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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
十章 決戦、科学技術研究会
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二百三十二話「決戦2 侵入作戦2」

 研究所内を進む彰たち。

 事前に掴んだ情報で建物の作りを理解しているため、迷うことなく最奥に向かって進む。


「……何もないな」

「ですね」

 先行する彰とルークの会話。周囲を警戒しながら進むも、罠の一つも見つからない。

「にしても随分と立派な施設だ」

 研究所の機能としてメインで働いているのが、二つの大きな実験室と重要な研究機材などが置かれた室長室。その他には資料室、ここに住んでいるのか休憩室もあり全体としてかなり大きな施設となっている。

『雷沢さん、そっちはどうですか』

『今のところ変わりなしだ』

 ハミル経由で繋がっている『念話テレパシー』を使って雷沢に確認を取る。


「…………」

 拍子抜けするほど順調……サーシャの罠は俺の考えすぎだったのか……?

「いやそんなはずない」

 何度も沸き起こる疑念を彰は否定する。

 絶対にやつは何かを仕掛けている。最後の最後まで油断をしてはいけない。


 しかし、彰の警戒をあざ笑うかのように、特に何もないまま室長室の前に一行はたどり着いた。


「……」

「……」

「……」

「彰さん……」

「いやいや、ここには仕掛けてるはずだから! きっと!」

 みんなの前で絶対にサーシャが罠を仕掛けていると力説した手前、彰の心境は針のむしろだった。研究会との決戦を望んでいた恵梨からの失望が一際大きい。

 ここで最後だ……何もなければ順調に作戦を達成してしまう……! そ、そんなことあるはず無いよな……サーシャ、何か仕掛けてろよ……!

 本末転倒なことを思考し始める始末である。


 恵梨は雷沢に『念話テレパシー』を送った。

「……雷沢さん、中の監視カメラも掌握してましたよね?」

『ああ、そうだが……死角も少々あるがほぼ全域をカバーしている。確認しているが、どうやら異常は見あたらないな』

「だそうですけど、彰さん?」

「よ、よし、罠もないみたいだし順調に作戦を達成できて良かったな!!」

 彰の空元気なかけ声に誰も付いてこない。


「彰さんいい加減認めたらどうですか?」

「……う、うっせぇ!! 勝負ってのは最後まで分からねえんだよ!!」

 そして彰はそのノリのまま、目的地室長室に繋がる扉を開けて。




「ようやく来たか……遅かったじゃねえか」




「ほらな! 罠あっただろ!」

「っ……まさか……」

「やっぱり俺の考えは正しかったんだよ!」

 勝ち誇る彰。


「……何か予想していた反応と違うな」

 待ち構えていた敵、李本俊リベンシュンは肩透かしを食らった。




「……って、李本俊リベンシュン。おまえがどうしてここに」

 ひとしきりやりきった後に、彰はそもそもな疑問をぶつける。

 目の前にいるのは夏祭りで戦った『未来フューチャー』の能力者、李本俊リベンシュン。金至上主義の中華マフィア、黄龍ファンロンの幹部である。

 そんなやつが……どうしてこの科学技術研究会の本拠地にいる。……いや、二つの組織は協力関係を築いている、いてもおかしくは無いし想定の範囲内ではあるがこのタイミングは……。


「雷沢さん、監視カメラでこの部屋を見ていたはずですよね?」

『……どうやら、ちょうど死角の場所で待機していたようだ』

 天井に付けられた監視カメラではどうしても机の裏など、死角が出来る。そこに李本俊リベンシュンは隠れていて、雷沢の目を潜り抜けたようだ。


「どうしてって……あの二人が出掛けるから留守番を頼まれたってだけだ」

 李本俊リベンシュンが答える。

「ここには貴重な研究機材、成果が置いているからな、誰かが狙っているかもしれないとさ。……現にこうして泥棒が現れたわけだし、必要な仕事だろ?」

「……そうだな」

 彰は室内を見回す。

 どうやら室長室はかなりの広さがあるようだ。壁際には雑多に物が積まれている代わりに、中央付近は暴れるのに十分なスペースがある。邪魔なものを壁際に押しやったという、掃除が下手な人間がしたような部屋だ。

 そして監視カメラで見ていた雷沢さんが反応しなかったことから分かっていたが、李本俊リベンシュンが待ち構えていたこと以外罠のようなものは他にない。

 つまり……この状況は……。


「……詰まらない話は終わりです。作戦を遂行させてもらいます」

 彰と同じ思考に行きついたのか、ルークは同行メンバーに声をかける。

「ルーク、敵は分かってるな」

「『未来フューチャー』の能力者ですね。幹部クラスになると、ギルドでも情報が入ってきています」

「ならいい。厄介な奴はさっさと倒すに限る。五対一だが、卑怯なんて言うなよな」

 そうだ、夏祭りの時は苦戦した相手だが、火野と二人だったあの時と違って今は五人だ。全員でかかればそう怖くないだろう。


「おいおい、おまえらにはプライドってものが無いのかよ」

「手加減した方がおまえのプライドは傷つくだろう。むしろおまえを全力で警戒してるんだ」

「物は言いようってか。……まあ、そうだな。いいぜ、来な」

 多対一の状況にも、李本俊リベンシュンは余裕を崩さない。


「……?」

 その態度に彰が違和感を覚える。

 李本俊リベンシュンは戦闘狂な一面もあったが、どちらかというとリアリストな側面の方が強かったはずだ。なのにこの五対一であの余裕はおかしくないか。

 いや、そもそもどうして一人で待っていた。俺らが複数で乗り込んでくるくらいサーシャは予想できたはずなのに……。

「……!!」

 違う、やつの余裕……その根拠は……!


「行きますよ!」

 李本俊リベンシュンの挑発に、ルークを先頭に突っ込んで行く仲間たち。五対一という優位もあり、気が急いていたのだろう。

「いや、待て!! もうちょっと慎重に」

 彰の静止の声と。


「――ようやくその場所に来てくれたか!」

 李本俊リベンシュンがニヤリとした表情を浮かべたのは同時だった。


 やっぱり何か企んでいやがった――!!

「……」

 彰は高速で頭を働かせる。

 にしても場所っていうのはどういうことだ。彰は先行した仲間たちの足元を見る。

 特に変わりが無い……のは雷沢さんが監視カメラで確認していたこと。それは当然の前提。なのに、その場所に何の意味がある……?

 強いて言うなら……短くなった鉛筆が落ちているくらいか。まあ見落としていて当然、ゴミくらい落ちているものだし……。


「……じゃない!!」

 この部屋は壁際こそ汚いが、今いる辺りは掃除が行き渡っている。なのに落ちている鉛筆……この符号が意味するのは……!


「みんな、そこから離れろ!!」

「もう遅い」

 李本俊リベンシュンが懐から携帯を取り出した。


 それは既に電話番号が押された状態で待機されていた。

 ボタンを一つ押すだけで、あらかじめ入力していた……ある人物に連絡を送る。


「そこって……」

 未だ危機を理解していないルークが振り返る。


 鉛筆は能力『交換リプレイス』の媒介……恐らく連絡と同時に発動する取り決めをしているのだろう。

 彰は自身の予想が当たっていたことに背筋を震わし叫んだ。

「サーシャが来る!」

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