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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
二章 炎の錬金術者、来襲
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二十二話「昼食1」

第二章「炎の錬金術者、来襲」開始!

「はぁ」

 高野(たかの)(あきら)はため息をついて、ぼーっとしていた。

 彰は、私立斉明(さいめい)高校の1年2組教室の自分の席に座っている。

 今は授業中で、いつもなら真面目に聞いている彰。だが、今日はどうしてかため息が漏れるのだった。

「四大文明とは、メソポタミア文明、インダス文明、エジプト文明、黄河文明です。そして――」

 授業は世界史であり、高齢な男の先生――ありていに言うとおじいさん先生が古代文明について説明しているところだ。

 しかしその説明が念仏、もしくは子守唄だと思っているのか教室内に寝ている生徒は多い。


 ふと彰が黒板を見ると、当然(ほう)けている間もかまわず授業は進んでいた。後から勉強できるようにあわてて板書事項をノートに写しておく。

 そして全部写し終わったところで、ちょうど授業からの開放を示すチャイムが鳴った。

 先生が教室に設置してある時計を見上げる。

「あら、もう授業が終わりでしたか。委員長、号令」

 委員長の彰が反応して、号令をかける。


「起立」

 生徒がガチャガチャとイスを引く音をさせながら立ち上がる。今まで寝ていた生徒がその音で起きて、あわてて立ち上がる。


「姿勢」

 彰は背筋を伸ばす。が、そのままだら~としている生徒もいるし、そもそもまだ寝ていて立っていない生徒もいる。


「礼」

 彰は45度しっかり身体を曲げて礼をする。横目で見ると、首だけ下げたり、適当に頭を下げる礼をする者が多い。


「「「ありがとうございました!!」」」

 しかし最後の挨拶の声は、みんな大きかった。


 一年二組は「元気」が特徴のクラスであった。


 先生が二度ほど、うなずいて出て行った。若者は元気があってよろしい、とか思っていたのだろう。

「よっしゃー飯だ!」

 そして今の時間は四時間目であったのでこれからは昼休み。元気のある生徒が食堂に走って出て行くのを皮切りに、教室内が騒がしくなった。

 彰は自分で弁当を持ってきているので、教室に残る。

 教室では弁当を持ってきていて友達同士で昼食を一緒に食べようとする生徒や、のんびり学食に移動しようとする生徒。そしていまだに寝ている生徒……。

「って、あれ仁司(ひとし)じゃないか」

 彰の視界内に入ってきたいまだに寝ている男子生徒は、東郷(とうごう)仁司(ひとし)だった。仁司は彰の中学からの友達だ。


 典型的なスポーツ少年である仁司は、さっきの授業が子守唄のように聞こえていたようだった。

「仁司君? うわぁ、仁司君まだ寝ている」

 彰のつぶやきを聞き取って、隣の席に座っている、彰の幼なじみの八畑(やはた)由菜(ゆな)もそちらを見たようだ。快活な少女は他人事のように言っているが、

「というか、おまえも寝ていただろ」

 由菜も彰の隣でノートに突っ伏して寝ていた。しかし、由菜は反論する。

「違うよ」

「どこが違うんだ?」

「目をつぶっていただけだよ」

「世間一般的に、それを寝ているというんだ」

「ウトウトしていただけだよ」

「はぁ。何を言ってるんだか……」

「あはは」

 由菜は彰の呆れ加減に笑っている。

「もういい。俺はあいつを起こして来るから、席作っておいてくれ」

「はーい」

 由菜がいい返事をする。




 そして彰は仁司の席にたどり着く。

 仁司は机に突っ伏して寝ている。幸せそうな寝顔だ。

 彰はそれを起こすために、


「起きろボケ」


 仁司の座っているイスを横から引っこ抜いた。


「ぎゃあ!」

 座っていた仁司は、いきなりイスをなくして尾骶骨(びていこつ)を強烈に打ち付ける。

 地面でのたうち回っている仁司に彰は一言。

「うるさいな」

「なにそのコメント!」

「おい、昼飯の時間だぞ。騒いでないで早くしろ」

「おまえが悪いんだよ! もうちょっと他の起こし方は無かったのか!?」

「そうか。ならおまえの頭を――」

「そう、頭を軽く叩けば」

「殴れば良かったか?」

「おまえの起こし方に暴力以外は無いのか!?」

「うるさい。早く行くぞ」

「おまえが悪いんだからな!」

 そしてなおも騒ぎ続ける仁司を無視して自分の席に戻る彰。


 そこには由菜と他に二人の少女が、彰と由菜の席をくっつけてそこに弁当を広げていた。

「待たせたな」

 彰も自分の席について弁当を広げる。

「おい、待てや」

 仁司も遅れてイスと弁当を持って近づいて来る。そして彰の机、左横にイスを置いた。

「よし、やっと五人そろったね」

 そう言う少女は西条(さいじょう)美佳(みか)であり、彰の正面に座っている

「そうですね」

 うなずいた少女は水谷(みずたに)恵梨(えり)。彰のはす向かい、つまり隣の由菜の正面に座っている。

「それじゃ、食べようか」

 そして彰の隣で由菜は五人全員に対して言った。




 科学技術研究会との戦い、つまり恵梨の転校から一週間ほど経った。

 恵梨はクラスの生徒ともすっかり打ち解けている。今では彰、由菜、仁司、美佳の同じ中学から進学したグループに、彰が誘った恵梨が加わっての五人一緒に昼飯を食べる習慣ができていた。


「今日はどうしたんですか? 彰さん」

 恵梨が昼食の場で発言する。

「どうした、って何が?」

「いえ、何か元気が無いように見えたので」

「確かにそうね」

「ん~。言われてみれば」

「元気の無いやつがイスを引っこ抜くか」

 由菜と美佳が同意する。仁司はさっきのことをまだ根に持っているようだ。


「ちょっとあることを思い出してな」

「あることって何ですか?」

「気になるわね」

「ほほう。私の知らないことですか?」

 恵梨が無邪気に訊ね、由菜がそれに追髄(ついずい)し、美佳が情報屋として目を光らせる。

「恵梨と由菜は知らないことだ。……もしかしたら美佳は知っているかもしれないな」

「何時の話ですか?」

「一週間ほど前、ちょうど恵梨が転校してきた日の放課後だ」

「その日彰が巻き込まれたのは……ああ。あの騒動ですか」

「……知っていたのかよ。女子の目からは隠れたつもりらしいのに」

「ふふふ。私の知らない情報は無いんですよ!」

「「???」」

 恵梨と由菜が困惑顔になる。



 彰が思い出していたこと。


 それは、彰が恵梨が一緒に住んでいる事がばれたときの話だ。


 彰としては由菜と恵梨の口封じを完璧にして、絶対ばれないだろうと思っていたことが、何故ばれたのか?



 それは、恵梨の転校してきた日の昼食時間まで(さかのぼ)る。

 その日は平日であったため午後まで授業があった。昼食時、転校生の恵梨を彰が誘って五人で弁当を食べようとして弁当箱を開けたとき。



 彰と恵梨の弁当の中身が全く同じだった。



 というのも、彰が二人分とも弁当を作ったからだ。

 しかし、弁当の中身が同じというのは一緒に住んでいることの疑惑につながる。

 口封じをすることばかりに気をかけていて、すっかりそれが抜けていた彰。


 由菜は一緒に住んでいるのを知っているためスルーしたが、当然、仁司と美佳にはスルーできるものではない。

 同棲疑惑を二人に追及された彰は、完全に動揺しながらも一応否定したが、弁当の中身の完全な一致など単なる偶然で済まされるものではない。なので、強引に話を打ち切った。

 結構騒いだので昼休みの教室中に聞こえたと思うが、何故か教室内の男子生徒に動きは無く、由菜が隣に住んでいる幼なじみだと知られたとき同様に暴動が起こると思っていた彰は胸をなでおろした。


 しかし、放課後。


 帰ろうと席を立った彰が、クラスの男子生徒に囲まれる。

「ちょーっと、いいかな。委員長」

 ……結論から言うと、昼休みに行動を起こさなかったのは教室には女子の目があって嫉妬(しっと)、憎しみにまみれた自分たちを見られたくなかったから、そして男子生徒の半数ほどは外に遊びに出ていたからであった。

 午後の授業中にクラス中の男子生徒に情報を回し終え、放課後全員で彰に声をかけにきたというわけだ。


 男子生徒たちの思いは一つ。「うらやましい。リア(じゅう)死すべし」だ。


 彰は有無(うむ)を言わさずに体育館の裏まで移動させられ、そこで尋問が始まった。

 尋常じゃない雰囲気に恵梨と一緒に住んでいることを白状した彰。

 しかし、当然尋問だけに終わらず。


 殴られ、蹴られ、どつかれ、こづかれ、ひねられ……。


 男子生徒の(うら)みに、彰はぼろぼろにされたのであった。




 回想終了。

 全く、一年二組の男子生徒は元気の有り余っているバカばかりである。(彰談)

 というわけで、その騒動と自分がそのクラスの委員長であることを思い出してしまった彰はため息が漏れていたのであった。

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