二百二十話「初詣2」
彰と戦闘人形が双子。
衝撃的なその話を聞いて、しかし彰は一言。
「すまん、彩香」
「まあ彰が信じられない気持ちも分かるわ。けどこれで風野大吾と彰が似ているっていうのも説明が付くのよ。戦闘人形と彰が生き別れた兄弟で、戦闘人形は鹿野田が、彰は高野家が引き取った。その背景には――」
彩香の脳内では科学技術研究会を舞台にしたドロドロの昼ドラが展開される。ところを更に一言。
「いや、その仮説間違っているぞ」
「…………え?」
彰はばっさりと斬り捨てた。
「間違っているって……どうして?」
「正確には間違っているだろうって話だ」
「理由を聞かせて」
「じゃあまず彩香に聞きたいんだが……ここ最近、風野家で音信不通になった人間っているか?」
「音信不通……それこそさっき話に出てきた風野大吾だけよ」
「だろうな。つまり女性で音信不通になった人はいない」
「その通り……って、あ」
どうやら彩香も自らの仮説の不備に気づいたようだ。
「風野大吾は男だ。能力者は父親と母親どちらも同じ能力を持っていないと遺伝しないって話だろう? だったら俺と戦闘人形を生んだ母親は誰かって話になる」
彰はこの結論を早い内から考え付いていた。
行方不明になったのが風野大吾ともう一人風野家の女性がいたなら、風野藤一郎はすぐに俺がその二人の子供だと勘付いたはず。風野大吾一人だけが行方不明になっているからこそ、俺の存在に説明が付かないのだ。
「だったら……どうして彰は能力者なの?」
「それが分からないから聞いたんだけどな……」
結局問題は振りだしに戻った。
「無駄……だったのね」
彩香はがっくりとうなだれる。
今回の仮説を話すに至って、相応の覚悟が求められた。
だってこの仮説が正しいとすれば……彰は彰の両親と血が繋がっていないことになる。
血の繋がり、家族である前提条件。
それが無くなったとき、今まで信じていた関係が崩れ去ってしまう……というような展開は創作などで彩香はよく目にした。
彰はそのときに無事でいられるのだろうか? 彰と両親の関係を良く知らない彩香は判断できない。その心配をしたからこそ彩香は話すか迷ったのだ。
一応そうなった場合のアドバイスを用意はしていたけれど……杞憂だったわけね。
「でも今の話結構参考になったぞ」
彰は何度もしきりに頷いている。
「……え? 仮説は間違いだったんでしょう?」
「いや、双子であるという結論が間違っているだけだ。戦闘人形のナイフを止めたのは風の錬金術だっていうのも当たってそうだしな」
「けど、それは双子であるという前提が元で」
「そこがネックなんだよな……必要なピースは揃ってきている。何かあと一つあれば、全てがピッタリ当てはまりそうな気がするんだが……」
彰と風野大吾の容姿が似ている事、戦闘人形のナイフを止められたこと、戦闘人形の存在。これらをすんなりと説明するためのカギが見つからない。
「まあ帰ったら雷沢さんにでも相談してみるか。あの人なら何か導き出しそうだしな」
「そうね」
そこまで言って彰は立ち上がる。
「よし、それじゃおみくじでも引きに行くか。微妙に人の波も引いて来たみたいだし」
「去年は……大吉だったわね。今年は何が出るかしら?」
「そうだ彩香。勝負しないか?」
「……おみくじで? そういうものじゃないと思うのだけれど」
二人はおみくじ売り場に向かって行った。
「そうか……分かった」
「ん、誰だったのー?」
日本の能力者、大学生の雷沢と光崎。
幼なじみの関係に当たる二人は正月も一緒に過ごしていた。
雷沢がどこかから電話を受けて、それがちょうど終わり先の発言に繋がったというところである。
「いや、彰くんからだ。新たに分かったことがあるということでな」
初詣から帰った彰から、自分の赤ちゃんの頃の写真が無いという報告を受けた雷沢。
「それって重要な情報なのー?」
「いや、そうでもない」
「分かったー。……あ、そういえば今日ねー鷹に咥えられて空を飛びながら、富士山からナスが噴火する夢を見たよー。これって縁起がいいんじゃないー?」
「そうだな……今日の夜に見れば縁起が良かったんだろうけどな」
「あ、あれー……初夢って今日の夜だっけ」
雷沢は光崎に説明しない。光崎もそれに対して異を唱えたりしない。
(タッくんが説明しないってことは、私が知る必要ないってことだよね)
光崎は全幅の信頼を幼なじみの雷沢に寄せているからこそ。
そして雷沢は。
(さっきの情報……予想通りだな)
彰は一緒に彩香の双子ではないかという仮説も雷沢にしてみた。けど、すぐに雷沢は彰と同じ反論を思いついた。
それもそのはず。
雷沢は既に反論の思いつかない仮説を持っているから。
双子なんて結論よりもっと常識外れな仮説を持っているから。
「こんな推理……当たって欲しくないんだがな……」
雷沢の仮説からすれば、彰が乳児の頃の写真が無いのは想定内だった。




