二百二十三話「彰の事情、研究会の事情」
「能力者ギルドと合同……ですか?」
「ああ。研究会の本拠地に突入しないかって話だ」
所変わって日本。彰の口から事情が話されたところだ。
「話の経緯なんだが、元々隠蔽機関は研究会を潰しておきたい立場だ。だから今回のギルドの作戦を聞いて協力を申し出た。その時に俺たちの存在も伝えたってことらしいな」
それで作戦メンバーの候補に加えられたのだという。
「ちなみに俺は乗り気だ。向こうの作戦ってのに乗らないといけないのは癪だが、敵の本拠地だ。戦力は多ければ多いほどいい。……でもまあ俺の一存で決められることじゃないから、みんなの意見を聞いておこうと思ってな」
彰はギルドとの合同作戦に賛成の立場だ。
「……その返事の前に二つ聞きたいことがあるのだけどいいかしら?」
手を挙げて発言したのは彩香。
「何だ?」
「まずはちょっと些細なことかもしれないけど、鹿野田達が出席する論文発表会って何かしら?」
「ああ、それか。俺も気になったから調べたけど、色んな研究結果……立体タッチディスプレイ、クローン技術、脳と運動のメカニズムとかまあ雑多に発表されるらしいな」
「やっぱり……それって鹿野田が戦闘人形なんかの技術を発表する可能性は考えなくていいわけ? 隠蔽機関あたりは黙って無さそうだけど」
「それはない。鹿野田は発表する側じゃなくて見学する側での出席みたいだからな」
ギルドが裏付けのために調べたところ、鹿野田とサーシャの二人が見学側で参加するのは確定らしい。
「それならいいわ……じゃあ二つ目の質問。彰は戦力は多ければ多いほどがいい……って言ったけど、やっぱり戦いになることを想定しているのね?」
「想定じゃない。俺の中では確定している」
ギルドが立てた作戦は鹿野田達がいなくなった隙に侵入するというもの。戦いなど起こらないという見通しをルークやミラも疑っていたが、彰は真っ向から否定している。
「まずサーシャが残した情報ってのが怪しい。あいつのやり口は正しい情報の中に嘘を入れて騙す、だからな」
「でも、その……真偽審判って能力者が今回の情報を正しいって判断したんじゃないの?」
由菜が自分の記憶をたどって質問する。
「ああ。詳しく聞いたところ……本拠地の場所、その見取り図、スケジュールの三つの情報が正しいのかを判断してもらったみたいだ」
つまり本拠地じゃない場所を書いて罠に引き込むことも出来ない。見取り図で重要な施設もバレている。そして偽のスケジュールで欺くことも出来ない。
「ほら。だったらこの作戦成功するじゃない」
「……違う。そういう次元で物事を考えて勝てる相手じゃないんだ」
彰が苦い経験をした夏祭り。その際は自らを能力者ギルドだと、仲間だと偽って欺きに来た。あの時みたいな……そもそもの前提を破壊する嘘が既に仕込まれている……そんな気がする。
「だけど正直俺は罠なら罠でいいんだ」
彰はさばさばと言い切る。
「罠ってことはあいつらは何らかを仕掛けてその先で待ってるってことだろ。なら、その全てを踏み越えて鹿野田、サーシャ、戦闘人形と対峙してやる」
彰はずっと相手から仕掛けられてばかりで溜まった鬱憤を、こちらから攻めるこの機会に爆発させようと思っていた。
「……ま、彰らしい考え方ね」
彩香は小さくうなずく。
「私もギルドの計画に乗ることで賛成。そもそも敵の本拠地だもの。備えは万全にしておいた方がいいし、何か仕掛けられているのも覚悟だわ」
これで賛成に二票。実際に作戦に参加するのは由菜を除いた四人だから、票は半分取られたことになる。
「俺も賛成やな」
そして火野も賛成に票を投じる。
「具体的な損得とかはあんまり分からんけど……まあ、彰と風野がいいって言うんなら大丈夫やろ。それにこういうのは足並み揃えることが大事やし」
火野なりに考えた理由も披露される。
「残るは恵梨だけだが」
「…………ズルいですよ、彰さん」
過半数の票が取られ、もう恵梨が反対しようが決定は覆らない。
「私的には……今すぐにでも突入して敵を討ちたいって思いは変わらないです」
研究会との因縁が一番深いのは恵梨だ。それだけに逸る気持ちも皆理解している。
「ですけど私一人でそれを成し遂げることは出来ません。皆さんの力を頼りにする以上、火野君の言った通り足並みを揃えることは大事……ですよね」
「そうだな。……まあ鹿野田達も逃げるわけじゃないんだ。あと少しだけ待ってくれよ」
「分かりました」
最初から彰がネックに思っていた恵梨の説得も無事に終わり、ほっと息を吐く。
「もちろん罠だと分かっていて無策で突っ込むようなことはしない。ギルドが入手したって情報を要求して対策は立てるつもりだ。……幸い、時間はあるようだしな」
彰が付け足すように言って。
「それじゃギルドの方には了解で返しておく」
その一言で話し合いは終了した。
科学技術研究会、能力研究派本拠地。
「……さて、ギルドはどう動くか」
今までは筒抜けだった情報も、ギルドが警戒度を上げているのかサーシャの元に入ってこない。
それでもどう動くか予測は付いているつもりだった。
「論文発表会……ここが決戦の時だろうな」
今の情報が入ってこなくとも、過去の情報は積み重なっている。サーシャにとってギルドの上層部がどう考え、どう動くくらいか予測は可能だった。
それに……既に仕込んだ嘘がその予測を容易にしている。
ギルドが掴んだ情報の内――。
本拠地の場所……これは正しい。
本拠地の見取り図……これも正しい。
自分たちのスケジュール……これもまた正しかった。
サーシャが仕込んだのは一点。
これがカテチナが持っている情報だった、という嘘。
真実はルークがカテチナの隠れ家を補足、逮捕してから、カテチナの家探しが行われるその間にサーシャが置いて行った情報だった。
バレた情報ではなく、バラした情報。
その二つは似ているようで大きく違う。認識しているということは対策を取れるということだから。
要するに彰が罠だと感じ取ったその嗅覚は正しかったのだ。
「ギルドだけじゃなく高野達も動くだろうな」
この一年、偶然もいくらか重なっているものの、散々ちょっかいをかけたことになる。こちらの本拠地が分かって黙ったままいられる性分だとは思えない。
「……高野辺りにはそろそろ嘘が通じ無さそうだな」
サーシャもまた彰が罠だと見破るだろうことを計算に入れていた。見破って尚突入するだろうことまで分かっている。
というより、そうでなければ始まらない。
次の実験は……鹿野田様が直々に行う実験には、高野と水谷の二人がいなければ成立しないのだから。
「私の役目はその障害を排除すること」
また今回も鹿野田様の為に働くことが出来る。心より崇拝する方に、自身の全力をささげることが出来る。
「ふふっ……」
何とも充実した人生だな。
お互いがお互いの思惑を承知した上で準備が進む。
決戦の準備が進む。




