言っておくが方法は聞くなよ。かなりグレーというか、学校側にバレたら面倒だからな」

「そこまで危ない橋を渡ってまで……ありがとうございます」

「よせって、別に礼を言われるためにしたんじゃない」

 畑谷は照れるでもなく、手を振る。


「……彰さんと一緒のクラスになれて運がいいと思ってましたけど、そういうことだったんですか」

 事態を理解した恵梨がポンと手を打った。

「私も……って、あら? でも由菜は能力者じゃないわよね? 偶然?」

「いや、八畑も能力を知るものとして一応一緒のクラスにしておいた」

「まあ、そうでなくとも私は彰と一緒のクラスになったと思うけどね。……なら、美佳や仁志まで一緒になったのも先生が?」

「西条と東郷には先生触れていないぞ。それこそ完全に運だ。普通仲の良い生徒たちは離す場合が多いのに、よく一緒になったな」

 クラス分けには色んな情報を数値化して決めていくんだが、そのときに云々……と語り出す畑谷。


「まあ得をした……くらいに思っとけばいいか」

 恵梨ではないが、同じクラスなのはいいことだしな。


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