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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
十章 決戦、科学技術研究会
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二百三十八話「決戦8 三所激突4」

 彰が鹿野田の提案を受け入れたその頃。

 火野と李本俊リベンシュンの戦いも激化していた。


「おら、どうした! 最初の威勢はよお!?」

「くっ……」

 火野が繰り出した剣のミリ単位横を李本俊リベンシュンは駆ける。神業のような所行は、未来が見える能力『未来フューチャー』のサポートによってだ。

 火野もそれで止まると思っていなかったのか、次々とナイフを投擲。しかし同様の光景が続き、李本俊リベンシュンが間合いに火野を捉えた。

 剣を横薙ぐ火野。分かっていたように一瞬距離を詰める足を止めた李本俊リベンシュン

 空振った火野に、李本俊リベンシュンは拳を――。


「ちっ……!」


 攻撃を中断。李本俊リベンシュンはバックステップで視界の外から来た緑のナイフを避ける。

「今の死角だったわよね……」

 彩香はやりにくさを覚える。

「だからどうした。俺に不意打ちが効くわけねえだろ」

 足下、天井にまで及ぶナイフの乱れ打ちを平然と移動している。

「ならこれはどうかしら……解除!」

 彩香はナイフへの魔力の供給を遮断。乱れ打ちの中に仕込んで老いた数本のナイフから暴風が起きる。

 圧縮金属化で作られたナイフ。彰が得意とするその技を、彩香も使えるようになっていた。


「ぬるい、ぬるい!」

 しかし、それさえも李本俊リベンシュンには通用しない。風の弱い場所に退避して、特に体勢を崩すことなくしのぐ。


「まあよく避けるわね……」

 渾身の攻撃をスカされた彩香だが、落胆は少ない。

「サンキューな、彩香」

「これくらいは」

 元からナイフの乱れ打ちは火野が逃げる時間を稼ぐためだったからだ。ダメージを与えられないのも、折り込み済み。


「にしても……言動の割に、彼の戦い方慎重ね」

 彩香はそう分析する。

 今の攻防だって、彩香のナイフを避けながら前に出て、火野を攻撃するという選択もあったはずだ。しかし、迷うことなく李本俊リベンシュンはバックステップで避けた。

 それは警戒しているからだろう。迂闊な体勢で攻撃しては、反撃を――炎の錬金術の応用技、念動力サイコキネシスを貰う可能性があるから。

 炎、エネルギーを操る錬金術として、移動エネルギーや打撃エネルギーを直接相手にぶつけるその技。特筆すべき点は、エネルギー故にその攻撃が見えないこと。

 未来が見える能力にとって、天敵とも言えるその技。実際、夏祭りの時は決着の一手になっている。


 彩香は火野に確認する。

念動力サイコキネシスについて……分かっているわよね、火野」

「ああ、絶対に当たるタイミングでしか使っちゃいけない、やろ?」

「ならいいわ」 

 念動力サイコキネシスにも弱点は存在する。

 それは魔力を消耗しすぎる点だ。一回しか使えない上、使用後は魔力枯渇による疲労状態に陥る。

 そしてその弱点は李本俊リベンシュンにもバレている。夏祭りのとき使って見せたのだからしょうがない。

 だから火野はどうにか念動力サイコキネシスを打ち込む決定的な隙を作ろうとしている。李本俊リベンシュンもどうにか無駄打ちさせようと画策しているに違いない。


「でも……このままじゃジリ貧ね……」

 既に同じような攻防は数回繰り返されている。今こそ火野は攻撃を受ける前に逃げられたが、彩香の援護が間に合わなかったりしたときはきっちり火野に攻撃を入れている。

 反撃を恐れて深入りはしてこないが、このままでは火野のダメージは蓄積していく一方だ。


「策の方の準備はどれくらいや?」

「準備の方は八割。対策潰しは今ので残り二ヶ所ね。一ヶ所は始動する直前でいいとして、もう一ヶ所はやつにバレないようにしたいわね」

「そうか……」

 考え込む火野。

 珍しいわね……。あんまり頭を使うのは得意じゃないのに。

 思えば念動力サイコキネシスを使うための隙を作り出す、という戦い方も頭がいる戦い方だ。それでも何とかやってのけている。

 火野も少しは成長したのかもしれないわね……。


「……よし、この方法なら行けそうやな」

「何か思いついたようね」

「ああ。これなら隙を作れるはずや」

「聞かせて?」

 彩香は火野の考えを聞く。


「……危険じゃない?」

 彩香の感想はそれだった。

「安全に勝てる相手じゃないやろ」

「それもそうだけど……」

 彩香は止めるべきか悩んでいると。


「そろそろ行くぞ……!」

 李本俊リベンシュンが向かってきた。これ以上話し合っている時間は無さそうだ。


「なあ、いいやろ!」

「……しょうがないわね、やるなら、きちんとやりなさいよ!」

「おうっ! 彰と彩香には悪いけど、策の発動前に倒すで!!」

 そして火野は自身の思いつきを実行せんと、李本俊リベンシュンを迎え撃つ。






 そしてもう一つの実験室では、サーシャがガラクタを宙高く投げ上げていた。

「あれは……!」

 ルークは狙いを看破するものの、阻止しようがない。『交換リプレイス』で自分から離れた場所に移動されたばかりだからだ。

 そしてルークはガラクタと位置を交換され、自由落下を味わうことになる。


 二倍ダブルには空中で歩いたり、飛んだりする力はない。こうなっては重力に引かれて落下するのみだ。

「くっ……脚力二倍キックダブル!」

 それでも何とか空中で体勢を立て直し、強化した足で着地するものの。

「隙だらけだ」

「ぐはっ……!」

 サーシャが投げたガラクタが自身に当たる直前に冷蔵庫と交換。直撃を食らう。


 実験室にはガラクタの他に、大型機械などが溢れていてサーシャの『交換リプレイス』の弾が尽きる様子はない。


「今のは……くっ、痛いですね……」

 二倍ダブルで強化しているとはいえ、質量が大き過ぎた。

 ルークは膝を付いて息を整える。

 今までの攻防で、ルークは一度もサーシャを捉えることが出来なかった。

 サーシャの戦い方は堅実の一言。なるべく安全な場所からこちらを攻撃してくる。こちらから近づいても、ルークが間合いに捉えるかなり前から『交換リプレイス』で逃げる。

 消極的だが、相手の狙いは実験が終わるまでの時間稼ぎだ。その戦法で十分である。


「消耗が激しいな……まあ手を緩めるつもりはないが」

 サーシャは言葉の通り休む暇を与えるつもりはないようだ。『交換リプレイス』で姿を消す。

「あっ……!」

 そこでルークは自分のミスに気づいた。

 そういえば近くのガラクタを蹴り飛ばしていない……!

 『交換リプレイス』で近くに現れないようにする対策。しかし、ダメージが大きくて忘れていた。


「やばい……!」

 ルークはサーシャが近くに現れるのではないかと身構える。

 だが。

「行くぞ」

 サーシャはルークの少し前方に現れて向かってきた。


「っ……!?」

 その対応をしながら、ルークは考える。

 今どうして、僕の近くに『交換リプレイス』をしてこなかったんでしょうか……?

 確実に隙だった。背後にでも現れたら、為すすべが無かっただろう。

 なのに実際にはルークの少し前方に現れた。近くに現れたら反撃が来ると思ったから? 消極的なサーシャだが、最初の不意打ちといい隙と見ればそれは咎める姿勢のはず。一貫していない。

 大体、何らかの判断ですぐ近くに現れない場合でも、僕の後ろに出た方がいいはずだ。振り返らないといけない分だけ得するのだから。

 なのに僕が見える範囲に『交換リプレイス』をしたのは……。




 何か『交換リプレイス』出来ない理由があった……?




「そうでした……」

 目の前にずっと追っていた敵が現れて、今まですっかり忘れていた。

 前日の作戦会議後の話。

 雷沢さんによると……『交換リプレイス』はどんな物とでも位置を交換できるわけではない。何らかの発動条件がある、と。

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