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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
十一章 平和な日々、移ろう季節
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二百六十話「帰還者 語られし過去2」

「ご、ごめんなさい!! 彰さんのご両親だとは露知らず……」

「いいのよぉ。こっちも紹介遅れたしねぇ」

 頭を下げっぱなしの恵梨をなだめる彰の母、美佐子。


「彰も背が伸びたな。父さんは中学で成長が止まったから羨ましい限りだ」

「そこは遺伝しなくて良かったぜ」

 彰とその父、透の会話。普通の親子の会話に見えるが、彰の中ではフラストレーションが貯まっていた。

 ちっ、今すぐにでも色々と聞き出したいんだが……。

 現在、四人は食卓を囲んで朝食を取っている最中であった。突然の両親の帰還に驚いている間に、とりあえず朝食にしましょうか、という母の提案に流された形である。

 いつもならそれでも我を通す彰だが、どうも両親の前では調子が出ない。結果、普通の家族のような会話を続けている始末だ。


「つうか、突然帰ってくるなんて聞いてないんだが」

「言ってないからな。だとしても今回の出張の期間は一年だと言っていたはずだ」

「……そんなこともあったか」

 親と最後に連絡が取れたのは約一年前の能力者会談の日まで遡る。その後は電話しようが一切の応答が無かった。毎月生活費が振り込まれていたので無事は確認できていたが。

 最近は研究会の対応に追われていて、それが終わった後は気が抜けていたからすっかり忘れていた。


「あ、母さんおかわりもらっていいか?」

「いいわよぉ。ちょっと待っててね」

 彰の茶碗を受け取り、立ち上がる美佐子。

「……」

 その様子を見ている恵梨。

「ん、どうかしたか、恵梨。ようやく立ち直ったようだが」

「うぐっ、先ほどの醜態を思い出させないでください……」

 気を取り直した恵梨がまた落ち込みそうになる。

「悪い、悪い。でもぼーっとしてるように見えたぞ」

「……いや、その彰さんも親の前では普通に子供なんだな、って思いまして」

「息子が超人にでも見えたか?」

 父が会話に入ってくる。

「超人……というか、いつもしっかりしているので」

「昔からやせ我慢だけは上手くてな。隣の八畑さんちの子は知ってるかな? 彰が彼女の前で、昔」

「おい! 何を話そうとしている!?」

 彰が慌てて止めに入る。

「何って、良い思い出を共有しようという父の優しさで……」

「絶対それ以外の意図が見えてるんだが!」

「……ふふっ」

 父に対する年相応の反応。

 珍しい彰の一面を見て、恵梨はほほえましい気持ちになった。




「「「ごちそうさまでした」」」

「お粗末様でした」

 そして朝食を食べ終わる。皿を洗う母、新聞を読み直す父。そして彰と恵梨は改めて食卓に座った。

「時間は大丈夫なのか? 今日は始業式だと聞いたが」

 新聞から顔を上げて心配する透。

「あいにくと今日は少し開始時間が遅いから少しは大丈夫だ」

「そうか……」

「……」

 親子の会話を緊張した面持ちで見守る恵梨。


「事情はある程度把握してるんだろ? 恵梨がいることを特にツッコまない辺り」

「そう……だな。八畑さん家の奥方から報告は聞いていた」

「優菜さんが……?」

 隣の家に住む由菜の母親の優菜さんから聞いてたなら状況も分かるか。

「あ、そういえば優菜さん研究会のことも知ってましたね……」

「初耳だぞ、それ」

「ハロウィンのときに知ったんです。そういえばあの後色々あって忘れてましたね」

「……なら、しょうがないか」

 彰と由菜のケンカ騒動に繋がり、それどころの事態じゃなかったのは当の本人である彰が分かっている。


 前提の共有を終えて、透が話を始める。

「まずは先に謝らせて欲しい。水谷恵梨さん。昔の同僚が迷惑をかけた、すまない」

「あ、えっとそれは……その……」

 昔の同僚。それは科学技術研究会、能力研究派に所属していたという過去を鑑みるに、鹿野田が恵梨の両親を殺したことを指しているのだろう。

「どれだけ謝っても足りないと思う。だから……」

「いいですよ、その話は」

「……」

「今だって思い出すだけで苦しいですけど……もうその話は決着が付いたんです」

 復讐ばかりじゃ前に進めない、が研究会との対戦を終えて恵梨が出した結論だった。


「それにやったのは鹿野田に戦闘人形ドールです。彰さんのお父さんが謝る必要は無いですよ」

「……そうか。そう言って貰えると助かる。

 両親が死んで、研究会追われた末に、この家に住むことになったのも聞いている。幸い私たちが帰ってきても、部屋にはまだ余裕がある。君が望むなら、引き続きここでの生活を続けても構わないが……」

「そうですか……ありがとうございます。お言葉に甘えさせて貰います」

「礼はいい。こんなの償いにもならないからな」

 胸のつかえが取れる透。

「それで? 事情を知らされてなかった息子に対する謝罪はないのか?」

「……おまえなら切り抜けられるという判断の元だ」

「マジで言ってるならキレちゃうぞ? DVするぞ?」

 冗談めかしているものの、怒りがかいまみえる彰。


「……それより時間は大丈夫なのか?」

「おい、話逸らすな」

「で、でも彰さんそろそろ準備しないと」

 恵梨の言うとおり、時間的余裕はそこまでない。

「くそっ……そうやって誤魔化しで押し通す気か?」

 彰の剣幕に、透は動じることなく返した。

「そんなつもりはない。ただ……これ以上は話すのに時間がかかるし、この場ではふさわしくない」

「……」

「私たちがこの一年やっていたこと、戦闘人形ドールとおまえが生み出されるまでに何があったのか、そしてどうして二人は現在まで別々に育てられたのか……彰には、研究会と戦ってきた者達には聞く権利がある」

 彰が気になっていたこと。それを全て話すと父は言っている。

「今日の学校は午前で終わる。帰ってきたら聞かせろよ」

「ああ。だから関わってきた者達を全員この家に呼んでくれ。礼も言わないといけないからな」

 火野や彩香にもということか。いや、作戦には参加しなかったけど由菜も事情を知ってるわけだし。……雷沢さんや光崎さんは呼べるか? ルークはアメリカに帰ったって聞いたし無理だな。後は……。


「ほら、分かったら今は準備をしなさい」

「……はいはい」

 父の呼びかけにしぶしぶ従う彰。




「行ってきます!」

「行ってくる!」

 準備を終えて、玄関から出る恵梨と彰。

「気を付けるんだぞ」

「行ってらっしゃい」

 子供の登校を見送る両親という風景が、この家に一年ぶりに戻った。

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