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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
九章 年末年始、決戦準備
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二百十九話「初詣1」

 翌朝、1月1日、元旦。


「……人多いな」

 彰は一人で近くの神社まで初詣に来ていた。

 時刻は午前10時過ぎ。神社は賽銭箱までの行列が一番人がひしめきあっているが、それ以外の場所でも屋台の前などは人が多い。ここまで賑わうのは今日この日かもしくは祭りの時くらいだろう。

 恵梨はリビングのこたつでまだ寝ていたので置いてきた。昨日寝る前、テレビに夢中になっていた恵梨にちゃんと自分の部屋で寝ろよと注意したが生返事が帰ってきたので案の定だった。

 そうでなくても、この前、

『忘れているかもしれませんが、私は神社の娘ですよ。初詣というのは参る側じゃなくて、参ってもらう側です』

 という謎持論を展開し、その役目が無い今回くらいはゆっくりしたいです、などと言っていたため起きていても初詣に付いてこなかっただろう。


 由菜もこの時期はいつも母方の実家に帰っているためこの町にいない。火野も帰省、美佳と仁志はそれぞれ用事があると言って断ってきた。

 したがって。

「ごめんなさい、待ったかしら」

 彰の前に現れたのは風野彩香一人であった。




「おう、遅いぞ」

 待ち合わせの午前10時からはもう三分は遅れている。彰は率直な感想を述べた。

「…………」

「ん、どうした?」

「……いえ、彰にそんなのを求めてもしょうがないものね」

 伝統的な『いや、今来たところだ』を期待した彩香だが、そこらの機微を彰が理解しているはずが無い。

「ここまで込むとは想定してなかったわ」

「ああ、人凄いもんな」

 結上市は地方の小都市。由菜や火野は帰省していったが、どちらかというと帰省してくる人の方が多い地である。


「それにしても本当に用事は無かったのか?」

「大丈夫よ。父さんは財界の重歴たちが参加するパーティーで忙しいし、暇になるだろうなって思ってたところだったから」

 風野彩香の父、風野藤一郎は総合企業アクイナスの社長である。

「まあ……何かあっても強引に空けるつもりだったけど」

「そうだよな、初詣は重要だよな」

 彰と二人で初詣。この内彩香が重要視しているのは前半で、彰は後半だと勘違いしている。


「それじゃ行くぞ」

 彩香に手を差し出す彰。

「……ふぇ?」

「ふぇ、じゃねえよ。ほら、手を出せ。この人ごみの中、手でも繋がなければはぐれるだろうが」

 彰の理屈は分かる。元々彩香の方からそうやって手を繋ごうと画策していたからだ。

 戸惑ってしまったのはそれを彰の方から言い出したから。

「わ、分かったから行くわよ」

「お、ちょ、待て」

 女心を理解しない癖に……ふいにこうドキッとさせるから彰はズルい。

 彩香は真っ赤になった顔を見られないために、彰の手を取って先を歩き始めた。



 人の波にもまれながら、お参りを済ませた二人は人の少ない神社の一角に移動している。

「ところで彩香は何を願ったんだ? 随分と念が入ってた気がするが」

 昼飯に屋台で売ってたお好み焼きをつつきながら彰は問いかける。

「言わないわよ。願い事っていうのは人に話したら叶わないって言うじゃない」

 それに彰に言える内容でもないし、とは彰との関係の発展を願った彩香。

「ああ、そうか。俺あんま気にしないからなあそういうこと。それに願うくらいなら、自分でつかみ取るって性分だし」

「だったら聞いてもいいかしら、彰の願い事」

「……今のゴタゴタを誰も欠けずにやり抜けたらいいな、って内容だ」

「それは……」

 彰の言うゴタゴタとは科学技術研究会関連だろう。ハロウィンからこっち手を出しては来ないが、脅威が去った訳ではない。

「そうだ。その関連で昨日分かったことがある。ちょっと彩香の見解を聞いてもいいか?」

「何かしら?」

 そして彰は昨日アルバムを見ていて発見したことを話す。


「乳児の頃の写真が無い……のね」

「俺が能力者であることに繋がっていると踏んでいるけど、彩香はどう思うか?」

「そうね……」

 彰に初めて出会った頃に比べて情報は増えた。

 彰の両親が、叔父の風野大吾が科学技術研究会に所属していたこと。彰が心臓に迫った戦闘人形ドールのナイフを止めたこと。加えて戦闘人形ドールの存在、彰の乳児の頃の写真が無いこと。

 これらを合わせて、彩香の中に一つの仮説が存在していた。

「………………」

 ただ、それは彰にとって残酷な情報になる。彩香は言うべきか迷ったが。

「何かあるんだな……なら話してくれ」

「でも……本当に正しいのか根拠に欠けるわ」

「その判断はこっちがする。今はいろんな考えを聞いてみたいんだ」

 逡巡を彰に見破られ、頭を下げられる。

「……分かったわ、話してみる」

 事他ならぬ彰の頼み。彩香は断り切れず、自らの仮説の説明を始めた。




「まずは確認だけど、彰のご両親と叔父の風野大吾が面識があったということは分かっているわよね」

「そうだな。研究会能力研究派の初期メンバーに名を連ねていたし」

 この前風野藤一郎が掴んできた情報だ。

「もう一つ確認。この前の戦闘人形ドールの襲撃の時、彰が心臓に迫ったナイフを止めたって話は?」

「それなら聞いたぞ。あの時は無我夢中だったから、自分では何をしたのか覚えていないけどな」

 盾で塞いだようでも無い、そのときはワイヤーも使えなかった。普通に風の錬金術を使ったのでは不可能な所業。なら俺はどうやってそれを行ったのか?


「それならちょっと話を変えるわね。……あるところに同じ能力を持った能力者が二人いました。具体的に言うと私と彰がそうね。けど、この二人の能力は厳密には違うっていうのは聞いたことがあるかしら?」

「何だその話?」

 初耳だ。

「雷沢さんが提唱している仮説よ。本当に同じ能力だったなら、私が風の錬金術で精製したものを彰の風の錬金術で操作できるはず」

「けど……それは出来ないだろ」

「そうできないのよ。そんなこと出来たなら、能力者会談で行われた試合、お互いがお互いの武器を解除し合って決着がつかないもの」

「……言われてみればそうだな」

 そんなこと考えてもみなかった。


「関連して、なら双子の能力者の場合はどうなるかっていうのも聞いたことが無いのね?」

「無いな」

「確か火野家の何代か前がそうだったらしいの。しかも一卵性双生児。この時、興味深い現象が起きたらしいのね」

「もしかして……一方が精製したものを、一方が操作することが出来たっていうのか?」

「そういうこと。これは双子の間だけで起きた現象なの。父と子の関係でも、兄弟の関係でも、従妹の関係でも出来ない」

「双子だけ……遺伝的な類似性が問題なのか?」

「そう言ってたわ。能力は遺伝する。だから遺伝子が似ている双子は厳密にも同じ能力だということかもしれない。だからさっき言ったみたいな現象が起こった」

「なるほど……」

 聞いてみれば納得できる話だ。能力が遺伝することを知っていたんだから、俺にだって推測は出来たはず。


「しかし……その話が俺と何の関係があるんだ?」

 今は俺が能力者であることの話だったはず。

「さっき言った彰が戦闘人形ドールのナイフを止めたこと。今の話を元にすれば風の錬金術で可能になるのよ」

「……?」

 まだ事態を飲み込めていない彰に彩香が自らの仮説を突きつける。




「簡単なことよ。戦闘人形ドールが投げたのは風の錬金術で作ったナイフ。だから彰も風の錬金術でそのナイフを操作して止めただけ」




「それは不可能だってさっき……いや、もしかして……!!」

「風野大吾――風の錬金術師と彰の両親は面識があった。乳児の頃の写真が無いのは、幼児になってから彰が引き取られたため。そして彰がナイフを止めることが出来たのは――」

 彩香は結論を言う。


「彰と戦闘人形ドールが双子だったから。二人は風野大吾を親に持つ双子……なのだと私は推測するわ」

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