二百三十話「決行前日2」
更新遅くなってすいません。
論文発表会、会場。
そこに前日入りした鹿野田、サーシャの科学技術研究会一行を物陰から監視する存在があった。
「それにしても特に動きは無いな」
「このまま大人しくしているとは思えないですけどね」
能力者ギルド、ルークのチームに所属するサマンダとミラ。それぞれ『過去視』と『演算予測』の能力者である。
『過去視』で対象の姿を見失うことがなく、『演算予測』で対象の考えを読みとることが出来る。相手に戦闘能力がない場合の尾行としては常ならば完全な体制であった。
しかし。
「やつらの考えが読みとれない理由が分かるか?」
「……推測は立っています。カテチナと同じ方法でしょう。それにしてもこう立て続けに能力を無効化されると自信を無くしそうですね」
ミラは嘆息をつく。
『演算予測』を使って鹿野田とサーシャを見ても考えが読めない。仲介屋カテチナのときと同様の事態だが、その入れ知恵をしたのはサーシャだと思われるのでその方法を知っていること事態は予想できていたことだ。
問題はこの論文発表会の会場でも、その『演算予測』対策を行っているということだ。
カテチナは自身の能力『音』によって全身に音を流すことにより体の癖を潰していた。一方、サーシャの能力『交換』で同様の対策を取れるとは思えない。とはいえ予想は出来る。恐らくそういう現象を再現する機械でも作ったのだろう。鹿野田は技術者だ。それくらい作れてもおかしくはない。
しかし機械……ということはこの場で作れるものではない。あらかじめ準備をしていたということ。
つまり……この場に私たちが現れるのも予想済み……?
「明日の作戦……罠が張られている可能性が99%を越えましたね……」
ミラが予想を修正していたその頃。
「見つけた。北東に53m。……ギルドはやはりルークチームを出動させたみたいだな」
「よく見えますねえ、サーシャは」
サーシャはミラとサマンダが尾けている後方を振り返らないまま、その姿をとらえていた。
「ルークの姿が見えない……こちらの状況確認には二人で十分と判断したか」
「打倒ですね、はい。用意をしておいて良かったです」
鹿野田とサーシャが着ている服には『演算予測』を無効化する仕掛けが施してあった。といってもそれは簡単で部分部分に付けたユニットが振動するというもの。ただそれだけで考えを読む恐ろしい能力が機能しなくなっていた。
「『演算予測』は人の癖から考えを読むという離れ業をやってのけますからねえ。素晴らしい能力ですが、人の癖なんてものをあてにしているそれが極繊細なバランスで成り立っているのは素人でも分かることです。はい。ですからこうやって少しノイズを入れると崩れてしまいます」
「……だとしてもそれを見抜くのは常人では出来ないと思うが」
「そうですかねえ?」
天才特有の出来ない者の気持ちが分からない鹿野田。
全く。鹿野田といるとこれだ。昔から頭がいいだの秀才だのもてはやされた私が馬鹿に思えてくるのだから。
サーシャが鹿野田と出会ってから幾度と無く抱かされた気持ち。
しかし、サーシャはそれが嫌ではなかった。
「……あの二人はどうする?」
「それはサーシャに扱いを一任していたはずですが、はい」
「一応の確認だ」
「そういうことなら予定通り無視で行きましょう。彼女たちは実験題材にするほどの能力じゃないですから」
「了解」
鹿野田とサーシャは尾行に気づきながら何もしない。歯牙にかけるほどの障害だと思っていないからだ。
鹿野田がぽつりとこぼした。
「明日……ですねえ。サーシャに限って無いとは思いますが、仕掛けの方は大丈夫ですか?」
「場所も、建物内の見取り図もバレていて、そして夏祭りの時に私の正体を見抜いた彼がいればセキュリティも突破されるか。それでもやつらは引っかかる。こういうものはシンプルな物ほどいい」
「ならいいです。はい」
「それにしても珍しいな。そんなことを言い出すなんて」
「明日の実験は万全の状態で行いたいですからねえ。私だって長年の成果が出るのかは気になるものですよ、はい。本当に彼、高野彰にまた出会えたのは幸運でした」
「まあ、そうだな」
「明日の実験。こればかりはどういう結果が出るか私にも分からないものです、はい」
「どうした? さっきからいつもにない言葉ばかりだぞ?」
「流石に私も人の心……神が作りし物を扱いきれているかと言われると自信がないものでしてねえ。ですけど、これこそが科学の探究ってやつですから」
そして鹿野田はつぶやく。
「結果が分からないからこそ、実験をして確かめるのです」




