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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
十章 決戦、科学技術研究会
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二百三十三話「決戦3 罠」

『で、あるからして、我々の研究は……』

 壇上にはスライドを使って発表を行う著名な研究者がいる。

「……退屈ですねえ、はい」

 鹿野田は開始数分でそれから興味を失っていた。

「所詮表に出ている研究だ。むしろここまで進んだのだと評価してやったらどうだ」

「そうはいっても少しくらい得るものがあると思ってたんですけどねえ」

 今発表されている研究は、既に鹿野田が数年前に実証を終えている内容だった。それを元にしてさらに発展させた研究を行っている鹿野田としては、高校生にもなって足し算の勉強をさせられている気分である。


「まあ、今回は彼らを誘き出すための側面が大きいですから良しとしましょう」

「……っ、合図だ」

 サーシャは短くそれだけを伝える。

「そうですか……ようやく最終実験の開始ですか。それでは手はず通りお願いします」

「了解した」

 サーシャが『交換リプレイス』を発動。その場から消える。

 誰もが壇上に注目しているとはいえ、人が一人消えたとなればやはり目に付く。


「やつら人目も気にせずに……!」

「行き先はおそらく……すぐに伝えます!」

 その一幕を監視していたサマンダとミラは手遅れだろうことを認識しながら、ハミル経由で繋がっている『念話テレパシー』を使った。






 能力『交換リプレイス』は位置の交換というプロセスを踏むものの、その本質は瞬間移動である。

 瞬間移動と聞くとRPGなどでダンジョンから町に戻るような、そういうサポート的な役割を連想しがちだが……それは間違いだ。

 攻めに使えば一撃で場外ノックアウト、守りに使えばどんな攻撃でも避けられる、最高の矛と盾の性質を持つ。


 そんな能力を持つサーシャが、李本俊リベンシュンの連絡を受けて、あらかじめ仕掛けてあった鉛筆と位置を交換し、彰たちの前に現れた。


「なっ……!?」

「遅い」

 驚くルークにサーシャは右手を伸ばす。突然のことに何も出来ないままルークの姿はその場から消えた。

「え……」

「全く、ここは敵地だ。もう少し警戒しろ」

 遅れた反応を返す火野に、サーシャは続けざま接近して『交換リプレイス』を発動。

「っ……二人とも!」

「人の心配をしている余裕があるか」

 消えた二人に気を取られた隙に、彩香もサーシャの肉薄を許してしまい姿を消す。

 気づけば一瞬で三人がいなくなった。


「……くそっ!」

 直前で李本俊リベンシュンの態度に不信感を持ちながらも、不意を突かれてサーシャの接近を許す。


「……貴様は後回しだ」

 しかし、サーシャは『交換リプレイス』を発動しないで踵を返した。

「……?」

 俺を『交換リプレイス』しない……? この場に残すつもりか?


「彰さん!」

 そこに恵梨が戻ってきた。

「サーシャが三人に構っている間に逃げることに成功したのか」

「……いえ、そもそもサーシャは私を狙っていなかったように見えました。彩香より私の方が近くにいたのに狙ってきませんでしたし」

「……」

 恵梨もこの場に残しておくつもりだったということか。

「まあいい。それにしても二人か……厳しいな」

 敵は李本俊リベンシュンとサーシャの二人。さっきまで五対一だった状況が、一手でイーブンまで戻された。

 サーシャの策には警戒していたのに……ちっ、このざまか。


 サーシャは李本俊リベンシュンのところに向かっていた。

「よくやった」

 サーシャは労いながら李本俊リベンシュンの肩に手を置く。

「金の分くらいは働くさ。それに今からがお楽しみだ、逆に邪魔するなよ」

「分かっている。引き続き頼むぞ」

「了解」

 李本俊リベンシュンが頷くと、『交換リプレイス』が発動されその姿が消える。


「……?」

 彰はその光景に疑問を持つ。

 どうして李本俊リベンシュンをこの場から退けさせた……?

 二対二の状況をわざわざ崩す理由が分からない。サーシャ一人で俺たちを相手取るのだろうか? それに李本俊リベンシュンをどこに飛ばした……?


「疑問に思っているようだな」

 サーシャは彰の顔色を読む。

「貴様らは研究成果の奪取を目的にここに来た。むろん罠の可能性も読んでいたが、その場合でも私たちと決着を付けられるという考えだろう」

「……よく分かってるじゃないか」

「ならば、私たちの目的は何だと思う? この場に貴様たち呼び込んで何をするつもりだと思う?」

「…………」

 研究会の目的……考えたことも無かった。

 論文発表会に出席するなんて隙を作って、俺たちを侵入させる。それは何に繋がる?


 サーシャは勿体ぶるつもりは無かったようで、すぐに答えを明かした。

「研究会の理念は科学の追究。無論、今回もそのための行動」

「……」

「つまりは――貴様らで実験したい題材があるということだ」

 そしてサーシャは『交換リプレイス』を発動。




「首尾よく行ったようですねえ、はい」

「…………」




 現れたのは科学技術研究会、能力研究派室長の鹿野田修とその実験体、戦闘人形ドール

 この一年、科学技術研究会とは何回か戦ったが、鹿野田と直接対面するのは初めての戦い以来のことになる。


 サーシャは鹿野田に頭を下げて、臣下の礼を取る。

「後は手筈通りに。結果の報告、楽しみにしている」

「ええ、ええ。それは期待していてください」

 鹿野田の言葉を聞くと、サーシャも『交換リプレイス』により姿を消した。


「……」

 だから李本俊リベンシュンといい、サーシャといいどこに行ったんだ……?

「……いや、そんなの気にしている暇はないか」

 彰は余計な思考を頭を振って追い払う。

 そうだ、敵のボスがわざわざ姿を見せてくれたんだ。チャンスであると同時に、一ミリの油断も出来ない。


 宿敵を前に感情の昂ぶった恵梨が叫ぶ。

「鹿野田! 戦闘人形ドール!!」

「約一年ぶりですか、はい。久しぶりですねえ」

 その剣幕に動じた様子も無く、鹿野田は旧友に対するような言葉をかけた。






 一方その頃。

「ここは……」

「……確か実験室だったかしら。構造がピッタリだし」

 『交換リプレイス』によって飛ばされた火野と彩香。

 二人はどうやら同じ本拠地内の実験室の一つに飛ばされたようだった。


「意外と近くやな……」

「そうね……」

 彩香は考える。

 どうしてこんな近場に……私たちが邪魔ならもっと遠くに飛ばすはず。でも、これなら……。


『ハミルさん、彰はどこにいますか?』

『……えっと、彰さんは室長室にいますね。それにしても彩香さん、いきなり座標が移った感じでしたけど……』

『サーシャの『交換リプレイス』を食らったのよ。情報ありがとう』

 彩香はハミルとの『念話テレパシー』を切る。


「彰はまだ室長室にいるみたい、すぐに戻るわよ」

「おお、そうやな」

 火野が頷いた、その瞬間。

 実験室にさっきまでいなかった人間の声が響いた。


「おっと、そうは問屋が卸さないぜ」


 サーシャの『交換リプレイス』により李本俊リベンシュンが二人の目の前に現れた。






 同時刻。

「ここは……」

 『交換リプレイス』により飛ばされたルーク。すぐにその場所が、本拠地内の実験室であることを把握する。

 ルークは知る由が無かったが、二つある実験室の内、彩香と火野がいない方であった。


 ルークも彩香と同じようにハミルからの『念話テレパシー』で状況を掴んでいると。


「さて、足止めの時間だな」

「っ……サーシャ!!」


 ここに飛ばした張本人、サーシャが目の前に現れた。

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