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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
十章 決戦、科学技術研究会
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二百三十一話「決戦1 侵入作戦1」

 研究会侵入作戦、当日。

 『電気エレクトリック』の能力者、雷沢は未だにあることについて迷っていた。


「分かってるわよね、彰」

「当然だっての」

 場所は昨日作戦会議を行った高野家と変わらなかったが、メンバーは一人増えていた。『風の錬金術者アルケミスト』高野彰の幼なじみ八幡由菜である。

 作戦には直接関わりはないが見送りに来たようだ。何やら思いのこもった眼差しを向ける由菜に対して、理解しているというようにうなずいている彰。


「…………」

 どうやら既に誓いを……こういうときのお約束として『無事に帰ってくる』だろうか。二人は交わしているようだな。

 それにしても彰君が能力のことを打ち明けるとは……。自分も少し関わったハロウィンの事件が元で仲違いした聞いていたが、解決しているようで何よりだ。


「ねえねえ、タッくん」

「何だ?」

「ああいうの微笑ましいよね」

「……そうだな」

 隣にいた雷沢の幼なじみ『閃光フラッシュ』の能力者、光崎純がいつもと変わらぬ笑みを浮かべている。これから大事な作戦だというのに、緊張感が無いというか、それとも落ち着いているというのか。

 僕たちも幼なじみ同士だし、二人に共感するところがあるのかもしれない。


「それで火野さん……でしたか。その大荷物はどうしたんですか?」

「これはやな、おやつや」

「おやつ……えっと食べ物っていうことですか?」

 能力者ギルドからの参加者として『二倍ダブル』の能力者ルークは『炎の錬金術者アルケミスト』火野正則が抱えている大荷物に疑問を示していた。

 山登り用かと思われる大きなリュックサックをパンパンにしていて、見ているだけでその重量感が伝わってくる。


「あんたねえ、ちゃんと説明しなさいよ……」

「おう、彩香やな。にしてもこれだけの量、よく用意できたな」

「父さんに言ったらすぐ用意してくれたわ」

 そこに割って入ったのが『風の錬金術者アルケミスト』の風野彩香。どうやら火野の大荷物は彼女が用意したらしい。

「えっと……彩香さん、どういうことなんですか?」

「ルークさん……でしたか。気にしないでください。確かに食べ物ですけど、今回の作戦の万が一に備えて彰が用意してくれって言ったもので、おやつだとかいう遊びの要素は一切ありません。そもそもそのままじゃ食べられませんですし」

「そ、そうですか……まあ、彰さんが必要って言ったなら必要になるときが来るんでしょうね」

 ルーク君は文化祭の出来事以来、彰の力をかなり評価しているようだ。にしても彰君が……。昨日僕がルーク君と話している間に打ち合わせしていたのと関係があるんだろうか。


 そして。

 雷沢はそれらのやりとりから我関せずと一定の距離を置いている少女に目を向けた。

「…………」

 『水の錬金術者アルケミスト』水谷恵梨。目をつむって精神を集中させている様子は、彼女が神社の娘だったということに「なるほど」と思うくらい様になっている。

 問題はそれが何のために行われているかだ。

 これから始まる作戦におびえ、緊張しているために精神を集中させないと震え出しそう……という少女らしい理由ではないはず。ようやく訪れた機会に逸り出しそうな自分を落ち着けるためというのが正解だろう。

 両親の仇を討つ……言葉にすれば簡単だが、実際にはどのような感情が彼女の中で渦巻いているのだろうか。

 少々危うさを感じるが……彼女とは今回別行動だ、どうしようもない。彰君も気づいているようだし彼が何とかしてくれるだろう。


「そろそろ時間ですね」

「皆さん準備は出来ましたか?」

 異能力者隠蔽機関のリエラ、ハミルの両氏が声をかける。業務を怠るわけにはいかないということで、彼女たちは今回サポートに徹するようだ。

「ごめんね~。少しは顔を出せるかと思ったけど、仕事が入ったみたい」

 機関の長『記憶メモリー』の能力者ラティスが謝る。どうやらヨーロッパの方でまたも能力者の暴動が起きたようで、そちらに出向かないと行けないらしい。


「目的地までの移動、通信手段の用意、十分な用意だって。研究会は俺たちが始末を付けてくるから、自分の仕事をしっかりしてくれ」

「……本当、頼りになるねえ~」

 彰の言葉に、うなずくラティス。

 尚、目的地までの移動はリエラの『空間跳躍テレポート』で。通信手段はハミルが『念話テレパシー』を作戦メンバーと結んでいるため、ハミルを仲介して意志疎通が出来るようになっている。


「……最後にやつらの様子をうかがっておきましょうか。ハミルさんお願いできますか」

「分かりました」

 ルークの言葉に早速ハミルが『念話テレパシー』を発動して、ミラとサマンダにつなげる。

『あの、そちらの様子はどうですか?』

『こちらサマンダ。鹿野田、サーシャともに異常なし。研究発表を大人しく聞いている』

『ミラです。二人に変わったところはありませんが、依然として考えが読めない状態です。十分に注意を』

『分かりました』

「……異常は無いようですが、『演算予測カリキュレーション』が効かない状態は続いているようですね」

 ハミルは『念話テレパシー』で受け取った言葉を伝える。

「まだ会場にいるんですか……」

「会場と研究会の本拠地までは距離はあるが『交換リプレイス』には関係ない。俺たちが侵入したことに気づかれれば飛んで帰ってくるだろう」

「ですけど防犯システムは全部雷沢さんが切る予定ですし、気づかれない……と思いたいですね」

「はてさてサーシャはどんな罠を仕込んでいるのか……」

 ルークと彰、両者ともにサーシャの厄介さは身に染みている。


「すいません、時間がないので早速ですが……」

 ハミルが申し訳なさそうに言う。

「ああ。作戦の確認は昨日行ってるし、準備は万端……だよな、みんな」

「はい」

 彰が全員に確認を取ると首肯が返ってくる。

「それでは……ご武運を」

「よろしく頼むよ~」

 気合いの入ったリエラと対照的なラティス。

「が、頑張ってください!」

 どうしてそっちの方が緊張しているのかと言いたくなるハミル。

「行ってらっしゃい」

 そしていつも通りの由菜。


 四人に見送られながら、リエラの能力『空間跳躍テレポート』は発動された。

 研究会侵入作戦、開始である。




「さて。既に目の前に敵の本拠地があるというわけだが」

「……あっという間だな」

 作戦執行メンバー七人が転移させられたのは、科学技術研究会能力研究派の本拠地前。建物中に転移して貰わなかったのは、セキュリティを無効化してから侵入する算段になっているから。

 目の前の特に代わり映えのない研究所然した建物は初めて見るものだったが、前もって情報はあったので想像は出来ていた。

「今まで見つけられなかった本拠地。これで王手なのではあるけど……」

「詰みではないからな。警戒していくぞ」

 彰の一言に気を引き締める面々。


「それでは始めよう」

 手はず通り雷沢が入り口横に付いているインターホンに手を置いた。

「何つうか秘密組織の建物にインターホンが付いているのもマヌケやな」

「これでも研究会は公的機関だからだろう。……よし、侵入できたぞ」

 インターホンもこの建物のシステムの一部。雷沢の能力『電気エレクトリック』はそれを足がかりにして、セキュリティの管理システムまで辿り着く。


「どうですか、雷沢さん」

「……情報通りだな。少し待ってくれ。今、順次無力化している」

 雷沢は作業を行いながら、頭の片隅に残っていた逡巡を展開していた。

 僕は未だに悩んでいる。彰君に自分が思いついた仮説を話すのか。

 高野彰という少年がどうして能力を持っているのか。今までに手に入れた情報の断片から自身が立てたそれ。

 間違っている……とは思えない。にしては状況が一致しすぎているから。

 なのに話すのを迷っているのは……それが彰君にとって残酷な情報になるだろうから。自分の手でそれを突きつけるのを躊躇っているのだ。


 今が最後のチャンスだ。言わなければ……能力研究派の室長、鹿野田と相対すれば恐らく彼は真実を語り出す。半ば雷沢は確信していた。

 敵に明かされるくらいなら仲間に明かされた方が……しかし……。


「雷沢さん、まだかかりそうですか?」

「っ、彰君。……すまない、ちょうど終わったところだ」

 考えながらも進めていた作業は完了していた。これでこの建物のセキュリティはすべて無力化されたことになる。

「ありがとうございます。では引き続き異常が起こらないかのチェックをお願いします。それと光崎さんも……」

「うん、タッくんは私が守るから」

「お願いします。……じゃあ俺たちは行くぞ!」

 彰は風の錬金術を発動。武装を展開して先に進む。


 ……今さら押しとどめて話をするわけにも行かない。作戦は動き出した。だったら僕に出来るのは……。

「恵梨君。彰君を頼んだ」

「……任せてください!」

 彰に続こうとすれ違った恵梨に声をかける。恵梨は事情も聞かずに頷いてくれた。


 火野、風野、ルークが続いて建物内に消えて、後に二人残される。

「…………」

 情けないな……もう少し早く決断をしておけば。

「タッくん大丈夫?」

「……ああ、大丈夫だ」

 こうなったら祈るしかない。彰君の強さに、恵梨君の支えに。

 雷沢は頭を振って切り替える。

 せめて自分の役割を全うしなければみんなに顔向け出来ない。今一度セキュリティシステムのチェックを始める雷沢だった。

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