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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
八章 クリスマス、明かされる過去
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百九十九話「彰の過去3」

「おらぁっ!」

 殴りかかって来た相手の懐に踏み込んで、カウンターの要領で腹にこぶしを埋め込む。

「ぐえっ!!」

 汚い断末魔を残し倒れる敵。

 一歩間違えれば自分がああいう風に倒れていたスリル。肉を殴った特有の感触。ゾクゾクとした薄暗い興奮を彰は感じる。

「彰の兄貴、大丈夫っすか!!」

「こっちは一人で大丈夫だ! お前らも目の前だけに集中しろ!」

「うっす!」

 同盟を組んだグループの下っ端が返事するのを、彰は前方を警戒しながら聞いた。


 放課後。学校が終わって、彰お楽しみの時間が始まる。

 一か月前に名乗りを上げた彰だったが、この界隈では珍しく未だに一人のグループだった。理由に舎弟だったり、仲間だったりを持つのが面倒だったからというのがある。

 しかし、今度彰が目を付けられたグループはかなりの大所帯で、過激派で知られていた。

 さすがに一人で対抗するのは無理、と彰が取った策は同盟。過激派とは得てして敵も多く作るということで、そのグループに恨みを持っているところは多かった。

 その内の一つと彰は手を組み、相手の襲撃を待つ必要も無いとこちらから敵が根城としている建物に奇襲をかけたのであった。


 奇襲の結果は上々。

 しかし、敵グループを崩し切るには至らず乱戦に移行している。


「へっ、じゃあボスの実力を直に見せてもらうか」

 その中敵のボスとタイマンを張る彰。

 けしかけてきた雑魚の半分は既に地面にのびていて、残り半分は仲間が受け持ってくれている。

「……ここまで舐めたマネしやがって……無事で帰れると思うなよ!!」

「御託は良い。さっさとかかってこいよ」

「てめぇっ!!」

 挑発すると同時に敵はかかってきた。


 最初に繰り出してきたのは右ストレート。何の工夫も無い一撃だが、今までの雑魚よりはスピードも威力も一段上のようだ。

「だが、甘い」

 とはいえ彰が対応できないほどではなかった。軽くかわしてボディに二発入れる。

「ちぃっ!」

 逆上した敵が掴みかかって来たのを弾いて更に一発。恐ろしく冷静に攻撃を重ねる彰。


「くそっ……!」

 たった三発とはいえ、どれも体の芯を捉えている。そのダメージから体がふらついた敵は距離を大きくとった。

「……興醒めだな。大口叩いてた割にもうグロッキーじゃねえか」

 彰は心底残念がった口調だ。

 さっきまで相手していた雑魚よりかは確かに強いが、それでも驚くほどってわけじゃない。……これならさっきの三対一の方が楽しかったな。


「はっ、粋がってろ! まだ俺は本気を出してねえ!」

「ださっ」

 思わず正直な感想が彰の口をついて出た。

「そんなセリフは負け惜しみだって決まってるんだよ。負けたときの言い訳作りご苦労様だな」

「……それはこれを見ても言えるのか?」

 敵がすぐ後ろにあった倒れているソファに手を伸ばす。この戦闘の最初の方で巻き込まれて倒されたものだ。

 このタイミングで何を……掃除でもするのかと不思議がる彰は、ソファの中から引き抜いたそれを見て納得の顔に変わる。


「鉄パイプ……か」

「これが俺の本来の得物だ」

 得意がる敵。

 だが、武器を持ったところで実力というものはそこまで変わらない。結局手足の延長線上にある以上、よほど使い慣れていなければ意味が無い。

 彰は落ち着いて分析するが、次の行動を見て表情を変える。

「びびったか?」

「…………」

 敵が鉄パイプをその場で軽く振り回したのだ。彰を威嚇するためだろうが、それは余計な行動だった。

 手慣れているな……。振り回す手に体が持って行かれてない。どうやらさっきの発言は珍しく真実だったということか。


「おっ、顔つきが変わったな」

 彰の顔が引き締まったのを見て、威嚇が成功したと見る敵。しかし、威嚇さえしていなければ彰は油断したままかかってきて有利になるはずだった。

 能ある鷹は爪を隠す。……爪をひけらかすこいつは馬鹿ってことか。


「御託は良い。さっさとかかって来いよ」

「こいつ……!」

 先ほどの挑発を返されて、勢いそのまま彰はかかっていく。


「死ねぇ!!」

 向かってくる彰に対して、敵は鉄パイプを振り下ろす構え。リーチの関係上相手の攻撃が当たるのは明白。そして全力で振られる鉄パイプをガードしては一発で腕が駄目になるだろう。

 だから、彰は急加速して振り下ろされる前に接近した。そして振り下ろさんとしている腕の方をはたいて攻撃を逸らす。


「ちっ!」

 彰が攻撃に移る前に、敵は逸らされた鉄パイプを横凪ぎ。彰はしゃがんで避ける。

 対処できないほどじゃない……!

 相手の鉄パイプの動きについていけている。そのリーチとガードできないのは厄介だが、こぶしよりかは一発一発の攻撃の隙が多い。

「これなら行けそ――」

 うだな、と確信した彰は。


 次の瞬間、敵の足に顔を蹴られた。


「ぐっ……!!」

 ケンカ中、敵の目の前で屈んでは蹴られて当然。

 彰がそれを忘れていたのは、相手が鉄パイプを扱う練度からそれに頼り切った戦術を取ると半ば決めつけていたからだ。だから鉄パイプの動きばかりに集中して蹴りを避けられなかった。


 地面を転がっていく彰。

「ざまぁねえな!!」

 会心の一撃が決まったことに敵が吠える。

 ノーガードの頭に蹴りが決まったのだ。気絶もしくは意識があろうとも立ち上がることは出来まい。この勝負も終わりだと考えて。

「今のは……効いたぞ……」

「なにっ!?」

 彰がよろよろとではあるが立ち上がったことに驚く。


「おまえとの距離が幸いした……」

 蹴りを食らった瞬間、彰は敵に攻撃せんと近寄っていた。そのため食らったのは力が乗らない蹴りの出始めだった。それに鉄パイプを振り終わった瞬間という体勢が伴わないところから繰り出されたため何とか耐えることができた。

 といってもこれはさすがにまずい。

 威力が小さかったとはいえ、顔に食らったのは確かなこと。今も頭がフラフラしそうなのを、相手に弱みを見せないため気合いでこらえている。


「策を……練らないと……」

 このまままっすぐ向かっても勝てない。

 今のダメージが大きいし、鉄パイプと体技のコンビネーションを彰では打ち破れない。


「どうした? 立ってるだけで精一杯か?」

「抜かせ。素手のタイマンに武器まで持ち出しておいて偉そうに」

「そんなルール決めてないだろ? 負けたときの言い訳作りご苦労様」

 また自分のセリフを引用される彰。敵はどうやら挑発スキルが結構高いようだ。


 ちっ、確かに素手のタイマンは俺の中で勝手に決めていたルールだが……。

「……!」

 その瞬間彰の頭の中にひらめくものがあった。

 そうだ、この勝負は素手のタイマンじゃない。……わざわざ気づかせてくれて本当にこいつは馬鹿だな。


「ありがとな」

「何がだ……っておいっ!!」

 彰は不敵に笑ってみせると敵に背を向けて逃げ出した。

「逃げるのか!!」

 敵のボスは考える。

 ここまで来て……勝てないと悟ったのか?

 確かに強い敵から逃げるのは選択肢の一つ。……だがここまでメンツを潰されて逃がすわけない。それにあいつが逃げた方向にはまだ部下たちが戦っているはずで……。


「っ!!」

 そこで敵のボスは彰の狙いに気付いた。


「くそっ、早くこいつを倒して彰の兄貴を助けに……!」

「戦い中なのに勝った後の算段か!! 笑わせるなっ! おまえはここで俺に負けぐへっ!!?」

 仲間が小競り合いしている背後に彰は回ってそいつを殴ったのだ。


「彰の兄貴!!」

「礼は後にしろ! まずは雑魚を蹴散らす!」

 ふらついているとはいえ、彰と部下の力の差は歴然。さらに背後を取っては負けるわけが無い。


「うっす!!」

 そうして目の前の敵を倒した仲間と共に彰は他の仲間を助けに行く。

 彰の加入によりそれまで均衡していた戦況は一瞬で崩れた。

 それもそのはず。一人倒すごとに敵の戦力が減るだけでなく、自分たちが複数で敵を相手取ることが出来る。更にその敵を倒せれば、差は格段に広がる。

 こうして連鎖した結果、敵のボスが食い止めに入る前に雑魚の掃討は終わった。


 小競り合いの時点でこちらの仲間も倒されていたため、残っているのは彰含め五人。

 だが、一人を相手するにはそれで十分である。


「ま、待て! 一対五は卑怯じゃないのか!?」

 壁際に追い詰められる敵のボス。

 彰は不敵な笑みを浮かべ、皮肉たっぷりにこう言ってのけた。


「何言ってんだ? この勝負はタイマンじゃねえんだぞ?」






「いやあ、勝った勝った」

 あの後敵のボスを五人で滅多打ちにして負けを認めさせた。

 そして今はその帰り道。彰を先頭にやられた仲間たちが肩を貸し合いながら付いてくる。


「彰の兄貴は流石っすね! 今日のケンカも勝つなんて」

「ん……まあ、俺ほどの強さになると負ける方が難しいていうか」

「流石っす!! 言うことが普通の人とは違うっすね!!」

「それほどのこと……もあるよな! ははっ!」

 べた褒めされた彰は調子に乗り出す。


 今日も本当に暴れることが出来た。

 頭を蹴られたダメージはまだ残っているが、それさえ心地よく感じる。

 徐々にクールダウンしていく身体だが、さっきまでの戦闘を思い浮かべるだけで心はヒートアップする。

 ケンカしている間だけは退屈な日常を忘れられる。生の実感を得られる。

 思わず彰はつぶやくのだった。




「ああ、今日も生きてるなあ」


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