百九十六話「清濁併せ呑む」
人を隠すなら人の中。
それを実践しているように、堂々と都市のど真ん中に犯罪者の巣窟は点々と存在している。
「な、何が目的なんだ!? 金か!? 金なのか!?」
「さっきから言っているでしょう? 『日本の能力者の調査』……あの依頼、あなたたちはどこから仲介したんですか?」
その内の一つ薄暗い地下室で、ルークは大の大人を片腕で持ち上げる。部屋の中には地面に転がってのびているのが五人。全部ルークの仕事の成果だ。
構成員六人からなる小規模組織『ダート』。悪事の小間使いを主に行う規模に合った組織のようだが、能力者関連の仕事も受け持っていたようだ。
今まで細々とやっていたようだが、今回の依頼の仲介に関わったのが運の尽き。
能力者ギルド執行官、ルークによって真正面から潰されることとなった。
『それにしても能力者がいないのに関わってる奴らもいるんだな』
インカムから『過去視』のサマンダから通信が入る。
『実入りがいいからという理由で関わっていたの可能性が99%。……身の程知らずですね』
同じく『演算予測』のミラから。非戦闘員の彼女たちが今回の件で出てきても活躍の場が無いため、本部で待機している。
常識外れの力を持つ能力者に対抗できるのは同じ能力者である。
『ダート』は今回銃を持ち出して、六対一というアドバンテージがあったにも関わらず、ルークに一蹴されたのだからそれも頷ける話だろう。
「分かった、話すから! だから下ろしてくれ!」
「話すのが先です。……さて、そろそろ当たりに辿り付いてほしいですね」
そしてルークは三回目のハズレを引いた。
「全く、どれだけ仲介しているんですか」
ギルド本部に帰って来たルークはまたもハズレを引かされたことを愚痴る。
「ネット上で海外のサーバーを何個も仲介するのと考え方は同じ。間があればあるだけ追うのは難しくなる」
「最初から分かっていただろう。今回の捜査が長くなることは」
「それは……分かっていますけど」
ミラとサマンダに諭されて少し落ち着くルーク。
ルークたちが『日本の能力者の調査』の依頼元を追い出してからもう一週間経っている。
その間に三件は辿ることは出来たが、全部仲介を生業にしている組織ばかり。科学技術研究会との直接の繋がりも当然無い。
「ですが今回は暴れることが出来ましたからある程度鬱憤は晴れている、と私は78%の確率を見ますが」
「……前二件みたいな交渉は苦手なんですよ」
人の仕草、身振りなど膨大な情報を経験則から数値化、演算により人の考えていることを読む『演算予測』。その使い手ミラにより心境を見抜かれるルーク。
捜査を始めて最初に当たった仲介先は、当然依頼を出した者なのですぐに判明した。
だが、そこは堂々とギルドの窓口に依頼を出しに来るくらいだ。規模もかなり大きいし、素人でも分かる様な悪事の証拠を残したりはしない。
今回の『ダート』のように正面から潰すのも無理。
犯罪者に関わっていることから行こうにも、公的機関とはいえ世間から隠された組織であるギルドに警察の捜査のような権利は無い。
だからルークたちが取ったのは……金と情報の取引だった。
「…………」
「捜査を迅速に進めるための判断だ。しょうがないことだろう」
『演算予測』を持っていないサマンダにさえ考えを読まれるルーク。
「それくらい僕だって理解しています……」
「けど、納得はしていないというわけか」
サマンダはやれやれと息を吐く。
ルークは正義感が強い。
若年の内から執行官という能力者を取り締まる職に付いているから、というのがサマンダの推測だ。
それは良いことなのだが、今回のように正義を行うために必要な悪について認められないという側面もある。
この職業、きれいごとだけでやっていけるものではない。必要悪については割り切ることが求められる。
「………………」
だが……まあ、割り切ることに慣れてしまった自分もどうかと思うがな。
能力者を取り締まる側に就いてからの期間はルークよりもサマンダの方が長い。清濁併せ呑むことに関して、ルークよりもサマンダの方が長けているのは当然だ。
とはいえ、執行官について時は経っているのに色褪せない正義感を持ち続けているルークを見ていると眩しいと感じるときもある。
自分だってあんな風に正義を信じていた時期があったのにな……。
「ああもう、分かりましたよ。それで次の仲介先はどうなっているんですか?」
「ちょっと待って。ルークが持ってきた情報を調べてる最中だから」
ルークが正義感を持ち続けていることは本人の資質もあるのだろうが、この少女の存在も大きいのだろう。
サマンダはプリントした資料をパラパラとめくるミラに目を向ける
『演算予測』
正義面した大人が心の中でどんなことを考えているか、人の思考を読める能力を持った彼女はそれを見ながら成長したはずだ。
正義とは強者が使うただの方便でしかないことを幼いながら理解してしまった。
正義を信じ続けるルークとはまるで正反対。
だが……それは悪いことではないのだろう。こうやって二人が一緒に仕事することが成り立っている以上。
ルークが清い部分を受け持ち、ミラが濁った部分を担当する。太陰図のように正と負が混ざり合って調和が保たれているのだ。
今回の捜査だって、最初二件の交渉はミラが主導して取り付けたものだし、『ダート』を潰したのはルークだ。上手い具合にかみ合っている。
この二人が上手く行くように導くのが、チームの年長者として私の役割なのだろう。
「結果出ました。大物が出てきたようです」
「誰ですか?」
おっと。そろそろ物思いにふけっている場合でもなさそうだ。
「ミラ、私にも結果を見せてくれ」
「ん」
ミラが調べた結果をまとめた紙をサマンダとルークに渡す。
「仲介屋……か」
「今度の相手は能力者ですか……本当退屈させてくれなくて助かります」
「戦う前提で考えていますが、交渉というカードも忘れないでください」
「二人とも変わらないな」
お互いの役割がそのまま表れた発言に苦笑するサマンダ。
さて、そろそろ無駄骨は折りたくない所だが……。
サマンダは考える。
二人を見守る以外にも自分特有の役割があると自負している。それは物事を長期的、もしくは遠くまで見ること。それは経験の少ないルーク、ミラよりも自分が適任だ。
そのサマンダが今回の捜査当初から感じていた疑問。
科学技術研究会が能力者ギルドに依頼するのは今回が初めてのはず。……それなのにどうもここまで仲介を踏んで依頼するという手慣れた一面が見えるのは何故なのか?
……どうも厄介なブレインがバックにいそうだな。
「まあいい」
とはいえ目の前の敵を追い続けるしか自分たちが研究会に迫る方法は無い。
「それでは早速作戦を立てるぞ。――『音』の能力者。仲介屋のカテチナを捕えるために」
「はい!」
「分かった」
ルークとミラの声が響いた。




