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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
九章 年末年始、決戦準備
230/327

二百二十一話「始業式」

 三学期初日。

「おはようございます」

「おはよう」

「おーっす」

 恵梨、由菜と共に登校した彰は。

「「「…………っ!?」」」

 教室に入った途端に激震が走ったことに気付いた。


「……どうした、みんなそんな驚いた顔して」

 いち早くそれを察知した彰は近くにいた斉藤に問う。

「恐らく彰くんと由菜さんが一緒に登校してきたことが問題かと」

「俺と由菜が……ああ、そういうことか」

 ハロウィンの後、彰と由菜が無視し合っていたことはクラスメイトにとって周知の事実。既に仲直りしているがそれは二学期の終業式後のことであったため、大多数のクラスメイトはまだ知らなかった。

「まあ僕は協力した側なので、顛末は聞いてますが」

 驚いた様子の無い斉藤を見ると、そのような返答。


「すまんな、みんな。今まで雰囲気を悪くしていて。もう問題は解決したからこれからはいつも通りだ」

 恵梨同様クラスメイトに迷惑をかけた自覚を持った彰は一礼と共に謝罪する。

「ふう……」

「良かったわ」

「やれやれ」

 それを見たクラス中に安堵の息が漏れた。




「彰」

 自分の席にカバンを置いたところで彰は声をかけられる。

「どうした仁志。宿題の追い込みはしなくていいのか?」

「大丈夫だ、土下座の用意はしている」

「……それは大丈夫じゃないんだが」

 仁志のドヤ顔に呆れの表情を浮かべる彰。

 冬休みに出された宿題がまだ終わっていないのか、机にかじりついているクラスメイトが教室内にはちらほら見える。


「それより……解決したんだな」

 仁志の視線の先には由菜の姿。

「メールでも報告しただろうが。おまえも一枚噛んでたんだってな」

「自分の目で見てようやく実感したんだよ」

「そうかい、そうかい」

「ほんと俺が殴る必要が無くて助かったぜ」

「抜かせ。二年前だっておまえは殴られてばっかりだったろうが」

 仁志も二年前を経験した者として今回色々思うところがあったのだろう。


「それで。聞かないのか?」

「何を?」

 聞き返す仁志は本気なのか、それとも分かっていてとぼけているのか。彰には判断が付かなかった。

「どうして俺と由菜があんな事態になったのか。その理由をだよ」

「……前回と違って今回の理由は難しいんだろ。何となく分かるぜ。なら聞いたって俺には理解できないだろうよ。だから聞かない」

「そうか」

 全く……こういうときだけ察し良くありやがって。


「俺が出張る必要が無かったのも水谷のおかげだな。ちゃんと感謝しとけよ」

「……それはおまえにか? それとも恵梨にか?」

「両方だ」

「ちゃんと恵梨には感謝してるさ」

「俺にもしろっつーの。……ま、元に戻って良かったぞ。じゃあ俺は最後の追い込みに戻るわ」

 ひらひら手を振って去っていく仁志。土下座すると言ったのも冗談だったようだ。


「俺は……いい仲間に恵まれたな」

 また一つ自分の幸運を噛みしめながら、彰は仁志を見送って。

「おい、仁志! 三組の池田がめっちゃイメチェンしてるぞ!」

「マジか!? ちょっと見てくる!!」

「…………もう少し余韻に浸らせてくれよ」

 三秒前の自分の発言すら忘れて教室を出て行く仁志を、彰は学級委員長として見過ごせず追いかけるのだった。






 滞りなく始業式も行われ、放課後。

 高野家に集まった彰、恵梨、彩香、火野の能力者たちと一人。


「由菜さんも参加するんですか?」

「もう能力の事を知ってしまったんだし、話に参加しても支障はないだろ。それに由菜たっての望みでもある」

 異能力者隠蔽機関からもたらされた情報を共有するために彰が集合をかけたのだが、そこには由菜も一緒に居た。

「うん……もう置いてきぼりは嫌なの」

「……ですね。私は歓迎しますよ」

「私もよ」

 由菜の感情のこもった語りに、同調する恵梨と彩香。


「………………」

 そういえば、冬休み中三人で集まったって話を聞いたな……。能力のことを黙ってたので謝罪するって話だったけど、それ以外にも何か話をしたのだろうか? 三人に共通の理解がある気がする。

「今まで彰が経験してきた事件や能力者の常識ってのも説明受けたし、一般人の観点から意見出し頑張ってみる」

 小さくこぶしを握って見せる由菜。

「まあ、もちろん事態を共有するだけだ。危ない場所だったりには絶対に近づかせない。その約束は守れよ」

「分かってるって」

 由菜はうなずく。


「ところで仁志に能力の事を共有するかって話はどうなったんや?」

 火野が話に入ってくる。

「それなら朝聞いてきた。難しいだろうからいいだって。……たぶん、話しづらい事情を読まれたんだろうな」

「案外本気でそう思っているかもしれんやろ?」

「まあ真偽は闇の中だ。……それでおまえはどうしたんだ?」

「何が?」

 火野は首をひねるが、この場にいる人間、学校のクラスメイトたちも聞きたがっていただろう。

「いや、その火傷の痕のことだ」

 火野は全身に火傷の痕を負っているのだから。

 その生々しさ故にみんな聞くのを躊躇ったのだろうが、ようやく彰が質問したというところだった。


「ああ、これか? 正月に久しぶりに実家に帰ったら、理子の奴が『どうして私に相談も無く転校したの!!』って怒ってな。それでだ」

「……すまん、途中を省かないでくれ」

 理子とは火野の妹のことだろう。GWの能力者会談の時に会ったことがある。

 その妹に一言も無く転校した火野も火野らしいが、どうしてそれが全身火傷の事態に繋がるのか?


「いや、久しぶりに会えて恥ずかしがってるんだろうなって思って、理子の頭を撫でてやったんや。そしたら顔を真っ赤にして……怒ったんかな? それで炎の錬金術で牛みたいなの作って、その中に閉じ込められて火を付けられたってところや」

「……よ、良く生きて来れたな」

 尋常じゃない冷汗が噴き出す彰。

 以前拷問好きの館主人が出るミステリーで読んだ覚えがある。

 ファラリスの雄牛。

 真鍮で出来た牛型の置物に人を入れて、その下で火を焚く。中にいる人間は熱さでのたうち回りながら炙り殺される。確か、古代ギリシャで生み出された拷問の方法だったはずだ。

 そう……だったな。火野の妹、理子は錬金術による拷問のエキスパート。

 能力者会談の場、目の前で行われた石抱や逆さ吊りを思い出す彰。あれから能力の扱いも上手くなった自信があるが、あそこまで鮮やかに拷問するのは今でも無理だろう。

 今回のファラリスの雄牛だって……人が入れるくらいの大きさの金属の精製、しかも雄牛型に。そして火野が閉じ込められたということは、それには開閉するための機構も付いていたはずだ。ドアだったり、蝶番だったり……俺はそこまで作れるか……?

「無理だな……」

 理子の矛先が兄だけに向いていることに彰は深く感謝する。


 そして案の定、恵梨と彩香の感想は。

「理子ちゃんお兄ちゃんっ子ですからね。そりゃ黙って出て行かれたら怒りますよ」

「まあ、照れ隠しの一面もあったんだろうけど」

 能力者会談の時もそうだったが、呑気なもの。あそこまで火傷していてそれを兄弟愛などと片づけていいのだろうか? ……いや、愛が無いならもっと悲惨だ。そういう結論にしておこう。




「さて、話をずらして悪かったな……」

 彰はその一言で話を戻す。

「今日は異能力者隠蔽機関から貰った情報のことだったが……そうだな、能力者ギルドのルークは説明しなくても分かるよな」

「文化祭の裏で彰さんと一緒に行動していたっていう人ですよね?」

「ギルドの実行部隊、執行官とかいう役職に就いているとか」

 この中でルークと会ったことがあるのは彰だけ。だが、恵梨も彩香も説明は受けている。


「そうだ。あいつもあいつでその時の犯人、モーリスを騙したサーシャを許せなくて、捕まえようと必死になっている。それでハロウィンの時の依頼『日本の能力者の調査』の依頼主を突き止めることで、科学技術研究会の本拠地を抑えようとしたんだ」

「……そもそもギルドに依頼しに来たのはそのサーシャって人じゃないの? なら、その時に捕まえればいいと思うけど」

 由菜の疑問はもっともだが、彩香が先に否定した。

「ギルドに追いかけられているサーシャがノコノコ依頼しに来るわけないわ。仲介を挟んだんじゃないかしら?」

「その通り。実際、仲介を一件だけじゃなく何件も挟んでいたようだ。……だが、それも全て辿っていけばサーシャに迫ることが出来る」

 地道な作業だっただろう。それでもルークは手を付けた。そして、

「それで結果は……」


「見事、科学技術研究会、能力研究派の本拠地を暴くことに成功したようだ」


 ルークの努力は実を結んだという訳だ。


「これで科学技術研究会を攻めることが……!!」

 一番に声を上げたのは、最も研究会を敵視している恵梨。

「今度はこっちの番よ」

「やられっぱなしは嫌やからな」

 彩香と火野も九月に苦汁を飲まされ、思いは一緒のようだ。

「……良かったわね」

 情報としては教えてもらったが、感情は追いつかない由菜はそんな感想。


「………………」

 しかし、こういうとき一番テンションが上がる血の気の多い彰が煮え切らない表情をしている。


「……どうしたんですか、彰さん?」

 恵梨がそれに気づく。

「いや……本拠地は分かったんだがな。ルークたちが言うに、妙な状況も付きまわってるんだ」

「どういうこと?」

「そうだな……聞いた話になるんだが」

 彰は前置きをして、語りだした。






 時間は数日前に遡る。

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