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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
十章 決戦、科学技術研究会
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二百四十一話「決戦11 彰の真実1」

 科学技術研究会、能力研究派本拠地。

 この地で発生した三ヶ所での戦いはちょうど同時期に小休止を迎えていた。




 能力者の能力とはどこに宿ると思いますか?

「……」

 考えたこともなかった質問。

 彰は気まぐれかはたまた罠か、鹿野田が自身の秘密を教えるという提案に乗った。そこでこの質問が飛んできた。

 落ち着いて考えるか。能力者の能力はどこに……いや、考えてみたら、能力者になるための条件的に……。


「どうでしょうか?」

 鹿野田が催促する。

「遺伝子……じゃないか?」

「ほほう! これは素晴らしい! はい、正解ですよ」

 鹿野田は肯定した。


「彰さん、よく分かりましたね……」

「恵梨も知らなかったのか」

「はい。日本の能力者ではそういう話は……まあ雷沢さんなら気づいていそうですけど」

「まあ考えてみれば分かるからな。能力者になるためには両親共に同じ能力者でないといけない。両親から受け継ぐ物はって考えたら、遺伝子だと思ったわけだ」

 彰の解説。

「そういうことです、はい。能力者にとって大事なのは遺伝子! それを扱うために必要な魔力は、どんな人間にも宿っていますからねえ」

 鹿野田のテンションは高い。。


「……」

 だけど……それでどうしたって言うんだ? 遺伝子に能力が宿っていることが分かったところで、俺が能力を持っていることに繋がっているとは思えない。

 彰は鹿野田の次の言葉を待って。

「これで分かりましたよねえ?」

「……は?」

 きょとんとすることになった。


「ですからこれで君が能力を持っている理由が分かったでしょう?」

「いやいや、そんなの分かるわけねえって」

 冗談を言っているのだと思った。敵だし最初から教える気がなかったんだと思った。

「そうですか? サーシャから聞いた話によると、君はすでに応えに至るためのピースを持っていると思いますが」

 しかし現在、鹿野田は彰の敵としてではなく、研究者として話しているようだ。つまり嘘をついている様子はない。


「答えに至るピースを?」

「しょうがないですねえ……では手助けをしましょうか」

 理解の追いついていない彰に、鹿野田は順序立てて話し始めた。


「まず、能力者の能力は遺伝子に宿る、それはいいですね?」

「ああ」

 先ほど言われたことだ、それくらいは理解している。


「そして君が両親と思われている者は君が生まれる前はこの研究会で働いていました」

「らしいな」

 風野藤一郎さんが掴んだ情報だ。


「風の錬金術者、風野大吾……君に似ているという話は聞いてると思いますが、彼が勤めていたことも……」

「知ってる」

 同じときに聞いた情報。


「以上を繋げれば自ずと分かるでしょう」

「……」

 いや、さっき以上にこんがらがりそうなんだが。

 どうやら鹿野田と彰の頭の働き方は二周りほど違いそうだった。

 でも、これで分かるって言うんだ。俺が知りたかった真実が。……だったら掴んでみせる。


 彰は思考する。

 まずは俺の両親が研究会にいたこと、そして風野大吾が研究会にいたこと。それはつまり両者に面識があったことを意味する。

 そこから彩香は俺が風野大吾の息子だって、予想したんだっけか。でも、それは俺の母親が見つからないってことで否定された。

 だったらここに能力者の能力は遺伝子に宿るという情報を組み合わせたらどうか……いや、特に変わりないな。

 これだけの情報でどうやって分かれって……。


「……ん?」


 そこで彰は違和感に気づく。

 そういや鹿野田はおかしなことを言ってなかったか? 俺が両親と『思っている』者……って。




 ――本当は。

 この真実は雷沢だけでなく、彰も分かっていておかしくなかった。

 前者が気づき、後者が気づけなかった理由。

 それは……自身が無意識に理解を拒んでいたから。

 真実とは必ずしも救いを意味するわけではない。


 カチッ!

 彰の頭の中で何かがはまった音がした。


「いや、それは……」

 分かってしまう。

 鹿野田が言っている意味は……俺の両親は、本当の親ではないということ。

「ありえない……」

 だったら俺の親は誰なのか?

 風野大吾でないことも確か。

「倫理的に、いや常識的にあっちゃいけないだろ……!」

 そこに能力者の能力が遺伝子に宿ること。

 そしてこれは前提。研究会の技術が数年先を進んでいることに気づけば、絶望はすぐそこにある。


「そうですねえ、ではスペシャルヒントを二つ」

 鹿野田はだめ押しに二つの指を立てて見せた。


「まず、私が論文発表会に行った理由。それは君たちを誘い出すという側面もありましたが、主な目的はそこで発表される内容に興味を持ったからです。君なら調べているでしょう?」


 ああ知っている。

『ああ、それか。俺も気になったから調べたけど、色んな研究結果……立体タッチディスプレイ、××××××、脳と運動のメカニズムとかまあ雑多に発表されるらしいな』

 そうだ、発表される内容は――。


「そしてもう一つ。――戦闘人形ドール、メットを脱ぎなさい」


「……」

 付き従っていた戦闘人形ドールに命令を下す。


「……え? 今、それをすることに何の意味が……?」

 傍らで理解が追いつかないまま黙って聞いていた恵梨だが、その指示に疑問を示す。

 しかし、興味があったのも事実。

 今まで絶対にメットを外さなかった戦闘人形ドールの素顔。

 それが現れて――。


「え……?」

 恵梨は呆気にとられ。

「ああ……」

 彰の顔から血の気が引く。


 彰は以前、戦闘人形ドールの顔をメットごしに見たときどこかで見たことがあると思った。

 ――ところで、人が近しい人間の中で一番顔を見ないのは誰か知っているだろうか?

 それは自分の顔である。鏡を使わないと見ることが出来ないからだ。

 つまり彰が見覚えがあっても、一瞬で思い出せなかった顔というのは――。




「彰さんと同じ顔……?」




 恵梨がこぼした通り、戦闘人形ドールのメットの下から出てきたのは彰と瓜二つの顔。


「もしかして……双子なんですか……?」

 困惑しながら、常識的な考えを恵梨は示して。

「違う……」

 彰は否定した。それは彩香との会話で証明されている。

「でしたら……?」

「…………」

 彰は自身が思いついた考えを口にすることが出来なかった。

 口にしたら、鹿野田が反応を示す。

 そこで肯定されたら、どうしていいのか分からなかったから。



「ここまで言っても分からないのですか。ならもう正解を言いますね、はい」

 しかし、焦れた鹿野田は彰が心を落ち着ける暇を待てなかった。


 ――そして真実が示される。

















「君と戦闘人形ドールは――風野大吾の遺伝子から、クローン技術で作られた人間なのですよ」
















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