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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
十一章 平和な日々、移ろう季節
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二百五十五話「異能力者隠蔽機関の優雅な休日1」

連載開始4周年達成&11章『平和な日々、移ろう季節』開幕!


 風の錬金術者である高野彰とその仲間たちが、因縁の相手である科学技術研究会を倒してから数日が経った。


「あれだけ平和を求めていたのに……いざなってみると暇だよなー」

 彰はリビングのソファで横になり、平日の朝からだらだらしていた。

 時は三月下旬、高校生は春休みである。

 例によって早々に宿題を終わらせた彰は、趣味の推理小説を図書室から借りてきた分読み切り手持ちぶさたであった。


「彰さん、そこ退いてください。今日は天気がいいので、シーツを干しますから」

 まるで休日の夫婦のような会話をするのは、同居人である水谷恵梨。研究会との決戦で、両親の復讐を決着させた少女である。


「おう、すまんな恵梨」

 恵梨に追い立てられ、食卓の方に避難する彰。

「全く。彰さん、最近抜けてませんか?」

「仕方ないだろ。俺が戦いに楽しみを覚えるのはしょうがない、って科学的に証明されたんだし」

「あれだけ自己を失いそうになった出来事を、よくそう軽く言えますね……?」

 鹿野田にその事実が明かされたときは、動揺していたというのに。

「つまり平和になって俺が腑抜けるのは正しい」

「開き直りましたか……」

 恵梨が呆れている。


「でも、恵梨が言ってくれたんだろ。『まだ自信を持てないなら、私が言います! 証明します! 彰さんは彰さんです!』って……」

「わー、わーっ!! 止めてください! いざ冷静になって言われると恥ずかしいです!」

「つまり恵梨が証明したようにこれが俺なんだ。……にしても面白いくらい反応したな」

 彰はいたずらが上手くいった小学生のようだ。


 調子に乗っている彰に、恵梨からの反撃が襲った。

「……いいでしょう。そっちがそのつもりなら……『いいんだ、こんな傷ぐらい。俺は……おまえが元に戻ったことが嬉しいから』でしたか」

「……っ!!?」

「あのときの彰さんはずいぶん情熱的でしたねえ……?」

「……やるのか? そっちがそのつもりなら、容赦しねえぞ?」

「『せっかくの家族の団欒に水を指すもんじゃない……って分からねえかな?』」

「分かった、戦争だな! 『………………ですが!! そうだとしたら! 私は彰さんを……!』!!」

 こうして黒歴史を晒し合い始めた彰と恵梨。




 この不毛な戦いの結果はもちろん。


「……ああ、俺何やってんだろう?」

「諸行……無常……」


 両者負けであった。




「…………とにかく。退屈だってことだ」

 傷から立ち直った彰が話を戻した。

「はいはい。分かりましたから、大人しくしてくださいね」

 ソファーのシーツを干し終わった恵梨はそれを取り合わない。


「……はあ。隠蔽機関から何か連絡ねえかな? やつらから連絡来た場合、大体厄介事が発生するわけだし」

 彰はふてくされたように机に手と顔を張り付けて脱力する。

「隠蔽機関とは研究会が能力者という存在を世間に明かしかねないから倒すって目的で協力していたわけですし、それが終わった以上もう頼んでくることは無いんじゃないですか?」

「……そこらへんどうなるか分からねえんだよな。研究会を倒した後はする事が多くてじっくり話す暇がなかったし」

 隠蔽機関とは今後どうなるのだろうか。

 これまでのように厄介事を持ち込んでくるのか? ただの友達レベルで交流するのか? それとも綺麗すっぱり関係を断ち切るのか?

 とにかく話をしたい……が、世界中で活動してるから忙しいだろうな……。やっぱりあっちからコンタクトを取ってくるのを待った方が――。



『彰さん、今大丈夫ですか?』



「ああ、大丈夫だ!!」

 タイミング良く脳裏に響いた声に、脊髄反射で答える。


『ありがとうございます。では今からそちらに行きますね』

 そこまで言ってハミルの『念話テレパシー』が切れる。


「どうしたんですか、いきなり叫んで……ってもしかして」

 恵梨の方には『念話テレパシー』が届かなかったらしい。

「ハミルからみたいだ。今からこっちに来るって」

「隠蔽機関が……何の用でしょうか?」

「さあ……それは言ってなかったが。どうせ厄介事だろ? 俺の風の錬金術が火を吹くぜ……!」

「彰さんそんなキャラでしたっけ?」

 テンションがあがりすぎておかしなことになっている。


 そのとき。

「すいません、急におじゃまして……」

 今からそちらに行く、という言葉通りにハミルがリビングに姿を現した。

 隠蔽機関の一人、リエラの『空間跳躍テレポーテーション』によってであろう。


「ハミルさんお久しぶりです……って、一人ですか?」

「おう、来たか。それで今回はどんな厄介事を持ってきたんだ?」

 人が突然現れるのも、もう慣れた光景だった。恵梨と彰はハミルを歓迎する。


「あ、はい。今日は私一人でして……」

 年下相手にも腰の低いハミル。


「それで今回はどこの能力者が暴れているんだ?」

「……? いえ、そんなことはありませんけど……どうしてですか?」

 ハミルはきょとんとしている。

「彰さん、隠蔽機関が来るときは厄介事も一緒だと決めつけてるみたいなのですいませんね」

 恵梨のフォロー。

「そういうことでしたか。現在、特に抱えてる問題はありませんよ」

「そうか…………」

 見て分かるほどに落ち込んでいる彰。


「……ですけど、特に問題が無いならどうして他の二人も一緒に来なかったんですか?」

 隠蔽機関は基本三人一組で行動している。ハミルだけがやってきたのは、ラティスとリエラが忙しくて来れなかったのだと思っていたがそうではないようだ。

 それに……そもそも。

「だったら……この家に来た目的は何なんですか?」

 彰を否定した恵梨だったが、確かに今まで隠蔽機関がやってくるときというのは問題の後処理か、問題を持ち込んでくる場合のみである。さっきまで日常を過ごしていたのに、後処理は無いだろう。しかし、ハミルは後者も否定している。


「あ、すいません……私、また説明を怠ったみたいですね」

 ハミルは謝罪から入って、今回の訪問の目的を告げた。


「その、久しぶりに休みが取れたので……遊びに来たんですけど……おじゃまでしたか?」


 実に日常的な理由に。

「え、えっと」

 戸惑う恵梨と。

「そうか……」

 それはちょうどいいな。

 良い機会が巡ってきたと思う彰であった。

ここまで続けられたのも皆さんのおかげです。

これからもよろしくお願いします。

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