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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
九章 年末年始、決戦準備
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二百二十二話「ギルドの事情」

 アメリカ、能力者ギルド。

 執行官のルークは上から降りてきた命令書に文句を言っていた。


「どういうことですか、これは?」

「……もう一回説明した方がいいでしょうか?」

 同様に命令書を見ていたチームの一員、ミラが答える。

「いや、そういうことじゃなくてですね」

「すいません、分かっています。……確かに文句の一つは付けたくなりますね」

「でしょう」

「仕方ないだろう。もう決まったことだ」

 不満を一蹴するのはチームの年長者、サマンダ。


「科学技術研究会、能力研究派の本拠地調査。決行は三月下旬。これはもう覆らない」


「二ヶ月は先……ですか。そんなことせずに今すぐ乗り込むべきなんですよ」

 ルークの不満の主だった内容はそれだった。




 仲介屋カテチナを先日捕えたルーク一行。

 これで『日本の能力者の調査』を頼んだと思われるサーシャにまた一歩近づいた……そう思っていた矢先だった。カテチナの隠れ家からサーシャの、能力研究派の情報が出てきたのは。

 つまり近づいたのではなく、ゴールに辿り着いたということだった。


「どうやらカテチナはサーシャにかなり信用されていたようだな」

 出てきた情報を見た能力者ギルドに勤める大多数の人員の見解だった。

 能力研究派の本拠地の所在、その見取り図、行動スケジュールなど次々に出た情報を見ればその判断も当然だろう。

 その中の一つ、行動スケジュールには興味深い情報があった。

『論文発表会』

 空白がほとんどなスケジュールの中に書かれたその文字列。

 いつもは籠って研究ばかりしている鹿野田が唯一外に出ると思われるその機会。

「……ここだな」

 ギルド上層部はそこに目を付けた。




「要するにこの本拠地調査っていう文言は名目で、上は研究会の研究成果を盗もうとしているってことですよね?」

「その通り」

 それは分かる。研究会は、というより鹿野田は能力者について詳しい。戦闘人形ドールなんて物を生み出した他にも魔力の流れの可視化に成功したという噂もある。

 能力者の感覚として魔力は感知できるが、例えば町中につけられた監視カメラに魔力の可視化を施すことが出来れば、能力者の動向をいち早く察知することが出来るだろう。上が欲しがるのも分かる技術だ。


 問題なのは。

「それならどうしてその発表会ってのに出た隙に侵入するような手筈を組んでいるんですか? ギルドの力に物を言わせて研究成果を奪い取ればいいじゃないですか?」

「……そんなこと鹿野田が許すと思う?」

「許すも何も力で……」

「いいえ。その前に鹿野田は自ら研究データを消す」

 ミラは否定する。

「研究者にとって研究は命より大事なものだってことだ。おまえだって犯罪に自分が利用されるくらいなら、死んだ方がマシって思うだろ?」

「まあ……分かりますけど」

「分かるな。命は大事にしろ」

「いたっ!」

 前後が全く繋がっていないサマンダの物言い。頷いたルークの頭にチョップが落ちる。


「命より大事なものなんてないだろうが」

「サマンダが言ったんじゃないですか……。それに鹿野田だって」

「鹿野田は狂人だからだ。そっち側に引っ張られすぎるな、普通の感覚も大事にしろ」

「……分かりました」

 半分くらいしか分かっていないが、ルークは大人しく分かったフリをした。


「つまり強行に侵入したんじゃ、それに気づいた鹿野田によって研究成果を消されて逃げられるから、気づかれないように侵入して盗むってことですよね?」

「そういうこと」

「……そう上手くいくんでしょうか?」

「「………………」」

 ミラとサマンダ二人は黙る。


 最初から文句を言ってた通り、ルークはこの作戦に反対だった。

 場所が分かったならすぐに突入すべきだ。九月に対象と接敵した日本の能力者が言うには、風の錬金術者、戦闘人形ドールの力が増しているようだった。その後何回かのちょっかいも戦闘人形ドールの為のデータ採取が目的だと判明している。敵に時間を与えるのはその戦闘人形ドールの強化を許すことになる。それは下策ではないかと。

 上司を通じて打診したルークの意見。対する返答はこうだった。

 今回の調査では戦闘が起こらない予定だ。よって相手が力を付けていようが構わない、と。


「確かに上の理屈も分かるんですけど……ねえ……。サーシャに騙されているっていう可能性は無いんですか?」

 常識的に考えれば敵が漏らした情報を鵜呑みするのは危険だ。罠の可能性がある。

真偽審判ジャッジが情報の裏は取っている」

 しかし、それはギルドには通用しない。真偽審判ジャッジという能力者がいるからだ。

 情報に対してそれが正しいか、嘘であるかを判別できる能力者。今回の件でもその能力者は動いていて、カテチナの隠れ家から出てきた情報が全て正しいことを証明している。


「それでも……サマンダの言ったことだったり懸念材料はありますが」

「ああ。能力研究派がいきなりカテチナに仲介した件だな」

 サマンダは今回の件を受けて、今まで感じていた疑念を打ち明けていた。

 能力研究派は今回ギルドに対して初めて依頼するのに、仲介の通し方が慣れすぎているということ。つまりアドバイスを出したところがあるのではないか、と。

 例えば昨年の八月、日本の夏川市で起きた事件から考えるに協力体制にあるその組織。

黄龍ファンロン……調べたところ、仲介屋カテチナを懇意に扱っていたようですね」

「やっぱりか……」

 サマンダの疑念が真実味を帯びてくる。


「確かに黄龍ファンロンが仲介ルートに出てこなかったのはおかしいですね。サーシャにカテチナのことを教えただけ……ってのも無駄が多い気がします。そのまま黄龍ファンロンが依頼を仲介すればいい話ですから」

 ミラが自分の考えを伝える。

「カテチナにそれを確かめることは出来ないんですか?」

「もう無理。出てきた情報で十分と判断されて、取り調べもせずに警察に引き渡された。それに真偽審判ジャッジも既に別の案件にかかりっきりで忙しい」

 能力者ギルドは公の組織ではないので犯罪者を裁くことは出来ない。なので捕まえた犯罪者は表の警察に渡される。真偽審判ジャッジもその能力の有用さ故にいつも忙しい。


「そうですか。……まあ出てきた情報は正しいんですし、仲介については何らかの気まぐれってことでしょう。大丈夫ですよ!」

「…………」

 ルークほど気楽に構えられないミラは首を縦に振ることが出来ない。


「……ああ、そういえば今回の作戦について新たな知らせだ。命令書の裏を見てみろ」

 サマンダは二人の雰囲気を察知してか、自然と話を変える。

「え、裏もあるんですか? どれどれ……って」

「…………意外」

 二人とも呆気にとられた表情になる。


 そこには今回の作戦の執行メンバーと――メンバー候補が書いてあった。


「どちらも返事待ちだがな。ルークおまえにとってはいいニュースじゃないか?」

「……そう、ですね。久しぶりに会えるんですか」


 一連の事件のきっかけ。

 六月にあった連続殺人事件をルークと一緒に追ったその人。


「彰さんが付いて来てくれるなら百人力です」

「……彼らが動くとは珍しい」


 候補には日本の能力者一同と異能力者隠蔽機関の名前が書いてあった。

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