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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
十一章 平和な日々、移ろう季節
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二百五十八話「異能力者隠蔽機関の優雅な休日4」

 果てしなく広がる空。

 生い茂る大自然。


 そして――地面に大きくかかれた×のマーク。


 大きさは直径10メートルほど。

 人工ではなく、天然でもなく、はたまた宇宙人に作られたものでもない。

 能力によって作られた物だった。


 その上に立つ二人の人影。


「どうやら封印に綻びは無いみたいだね~」

「そのようです」

 ハミルにデート中だと言われたラティスとリエラだったが、実に色のない会話をしていた。それどころか、ところどころに物騒な単語が出ている。

「これで……もう何年になるかな~?」

「さあ。私も数えるのは止めましたので」

「……やっぱり死後も残り続けるタイプの能力だったのかな?」

「彼とはラティス様の方が親交は長かったはずです。あなたに分からないことは、私にも分かりません」

「……そうだね。あ~、ちゃんと聞いとけば良かったな~」


 この能力、封印と呼んだそれを行った能力者をラティスは知っていた。

 ――年前のちょうど今日の出来事だった。


「私は」

「……?」

「ラティス様が悪かったとは思いません」

「……」

「ただ……そういう運命だったのだと」

 ラティスが落ち込んでいると見て、リエラが励ます。


「運命……そうだね。しょうがないことだった」

「ラティス様……」

「ごめん、ごめん~。それじゃ確認も終わったし帰ろうか」

 いつもの様子からは想像もつかないラティスの空元気。

 この場所に来るといつもそうだった。

 こんな姿を見せたくなくてハミルには内緒で、毎年二人で来ている。


 今年も……元気付けるのは無理でしたか。

 リエラは自分の力不足を痛感する。


「久しぶりにゆっくり昼食を取ろうか。たまの休みだからね~」

「……分かりました」

 そしてリエラの『空間跳躍テレポーテーション』によりその場から姿を消す。




 二人が今までいた場所。

 その座標は――日本の、夏川市の沖合い。


 彰たちが地図にない島と呼ぶその場所に。


 封印は存在する。









 その日の夜。

「『言葉ワード』……か。結構使えるな」 

 彰は自室で外国のラジオ番組を聞いていた。『言葉ワード』を使っているため、まるで日本語のように聞き取れる。


 ハミルから能力を貰った後。

 彰たちは変わらず話をしていた。

 彰が学校で体験したことをハミルは興味深そうにしていたし、ハミルが今までに立ち会った厄介な事件の話はまるで映画のワンシーンのようで聞き入った。

 そうしていると時間はあっという間に過ぎるもので、ハミルが帰る時間になった。


 その直前となって、ハミルが思い出したように話す。

「あ、そうでした。これからの話なんですが……彰さんたちが迷惑でなければ、また能力者に関する事件の解決を手伝ってもらえないでしょうか?」

「いいのか?」

 彰は既に乗り気である。

「どうしても戦闘が避けられない場面もありますので……ルークさんはギルドの執行官という立場がありますから、やはり組織に属していない彰さんたちのような存在は大変助かるんです」

 隠蔽機関はどの組織からも原則中立を貫いている。それほどに彼らが与える影響は大きいからだ。


「……しょうがないですね。本当は彰さんにはもう戦って欲しくないですけど……私だって、高校にはラティスさんの『記憶メモリー』を使って入れてもいましたし、恩がない訳じゃないですからね。困っているときはお互い様ということで」

 恵梨からの許しも出る。

「それでは……今後ともによろしくお願いします」

「ああ、よろしくな」

 彰たちと隠蔽機関。数奇な繋がりの継続が決まる。


「それではすいません、また仕事が入ったみたいで……」

 『探知サーチ』が能力者の反応を掴んだのか、慌てるハミル。

「すまん、最後にひとつだけ。ラティスに伝言を頼んでも良いか?」

「伝言ですか?」

「ああ。――いつかちゃんと話せよ、と伝えてくれ」

「……? 分かりました」

 彰の意図が理解できないながらも、ハミルは承諾した。






 ラジオがニュースから、バラエティ番組に変わったようだ。彰はラジオを消し、『言葉ワード』も解除する。

「機会があったら吹き替え無しの洋画でも見てみるか……」

 ハミルが帰ってから『言葉ワード』の検証をして分かったこと。

 言葉を翻訳する能力という話だったが、正確に言えば勝手に言葉が翻訳されるフィールドを作るといったところか。範囲内なら、能力を発動していない者でも恩恵に預かれる。

 そしてどうやら読みには対応してないようだ。英語の文章を見ても、英語のままだった。

 ……恵梨が英語の宿題が楽にならなくて、当てが外れたって言ってたな。

「ったく、勉強は自分の手でしてこそだってのに」

 まあ使い道としては、今みたいに外国のラジオだったり洋画を見るのに役立つくらいか。海外旅行でも重宝するな。


「それはさておき……隠蔽機関とも長い付き合いになりそうだな」

 すでに一年になろうとしている関係。

 今まで謎ばかりだった彼らも、今回ハミルと話すことで少しは身近になった。

「ハミルの多重能力がああいう理由だったとは」

 あいにく目的は聞けなかったが、それもいつか聞けるのではないか。

 そういう風に関係が進んだのだと。



「――ダウト。全く、俺を騙そうだなんて良い度胸だ」



 彰は全く思っていなかった。




 彰は何を嘘だと、断定したのか。

 それは……ハミルの多重能力の要因。

 『複製移譲コピーペースト』なる能力のおかげだという説明。それ自体は、実際に俺たちに『言葉ワード』を渡した辺り嘘ではないのだろう。

 だが、それでは説明が付かない事態が存在する。


「『複製移譲コピーペースト』ではBランクの能力を受け渡せないのに……どうしてハミルは『探知サーチ』を持っているんだ?」


 ハミルが生まれ持った能力が『複製移譲コピーペースト』だったとしたら、『探知サーチ』の能力者になることは出来ない。

 逆に元々『探知サーチ』の能力者だったとしても、『複製移譲コピーペースト』はその能力自体は渡せないと言っていたので無理だ。

 やはり……ハミルはどちらかの能力を、何か別な方法で身につけたのだ。


「そもそも『複製移譲コピーペースト』なんて能力が普通に存在していたなら、能力者ギルドも知っていておかしくない。……なのに、ルークは能力を身につける方法が遺伝しかないと言った」

 ハミルは『複製移譲コピーペースト』で色んな人から能力を貰ったはず。その過程で『複製移譲コピーペースト』の存在が露見しなかったというのはおかしい。

 おそらく……能力を貰った能力者たちというのもまた特別だったのではないか……?


「全く……謎は増えるばっかりだぜ」

 これらにはハミルの話を聞いてるときには気づいていた。

 なのに、どうしてハミルを問いたださなかったのか。

 それは……矛盾しているようだが、ハミルは嘘をついていなかったからだ。


「あの気の弱いハミルが、嘘をついて騙しておいて堂々とするわけがない」

 実際、ハミルは罪悪感などは無かったように見える。

 つまり、どういうことなのか。


「ラティスが『記憶メモリー』でハミルの記憶を制限した……」


 遊びに行くと聞いて、俺がハミルに話を聞くと予想をして先手を打った。

 『記憶メモリー』をかけてなかった場合ハミルがどう対応したのかは分からないが……とりあえず、ラティスは俺たちに真実を教える気は無いということだろう。


「悪いやつ……では無いんだろうけどな」

 隠蔽機関に害意があったなら、俺たちは研究会との戦いを生き残って来れなかっただろう。情報提供に、戦闘後のサポートにと世話になっている。

 だから……ラティスが俺たちに真実を話さないのは。


「ただ、俺たちが信頼できない、ということ……」


 全く失礼な奴だ。これからも一緒に戦うという関係にまでなったのに。


「申し訳なくは思っているのだろう。だからこうやって『言葉ワード』を渡してくれたんだろうしな」

 ハミルが能力を渡したのは、ラティスの命令ということだったはず。

「まあこの能力に免じて許してやるが……いつまでだってそうなわけじゃないぞ」


 だから、あんな伝言をしたんだからな。








「いつかちゃんと話せよ……か~」

 ハミルが合流した隠蔽機関は、仕事を再開する。

 その日一件目の案件が終わって、ハミルが彰の伝言を伝えたところだった。


「どういう意味ですかね……?」

「あ~……」

 首を捻っているハミルは演技ではないだろう。『記憶メモリー』を使っているのだから、本気で心当たりがないはずだ。


「さすがは嘘が得意な彰さん……バレたようですね」

 事情を知っているリエラは感心している。


「ちゃんと話す……ね。そうだね~……いつか、話す機会が来るんだろうね……」

「……?」

 テンションが低いラティスという珍しいものを見たハミル。


 しかし、次の時にはラティスも気を取り直していた。

「まあ、休んだ分仕事を頑張ろうか~! ハミル、次は?」

「は、はい! 次の場所は――」




 隠蔽機関は謎を抱え、今日も仕事を全うする。

次からは帰還者編です。

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