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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
八章 クリスマス、明かされる過去
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百九十四話「恵梨、ルーク動く」

三周年記念、連続投稿三話目!!

 普通の高校生であったはずの高野彰が、この世の理を超えた力を扱う能力者の少女、水谷恵梨と出会ってから早八か月が経った。


 二人が出会ったのが四月だったから、今は十二月。

 それは高校生にとって解放感を感じ始める時期だ。

 長かった二学期がもうすぐ終わる。期末試験も終わった。残すは冬休み、クリスマス、そして正月。

 イベント続きの月末に向けて期待を膨らませていることだろう。


 だから斉明高校一年二組の昼休みはいつもに増して活気があふれて――


「………………」

「………………」


 ――なかった。

 凍り付いた空気が教室を支配している。


(あの二人は……)

 水谷恵梨は同席している内の二人を見る。

 一人は先の話にも出てきた高野彰。

 自分の両親を殺した科学技術研究会に追われている際に助けてくれた少年であり、思い人でもある。

 いつもならその横顔を見ているだけで、胸がドキドキし始めるのだが、状況が状況なだけにそのような高揚感は湧いてこなかった。


 そしてもう一人は八畑由菜。

 高野彰の幼なじみであり、自分の親友であり、そして恋のライバルだ。

 しかし、こちらも見ていていつものような感情が浮かんでこない。


「何を言っているんだ、火野? 俺は誰も無視していたりしないぞ?」

 その彰が同席者の一人、火野の方を見て言う。

「や、やけど、ここ最近ずっとやないか。由菜の方を見もしないで……」

「ははっ、面白いことを言うよな、火野は」

 わざとらしい笑い声で火野の質問をはぐらかす彰。


 彰が答えているのは、先ほど火野がしたこんな質問だった

『最近由菜のことを無視していないか?』

 その答えは一年二組の誰もが知っていた。YESだと。

 だが、誰もが聞くことが出来なかった。その理由を。

 だからこそ火野がその質問をしたとき、人々はみな彼を勇者だと思った。……のだが、結果は惨敗だ。


「ゆ、由菜だって彰の方を無視していないか?」

 質問の矛先を変える火野。

「ふふっ、面白いことを言うね、火野君は」

 だが彰と同じようにはぐらかされる。


「……二人ともおかしいやろ。何でこんな……」

「止めとけ、火野」

 珍しいことに真面目な声で静止をかけたのは仁志だった。

「どうして止めるんや」

「これ以上、俺たちが関わっても意味が無い」

 いつも軽い仁志らしからぬ力強い台詞。


(そうですね……恐らくこれは二人の問題です……)

 恵梨だって二人が無視している状況には気づいている。

 それがあのハロウィンの夜の後からずっと続いていることも。

 異変にはすぐに気づいたし、それから二人に話を聞こうともしたが、二人とも聞く耳を持たなかった。

 そして何も出来ないまま十一月が過ぎ、期末試験を終え、十二月も中旬に入った。


 事態は悪化の一途を辿っている。

 二人は変わらず無視しているだけだが、一年二組の中にも気づく人たちが出てきたからだ。

 彰も由菜も一年二組の中では顔が広い。それに二人が幼なじみであることも周知の事実だ。

 それが休み時間だけに留まらず、授業時間であっても無視しているとなれば「何事?」と思うだろう。

 高野彰は一年二組の委員長。つまり中心人物。そしてその隣にいつもいる八畑由菜。二人の不協和音が一年二組の中にも広まりつつある。


(二人がこうなった理由は分かっています……由菜さんに能力者のことがバレたからです)

 この異変が始まった時期からしてそれは間違いないだろう。

 しかし。

「どうしたの、恵梨? そんな難しい顔して」

「……ちょっと考え事を」

 だがそれにしては由菜さんはこのように今まで通りに私や、彩香、火野君に接してくれている。……彰さんだけ無視する意味が分からない。

「おいおい仁志。そんな怖い顔するなって」

「……おまえがそう言うなら、俺も何も言わないぞ」

 それは彰さんも同じ。由菜さんだけを無視している。


 能力者だとバレたことがどういう意味を持って、二人が無視し合う結果をもたらしたのか。

(おそらく二人が交わしたという約束……『辛いことがあったらお互いに報告する』が関わるのでしょうが……)

 あの夜そんなことを言っていた。

 けど彰はそんな約束、という態度だったし、やはり第三者が理解するにはそれだけじゃ情報が足りない。


 状況は言い方が悪いですが火野君が気づき始めるほど悪くなってきている。

 時間が解決すると楽観していたが、もう一か月半も経つ。見込みが甘かったと思うしかない。

 となれば解決方法は一つ。当事者同士で解決できないなら、外部が介入するしかないのだ。

 こちらから働きかけて……何とか月末までには全て元に戻す……!


(ケンカしたままクリスマスなんて私は嫌です。みんな笑って過ごしたいんですからね……!)


















「抱えていた案件全てに片を付けましたし、ようやく動けますね」


 アメリカに本部を構える組織、能力者ギルド。

 能力者同士の互助を目的に作られたその組織。

 行き過ぎた行為を取り締まるための執行官という役職。

 それに就く一人の若者、ルークは任務終わりの疲れた体で次の仕事のことを考えていた。


「日本の能力者の調査……その依頼主のサーシャ。彼女を調べるんですね」

 答えるは彼の同僚、『演算予測カリキュレーション』の能力を持つ少女、ミラ。

 人の何気ないしぐさ、表情、行動パターンなどから、心理や次の行動などを予測できる非戦闘系能力者だ。


「デカい案件が終わったってのに、すぐに次か。……それが若さなんだろうな」

 二人を眩しそうに見るのはもう一人の同僚。『過去視パストビジョン』を持つサマンダ。

 過去を見ることのできる非戦闘系能力者。


 この三人で一つのチームだった。

 調査などは『演算予測カリキュレーション』と『過去視パストビジョン』の二人が行い、実力行使の場面ではルークが『二倍ダブル』の能力を振るう。

 ギルドに属する執行官チームの中でもエリートの部類に属している。


「本当に気が早いな、君は」

 そのとき部屋に入って来たのは彼のチームの上司。

「あ、お疲れ様です」

 ルークは挨拶する。

「お疲れ」

「やれやれ、聞いてくれよ。二人ともやる気満々で付いて行くので精一杯だ」

 上司だというのにフランクに接するミラとサマンダ。前者は実の父だから、そして後者は長年の付き合いだからだろう。

「ああ、ご苦労様ルーク、ミラ。……サマンダ、私から見れば君も十分若いんだけどな」

 軽く応対する上司。


 前置きはそこまでで、上司はそのまま用件を伝え始めるのだった。

「さて、私も今回の君たちの働きには感謝している。だから色々と労いたいのだが……ルーク、君が求めているのはどうせそれではないのだろう?」

「はい。モーリスの件の裏に潜んでいた能力者サーシャ……日本の能力者の調査にも絡んでいた彼女についての情報について聞かせてください」

 目下ルークが気にしている問題はそれだった。


 『獣化ビースト』の能力者モーリスが起こした連続殺人事件。

 アメリカと日本に渡って行われたそれは、娘を殺されたモーリスの復讐。……と、見られていたのだが、その実一人の能力者が全て裏で動いて仕立て上げた事件だった。

 文化祭中の彰と協力することで、モーリスを捕まえることは出来たのだが、裏で動いていた能力者サーシャの方は未だ捕まっていない。

 どころか、聞いた話によるとあれからも彰に二、三度ちょっかいをかけているということらしい。


「サーシャに……あの家族を壊した罪を、絶対に償わせるんです!!」

 決意新たに語るルーク。

「ここまでルークが熱心になることも珍しい。だから私も手伝う」

 積極的でないにしろ協力を言ってくれるミラ。

「まあ、チームだからな。二人が頑張るとあれば、私も頑張らないわけにはいかないだろう」

 やれやれと言った感じのサマンダ。


「そうか……まあ一応現状について再確認しておこう」

 上司は手元のファイルを開いて話を進める。

「君がサーシャの関与を疑っていた『日本の能力者の調査』の依頼。これをこなしたディールの報告により、正式にサーシャの関与が確認された」

 ディール。彰とハロウィンの夜に戦った『器官オーガン』の能力者である。

「サーシャの扱いはA級犯罪者。それでもこれまでは関与しているかグレーだったため動くことは出来なかったが、黒になった今なら動ける。……といっても敵も馬鹿ではないだろう。何箇所か仲介して依頼を出していると思うが……」

「それでも辿っていけば必ずサーシャに当たるはずです。……たとえ細い線でもようやく見つけた線。全力で調査に当たらせてもらいます!!」

「……そうか、分かっているならいい」

 上司はファイルを閉じて立ち上がる。


「只今よりルークチームに指令を与える。内容は能力者サーシャの調査。期限は無期限とする。やつの尻尾を掴んでみせよ!!」

「はい! 分かりました!」

「OK」

「……やれやれ」

 ルーク、ミラ、サマンダは敬礼と共にその指令を受けるのだった。

今日はこれで終わりです。

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