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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
二章 炎の錬金術者、来襲
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二十四話「昼食3」

 二人のケンカ未遂も終わり、昼食に戻る。

「それで、何で仁司は彰に殴られたの?」

「ああ、それは」

 仁司が美佳に耳打ちする。中身はさっき言っていた、彰が恵梨を襲ったのか? という質問だろう。

「ほうほう。……私も気になるわね」

「おまえもなのか。……俺って信用無いのか」

 彰はうなだれる。

 恵梨と由菜は別の話で盛り上がっているので、恵梨に聞かれないように顔をつけあわす三人。

「そうに決まっているだろ。まぁ、クラスの連中はおまえが真面目なやつに見えているようだから心配してないようだが」

「で、襲ったの?」

「襲った訳無いだろ」

 美佳の追求に、彰はそっけなく返す。

「一つ屋根の下に高校生が二人で何もしないってどういう神経なの?」そこで美佳は何か思いついた表情になり、「……ああ、もしかしてホモ」

「違う!!」

 ここで断固否定しておかないと後でどうなるかが分からない。


「冗談よ。……それにしても、そんな彰と恵梨の関係って何なの?」

 美佳はそう気軽に聞くが、

「止めろ、美佳。事情があるといっていただろ」

 仁司がそれを止める。恵梨が「事情がある」と言ったとき、何かつらそうな顔をしていたのを覚えていたからだ。

 仁司は、そう簡単に踏み込める事情じゃないだろうと推測している。

「そうだったわね。……ごめん、忘れて」

 それを美佳も思い出して、発言を訂正する。

「いや、こっちこそすまない」

 実際、科学技術研究会のことや恵梨の両親が殺されたことなど、彰としても気軽に話せるものではない。

 深く追求しないことを、彰はありがたく思った。



「何の話ですか」

「どうしたの? 私たちには内緒の話?」

 気づけば恵梨と由菜が彰たち三人の方に注目している。

「いやなんでもない。そっちは何の話だったんだ?」

 恵梨の前でする話ではないので、彰は話を逸らす。

「学校の話?」

 美佳もそれに協力してくれる。

「そうですね。何で数学は宿題が多いのかって話です」

 恵梨が意見する。


「たしかに、あの先生の宿題は多いな。だから俺、今日宿題やって来てないぞ」

 仁司は自虐(じぎゃく)ネタで話を円滑にしようとしたが、

「それでも、宿題は出すべきだと思います」

「私でも何とか提出できたよ」

「だから、あんたは馬鹿なのよ」

「そうだな」

 まさかの総スカンを食らった。

「俺に味方はいないのか!?」

 仁司が抗議するも受け入れられない。

 恵梨は真面目なため多い宿題を何とか終わらせていて、由菜もそれは同じだ。そして美佳は割りと何でもソツなくこなすため宿題は終わっているし、課題試験で一位を取っている彰には朝飯前の問題であった。


「くそう! この中で落ちこぼれは俺だけだって言いたいのか」

「え、えと……大丈夫ですよ。まだ高校入って三週間ですし巻き返せますって」

「恵梨。バカには無理よ」

「ていうか、そもそも宿題出してないって、自分でカミングアウトしたよね」

「自爆だな」

 恵梨がおろおろして慰めを口にするが、他の三人は突き放す。


「というか、彰! どうしておまえは宿題をしてるんだ! おまえは普通こっち側の住人だろう!」

 その言葉に彰が不敵な笑みを浮かべる。

「ふふふ」

「なぜ、笑う!?」

「…………残念だが、おまえとは頭の出来が違うんだよ!」

「……くそっ!」

 仁司が大げさに悔しがってみせる。


 恵梨が二人の寸劇を見て、

「でも、頭の出来だけじゃありませんよ。彰さんは努力してますよ」

「ほう。一緒に住んでいればそれぐらいは目に付くと。…………課題試験一位の勉強時間の情報。ふむ。売れるところには売れるわね。……………それで彰はどれくらい勉強しているの?」

「どこに売るつもりだ。……まあ、それぐらい気にしないが。俺の勉強時間は平日二時間ほど、土日は三、四時間ほどだな」

 彰が誇示するでもなく告げるが、

「そんなにするのか!?」

 仁司は愕然とする。

「これぐらい普通……と言いたいところだが、高一としては多い方かもと自負はしているぞ」

「いやー。私もそれは多すぎだと思う」

「それほどでしたか。……さて、メモ帳はどこでしたかね」

 由菜は少し顔が引きつり、美佳は情報記録のためにメモ帳を探している。

 幼なじみの由菜は彰がよく勉強するとは思っていたが、具体的に数字を出されると感覚は違うようだ。


「それなら恵梨は、家の中で彰が勉強している姿を結構見るんじゃないの?」

 由菜が驚き冷めぬまま恵梨に話を振る。

「そうですね」

「恵梨もそれにつられて勉強しないの?」

「ある程度はしますが。……やはりテレビとか気になる年頃なので」

「ああ、分かるわ。そして、それが普通だわ」

 由菜が共感する。


 その横では、

「ははは。仁司! 悔しかったらこれぐらい勉強してみろ!」

「ぐっ! お、おまえは帰宅部で時間が有り余っているだろうが! 俺はサッカー部で練習が厳しいんだよ!」

「それなら、それまでだったということだ!」

「くっ! これが俺とやつの差なのか!」

 二人が観客のいない寸劇を続けていた。



「彰さんって真面目なのに、あんな面もありますよね」

 恵梨の目からは、あんなふうにふざけている彰と、学年で一位の成績を取る彰と、科学技術研究会の戦闘人形(ドール)に立ち向かった彰とが重ならない。

 なので、幼なじみということで一番彰に詳しい由菜に意見を求めたが、

「……本当はあれがあいつの本質なのよ」

 由菜が遠い目をしてそれに答える。

「……由菜さん? どういう意味なんですか?」

「…………まあ、機会があったら本人に聞きなさい」

 由菜はそこで会話を打ち切る。


 そのとき、チャイムが鳴った。


 もう一回聞きなおそうとした恵梨は、機先を制される。

「掃除かー」

 クラスの生徒がそうつぶやく。

「ほら、恵梨! 掃除行くわよ!」

 由菜が一転明るい顔になって恵梨にそう声をかけたため、完全に聞く機会を失った。

 恵梨は「何か誤魔化されたな」と思いながらも、

「そうですね」

 そう答えて、二人は一緒の掃除場所である食堂に急ぐのであった。

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