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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
十章 決戦、科学技術研究会
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二百四十九話「決戦19 彰VS恵梨1」

 三所激突、最後の地。

 室長室では仲間と仲間が争って――否、戦いになっていなかった。


「見つけた!」

「くそっ……!」

 『水靴ウォーターシューズ』を履いて空中にいた恵梨が急降下してくる。彰は追われるように『風靴エアシューズ』を履き直して逃げる。

「どうする……どうする……!」

 感情が暴走している恵梨に声は届かない。守る対象相手に剣を振るうのはアイデンティティに反する。

 故に逃げるしかなかった。


「死ね……死ね、戦闘人形ドール!!」

 恵梨の攻撃は激しさを増す一方である。彰は先ほどのように壁際に追いつめられないコースを選んで逃げる。

 手に持った剣、空中で操作する剣、ナイフの投擲、ワイヤーのトラップ……ありとあらゆる攻撃が殺到。その全てを彰は『風靴エアシューズ』の機動力だけで避けていく。


「……」

 でも、これならどうにかなるんじゃないか……?

 逃げてるうちに光明が見えてきた彰。

 俺だって錬金術の能力者。その弱点は十分に理解している。

 それは遠距離では攻撃のバリエーションが乏しいこと。

 自分から約半径2m内の領域エリアでは、錬金術で物を生成したり、作った物を自在に操作できるため、いろんな応用が効く。

 しかし、それより外では生成も操作も出来ないため、ただナイフを投げるぐらいしかない。どうしても点の攻撃になる。


 だから恵梨から距離を取っている間はとりあえず大丈夫。

 しかも水の錬金術には、風の錬金術にない弱点がある。

「素材に出来る水を魔力で生み出せない……このまま逃げ続ければ、そのうち恵梨は戦闘力を失う」

 そうだ、説得でも戦闘でもない第三の選択肢。

 俺はこれでこの場を乗り切る……!


 彰が今後の方針を固める。

 そこに恵梨のナイフが飛ぶ。

「そうなれば恵梨の激しい攻撃性は好都合だな。水が無くなるのが早くなるし」

 最終決戦ということでブレスレットにして十分に水を持ってきてる、と言っていたがそれでもこの消費ペースなら……。

 希望を見いだした彰は、『風靴エアシューズ』でさらに上空に行くことでナイフから遠ざかって。



 そのナイフの軌道が彰を追うように曲がった。



「っ……!?」

 間一髪で避ける彰。

「今のは……」

 彰は振り返る。もしやと思ったが、恵梨とは十分に距離が空いている。

 領域エリア外なのに……ナイフの操作は出来ないはずなのに……!?


 そのとき二本のナイフがまた投げられた。

 見当違いな方向に進んでいたナイフが、彰を狙うように弧の軌跡を描いて迫る。


「ちっ……!」

 恵梨を正面から見てトリックが分かった。

 弧の軌跡……円運動……そうだ、恵梨はナイフを振り回しているんだ。

 見ると細くて分かりにくかったが、ナイフにワイヤーが接続されている。ワイヤーは恵梨の手元から始まっていて、それを動かすことでナイフの軌道を物理的に曲げている。

 点から線の攻撃に変わった。それだけでも厄介なのに、恵梨の攻撃の手数は落ちていない。

 手元のワイヤーは領域エリア内だから、それを錬金術で操作すればナイフを振り回すのに手を使う必要はないからだ。


「一つ一つは大したことがないけど……数が多いな」

 さっきのように不意打ちならともかく、ナイフの軌道は振り回しているのだと分かれば読みやすい。

 しかし、恵梨はそれを同時に四つ操作している。

 ワイヤーとワイヤー同士が絡みそうなのにそれもない。能力の扱いはやはり生まれた頃からしている恵梨の方が自分より断然上手い。


「だけど……ここから工夫でもなければ俺は捕まえられねえぞ」

 恵梨の新技は彰の不意を突いたが、その一撃目でヒット出来なかった時点で駄目だった。

 先ほど以上には回避に神経を使う必要はあるが、当たることはなかった。

 ただ問題は……恵梨が水を使わないことだよな。

 ナイフを振り回している間は、新たに水を使う必要はない。それは彰の狙う決着方法的にまずかった。


「まあ、それでも魔力切れ、スタミナ切れは狙えるか……」

 彰は飛んできたナイフを紙一重でやり過ごしながら、方針を微調整する。




「解除」




「ごぼっ……!? おっ、がっ……!!」

 突然彰の頭が水に没した。

 なっ、どうしてこんなところに水が……!

 驚いてしまい息を吐き出してしまったのがまずかった。足りない酸素を求めて口を開くが、水を吸い込むばかり。

 混乱する彰だったが、その事態はすぐに収束した。


「ぐおっ……はあ……はあ……」

 水が重力に従って落ちる。それにより彰も呼吸できるようになる。

「今のは……」

 服も塗れたが気にしている場合じゃない。

 水……恵梨の錬金術の素材……そうか、圧縮金属化……!

 振り回していたナイフを圧縮金属化で作っていた……! それを俺の顔近くで解除することで今の事態を引き起こした……!

 恵梨の狙いは……俺を混乱させて……!!


「はあ……はあ……。その隙に接近することか……!!」

「死ね」


 やっと呼吸が落ち着いた彰に恵梨が剣を持って迫った。

 逃げることが出来る距離じゃなかったが、そもそも彰の精神はまだ落ち着くことが出来ていなかった。

 状況を確認するのがようやく。どのように対処すればいいのかまで思考する余裕がない。




 結果、本能が身体を動かした。




 ガキンッ!!




「……」

 青の剣を緑の剣で受け止める。

「……」

 恵梨は鍔迫り合いに一瞬移行しようとするが。

「……」

 緑のナイフが生成。自らに迫っていることに気づいて剣を振り払い、距離を取った。

「……」

 彰は追撃せずに自分の体勢を立て直す。

「……」

 恵梨には剣を一旦水に戻して、再度金属化することで相手の防御を無効にする透過攻撃パーミエーションがある。 

 鍔迫り合いに持ち込まれるのは危険だった。


「ふう……」

 そこで彰はようやく一息をついて。

「やっぱ……これしかないよなあ……」


 守る者に対して攻撃できるはずがない。

 彰はそう考えていたのに、あの刹那本能に任せた行動は迎撃だった。


「だってしょうがないよな……」


 恵梨から逃げ切るなんて土台無理な話だった。

 このままでは俺が殺される。


「だったら剣を握るしかないよな……」


 正当防衛。

 法でも許されている行為。


「大丈夫だって。手加減はするし……」


 恵梨は強敵だ。

 手加減している余裕は無い。本気で行かないと。


「それに……」


 本気で殺る気の恵梨と戦えるなんてチャンス、この時以外にあるとは思えない。




「仕方ねえな、恵梨。今、俺が目を覚まさせてやるからな」

 言葉以外に申し訳なさは感じられなかった。

「少々荒療治だが、気にするな!」

 彰は空中に剣を生成しながら恵梨に突進する。




「……」

 恵梨も空中に剣を召喚する。

 頭の中では感情が暴走して、戦闘人形ドールを殺すこと、そのために取るべき手段が思考のほとんどを取っている。

 それでも残りの……ほんの少しの理性が目前の光景に反応する。


 戦闘人形ドールが……ようやく演技を止めた、と。

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