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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
十章 決戦、科学技術研究会
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二百五十一話「決戦21 彰VS恵梨3」

「お、雷沢さんやないか!」

「火野君か。……そっちも無事切り抜けたようだな」

 実験室を出てすぐ、二ヶ所での戦いを終えた者たちが合流した。


「こっちは李本俊リベンシュンを撃破。そしてやつは何らかの能力により撤退済みよ」

 彩香が端的に状況を話す。

「僕たちはルーク君を援護して、サーシャを突破。気絶して一時は目を覚まさないだろう」

 その意を受け取った雷沢も簡潔に話す。

「そう……なら、研究会に残されていると思われている戦力は……」

戦闘人形ドールと鹿野田……いや、鹿野田自身は戦わないだろうから、戦闘人形ドールのみか」

「彰さんと水谷さんなら大丈夫……だと思いたいんですが」

 ルークが心配する。


「心配は後にしましょう。今は大丈夫でも、大丈夫じゃなくても室長室を目指すべき……じゃないかしら」

「……だな。よし、急ぐぞ!」

 雷沢の声に全員が駆け出す。


 研究会本拠地の広大な敷地を行く五人。

 その途中、隠蔽機関のハミルから『念話テレパシー』が入った。


『すいません! 今、大丈夫ですか!』

「どうした?」

 五人全員にその声は届いていたが、代表して雷沢が答える。

『その、皆さんにも伝えましたけど、室長室の彰さんも恵梨さんも『念話テレパシー』に応じる気配がなくて……』

「それが繋がるようになったのか?」

『いえ、そちらは。……それでちょっと状況を確かめたいと思って、探知サーチを使ったんですけど……今、室長室で彰さんと恵梨さんの二人が戦っているみたいなんです!!』

「二人が……?」

『はい。探知サーチに限っては私のミスもあり得ませんし……その』

「…………」

 雷沢は顎に手を当て考える。


「彰と恵梨が……どうしてそんな」

「おかしいやろ……!」

「んー……あれ、二人だけ?」

「錯乱……何らかの能力? でも、そんな便利な能力者がいるならもっと前から使っていておかしくないですし……」

 四者四様の反応。


「……純の言うとおりだ」

 その内、雷沢は光崎の発言が引っかかった。

「彰君と恵梨君が戦っているとして、室長室には戦闘人形ドールもいるはずだろう? 同士討ちというこの絶好の機に静観しているのはおかしい。

 どういう目的が分からない……つまり、逆説的な決め付けですまないが、これが鹿野田の実験ということだろう」

「でも、どうして彰と恵梨が戦って……」

「……そうだな、やっぱりその疑問は残るな……」

 でも、と雷沢は脳裏で続ける。

 彰と恵梨。二人ともに爆弾を抱えているのを雷沢は認識していた。

 彰は自身の真実、恵梨は両親の復讐。どちらも研究会が知っていておかしくない事柄。そこらを上手くつつけば……。

 二人ともにお互いのケアは頼んでいたが……マズかったか。


「今、室長室ではどんな事態になっているんだろうか……」

 仲間との戦い……一緒に戦ってたはずの味方が敵に回る……地獄絵図だろうな。








 報酬は互いの命。

 彰と恵梨の戦いは止まらない。


 近距離は錬金術による必殺の間合いだ。そのため、お互い遠巻きに牽制しながらチャンスをたぐり寄せようとしている。

「ちっ……さすがに同じことを続ければ学ぶか」

 彰は先ほどからと変わらず、圧縮金属化で作ったナイフを投げていた。

 しかし、恵梨が避けれるときは避け、どうしても風に巻き込まれるときは水を広げて風の勢いを殺すというように対策をしてきたため効果が薄くなっている。


 さらに恵梨の反撃も激しさを増していた。

「解除」

「うおっ……危ないな……!!」

 牽制に投げていたナイフの中に、圧縮金属化で作ったものを混ぜ始める。

 解除と同時に水が広範囲に撒かれ、彰は大きな回避を要求された。

 こっちの圧縮金属化と違って、あっちは素材が限られている以上連発は厳しいのに……。水の消費も気にせず決めにきたのか……?


「さっさと殺さねえと止まらねえな、これは……」

 彰がつぶやく。


 そこに恵梨が囲むように四本のナイフを投げた。四本全てが圧縮金属化により多量の水を含んでいる。

 それが解除されて……彰の逃げ道を一時的に塞いだ。


「っ……!」

 水の中を突っ込むわけには行かない。そうしてはどうしても周りの状況が分からなくなり、狙い打ちされる。

 故に、進行できる方向が前後だけになった。

 しかし前からは恵梨が、後ろには少し行ったところに壁がある。


「また追い込まれていたのか……」

 圧縮金属化で巧みに誘導し、圧縮金属化で退路を防ぐ。凄まじい量の水を使って恵梨はこの状況を作った。見ると恵梨の腕のブレスレットが無くなっている。

「恵梨が手に持っている剣……あれが最後の武器か」

 ここが正念場。

 恵梨の接近を許せば透過攻撃パーミエーションで一刀両断。逆にここを凌げば、素材不足でこちらの勝ち。


「死ねええええ!!」

「止める!」


 恵梨と彰の気勢が行き違った。


 彰は向かってくる恵梨に三本のナイフを投げる。最初に二本、少し間を置いて一本。

 対して恵梨は最初の二本を剣で振り落とし、最後の一本は避ける。


「かかった」

「……!?」


 彰はその瞬間を狙って、手元のワイヤーを操作。

 それに従って、接続されていたナイフが恵梨に向かって曲がる。


「パクってすまんな……解除!」


 そしてナイフの圧縮金属化が解除されて……直撃した恵梨を吹き飛ばした。




 地面にたたき落とされた恵梨。その衝撃で一時的に気を失ったのか、『水靴ウォーターシューズ』も手に持っていた剣も水に戻って、無くなっている。

 彰もその傍らに降りて『風靴エアシューズ』を解除した。


「結局俺の勝ち……だったな」

 彰は一人ごちる。

 その胸中には充実感があった。

 強大な敵に打ち勝つ。

 自分のために戦っていた不良の頃も、守るために戦ってきたこの一年でも味わってきたこの思い。

 原初的な喜び。


「でも、おまえは起きあがったらそんなの関係無しに俺を殺そうとするんだろうな……」

 錬金術の素材が無いことなど気にしないだろう。

 恵梨は、俺を、戦闘人形ドールを殺すまで暴走を止めない。止められない。


「だから俺がトドメをさしてやる」


 今の恵梨は敵だ。

 それも俺を殺そうとしていた敵だ。

 だったら殺し返されても……文句はあるまい。

 そうに……決まっている。


「じゃあな」


 恵梨の気絶は一時的なものだろう。

 さっさと決着を付けるべき、と。

 彰は剣を振るった。






「……あれ?」






 振るった。

 はずなのに。

「最後の力でも振り絞ったか……?」

 恵梨に剣は届いていない。


「まあいい……これで」


 彰は剣を振り落とす。


 そして、剣が止まる。


「……?」


 何が起きている?

 恵梨の能力? ……いや、こんなことを出来るとは思えないし、そもそも魔力の反応を感じない。

 どころか、そもそも恵梨はまだ気絶中だ。


「だったら……」


 今まですっかり忘れていたがこの室長室にはもう二人の人物がいる。

 鹿野田と戦闘人形ドール

「どうしたんですか、さっさとトドメを刺すべきだと思いますけどねえ、はい」

「……」

 しかし、彼らは遠巻きに見守っているだけだ。


 だったら誰が……。

「…………」

 でも、この室長室にいるのは四人のみのはず。

 恵梨、鹿野田、戦闘人形ドールが違うなら。



「剣を止めているのは……俺自身?」



 いやいや……何を言ってるんだ……?

 俺が……トドメをさすべきだと言ってる俺が、剣を止めるってそんなこと……。でも、可能なのは俺だけ……いや、そもそもどうしてトドメをささないといけない?大体俺はどうして恵梨と戦ってちょっと待って何を考えているんだ恵梨は殺さないと止まらないからしょうがないしょうがないのか?何がしょうがないのか?


「っ……!!」

 そのとき恵梨が起きた。

「ちっ……」 

 彰の混乱が一時的に収まる。

 こうなるからさっさと殺しておかないといけなかったのに……いや、だからどうして殺すなんて違う今はそんなことを考えている場合じゃ



 ズブッ!

 脇腹を痛みが貫いた。



「かはっ……!」

 背後からの一撃。

 恵梨が彰の姿を認めるや否や、足首に隠していたブレスレットを剣に変換して刺した。


「見誤った……か……」

 彰は後悔する。

「だから……さっさと……」

 さっさと……何をすべきだったんだ……?


 剣が抜かれ血が流れだす。

 彰はその場に崩れ落ちた。

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