二百四十七話「決戦17 三所激突9」
もう一方の実験室。
「行きます……!」
四人になったルークがサーシャに迫る。
「……」
当然、人が四人に分裂するなどあり得ない。そこにはトリックが、能力が存在する。
そしてこの場合、サーシャは思考するまでもなく分かっていた。
「光分身……か」
敵がわざわざ自ら明かしたワード。
乱入早々、閃光で自分の目を焼いたことといい、援軍の一人は光を操る能力のようだ。
プロジェクターは光でスクリーンに映像を投射する。ルークに見えるように形成した光を、空間に投射することで分身のようにしている。
鏡のように全く同じでなく、四人がそれぞれ違う動作を取っていることから、高度なコントロールをしているのだろうが……所詮、実体を持つのは一人。残り三人はただの映像だ。
四人のルークは時間差を付けて近寄ってきていた。
その一人目と間もなく接敵する。
サーシャはタイミングを見計らって『交換』で逃げた。
「っ……痛っ!!」
ルークはサーシャと入れ替わった本棚を思いっきり殴ったことになり痛がる。
「一人目でビンゴか」
あぶり出し終了。あれが本物だ。
痛がっているルークの映像という可能性はおそらく無いだろう。光を操る能力が、声まで出せるとは思えない。
「……」
そのとき、三番目を走っていたルークが方向転換してこちらに向かってきた。
「タネがバレた能力で何が出来る……」
あっちで痛がっているのが本物だ。この映像の攻撃など避ける必要もない。
光分身で攪乱するのが目的だったのだろうが、こうやって本体さえ掴めれば何も問題はない。
そして映像のルークがサーシャに殴りかかり。
「……ぐっ!?」
サーシャは吹き飛ばされた。
「まだまだ……っ!」
「『交換』!!」
追撃を狙うルークに、サーシャは反射的に逃げる。
「……さすがの反応ですね。けど、ようやく一発です……!」
ルークは初ヒットにガッツポーズ。
「っ、何故……」
そしてサーシャはこの戦いで初めて動揺した様子を見せる。
敵の狙いは見切っていたはず……なのに。
「……」
その隙を逃さず、また一人ルークがサーシャに迫る。
痛がっていたルークはもういない。攻撃のどさくさで分身の中に紛れ込んでいる。
こいつは映像か、それとも実体か……いや、そもそも映像なんてあるのか……?
判断が付かないサーシャは、近づかれる前に『交換』で逃げる。
しかし、ルークは四人いる。
逃げた先でもすぐにまた別のルークに距離を詰められる。
「キリがない……!」
このままではいつ捉えられてもおかしくない。
サーシャは逃げ続けるのを止めて、狙いを変更しようとする。
このおかしな事態はあの女が原因だ。だったら先にやつを――。
「いない……?」
しかし、いつの間にか実験室から光崎と雷沢はいなくなっていた。
出て行った様子は無かったはず。それに光分身を操作している以上、遠くには離れられないはずだ。なのに……。
また一人のルークが近づいてきた。
「くっ……」
サーシャは『交換』で逃げる。
一体……どうなっている……!?
『サーシャもかなり翻弄されていますね』
『そうでなくては困る』
ルークと雷沢の会話は隠蔽機関ハミルの『念話』を通して行われている。
『にしても光分身ですか……。同時に二体も操作できるんですね』
『二体でかなりギリギリだけどな』
『……』
光崎は能力の使用に集中しているため、返事も出来ない状態である。ルーク二人分の映像を独立して動かしているのだ、簡単でないことは想像が付く。
四人のルークの内、雷沢の言った通り二人は光崎による映像だった。
そして一人は当然だが本体。
だったらもう一人は何なのか?
雷沢が答えを言った。
『『二倍』の奥義、『身体二倍』か。便利な技だ』
『そう誉めて貰えると嬉しいですね』
『身体二倍』。能力者の身体自体が二倍になるその技を、二体の光分身を展開すると同時に使っていた。
つまりサーシャの考えは間違っていた。実体があるのは一人ではなく二人である。
痛がっているルークがいるのに、サーシャを殴ることが出来たのも二人いるからであった。
『しかし、サーシャなら気づきそうですけどね。『身体二倍』はモーリスの時に見せていますし』
『だから純に光分身と宣言させたのだろう? それによってサーシャは全部が光分身だと錯覚してしまった』
わざわざ手の内を明かすような愚を犯さない。するとしたら、それは罠だ。
『なるほど……わざわざ必殺とか言わせてたので雷沢さんの趣味だと思ってました。そういうの好きそうですし』
『……』
『あ、あれ……?』
『……そういう面があるのも否定はしない』
わざわざ手の内を明かすような愚を犯す様式美も雷沢は好きであった。
『ともかく、サーシャは四人になった君と正面から戦わないだろう。となればどうするか……簡単だ。ボス戦では厄介な取り巻きから排除するのがセオリーだからな』
『光崎さんから狙うと。確かに探している素振りがありましたけど……今どこにいるんですか?』
ルークからも光崎と雷沢の姿は見えない。会話が成立しているのは『念話』のおかげだ。
そして雷沢は驚くべき答えを言った。
『そうだな、君の後ろだ』
『……っ!』
『振り向くな、位置がばれるだろう』
雷沢の注意。
『すいません。しかし、そうは見えませんでしたけど……』
『『閃光』で光の透過率を操作している。普通には見えないはずだ』
『……便利な能力ですね』
『とりあえずサーシャが混乱している間に『交換』の仕組みを看破する。そのまま追い続けて、『交換』を使わせ続けてくれ』
『了解です』
二人の会話は終了する。
四人の同じ人間が追い、瞬間移動で逃げる、異次元の鬼ごっこ。
警戒を上げたサーシャに攻撃が届くことは無くなったが、サーシャからも反撃をする余裕がないようだ。
しばらく同じ光景が続き――
そしてほぼ同時に二人は思考する。
((見切った――!!))
「なるほど……そういうわけか」
追われながらも時間が混乱を収めたのか、サーシャは雷沢のペテンに気づいていた。
光分身と同時に『身体二倍』……それとおそらく光の操作。なるほど、こんな単純な手に引っかかるとは。
サーシャは現在の異常な事態の原因を理解。
「ならば……これを使うか」
そして次の一手を決める。
『ルーク君』
雷沢はルークに『念話』を送る。
『……どうしましたか?』
『もし、サーシャが『交換』するタイミング、そしてその転移先が分かれば、また逃げる前に捉えることは出来るか』
『その条件なら可能でしょうが……もしかして』
『ああ、『交換』の発動条件が分かった』
雷沢もサーシャの思考を読み次の一手を決める。
お互いの手が局面を動かす。
果たしてどちらの読みが深いのか。




