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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
七章 ハロウィン、明かされる秘密
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百九十一話「彰と由菜2」

 四方をシートで囲まれている工事現場。

 だから風が吹き込むことはないはずなのに、そのとき一段と気温が下がったように感じられた。


「嘘って……」

 由菜のやつ気づいて……。

「そもそもさ、彰は何も無かったって言ったけどさ……何も無かったはずなら、そこに縛られている男は誰なのって話だよね?」

 由菜が指さしたところにいたのは今なお気絶中のディール。風の錬金術によって作られたワイヤーで縛られている。

「……」

「いつもの彰らしくないよ。そんなことを忘れるくらい動揺しているなんて」

 確かにそうだが……いや、これならまだ誤魔化しようがある……!


「……ちょっと昔の因縁でこいつが絡んできてな。相手してたら遅れたんだ、すまない」

 彰が頭を下げる。

 混乱する思考をまとめて彰が選択したのは謝ることだった。

 そもそも彰が一番恐れているのは能力のことについてバレること。それ以外は気付かれたところでどうにでもなると思っている。だから、謝ることで早めにこの話を終わらせようとしたのだ。


 しかし。

「それだけ?」

「……それ以外に何か話すべきことがあるか?」

「ふーん……そうなんだ」

 やはり彰の頭脳はまだ本調子ではなかったようだ。由菜の雰囲気、問い詰め方……いつもならそこから導かれることに気付いたはずなのに。


 由菜の問いかけは続く。

「だったらさ、どうして彰はそんなに動揺していたんだろうね?」

「え? ……そ、そりゃあケンカしてることがバレそうになったからで……」

「彰の嘘つき」

 断定する言い方。断罪する雰囲気。

「もしかして……」

 事ここに至って、彰はようやく気付くのだった。




「彰が動揺していた理由は、力を使ったところを見られたかもしれないって思ったから……だよね?」




 由菜が確固たる証拠をつかんでこっちを糾弾していることに。


「…………っ!?」

 ということは……さっきの言葉は、ここに来たのは今っていうのは嘘だったのか!?


「彰が考えてることは分かるよ。……うん。私がここに来たのは今から二十分は前のことだから」

「ずっと見ていたんだな!?」

「……彰が何も無いところから剣を作って見せたのも、空中を歩いていたのも。そっちの縛られている男の腕が四本になったことも、翼がいきなり生えたのも。そしてあっちの高台に座っていた女性が一瞬で消えたのも。全部見ていたよ」

「………………」

 本当に全部バレて……。

「嘘を付いて悪いって思ってたけど……結局彰も嘘を付いたんだからあおいこ……いや、約束を破ったんだから彰の方が悪いよね」


「………………」

 約束……確かにそれもあったけど……いやそんなことより、まだ考えろ!

 由菜に気づかれたのは俺が能力者ってことだけ。それだけなら俺の問題だ、ってことで由菜が関わることを突っぱねることができる。これに恵梨や、彩香、火野が絡んでいることに気付かれたらさらに厄介なことに……。


「そういえばさ、彰は夏に海に行ったこと覚えている?」

 唐突に話題を変える由菜。

「覚えているに決まってるけど……いきなりどうしたんだよ?」

 由菜の考えが読めない。……くそっ、後手後手に回っているな……。

「じゃあさスイカ割りをしたことも覚えているよね?」

 スイカ割り? 確か一日目の昼に行って……。

「当然覚えて………………あ」

 そのときの顛末は……火野が『念動力サイコキネシス』でスイカを割って……。


「まさか……」

「あのときは火野君がスイカに棒を当てていないのに、スイカが割れたよね? 私がそれを聞いたときに焦って否定したのは恵梨と彩香さん。そして誤魔化すように火野君を連れだしたのが彰だった」

「………………」

「あれもたぶん彰と同じような力だったんだよね。そして事情に通じているようだった恵梨や彩香さんも、それを知っているか……もしかしたら同じような力を持っているのかな?」

 三か月も前のことを覚えて……いや、ずっと気になっていたのかもしれないな。それで俺の能力を見たことがきっかけで繋がった、と。


「その顔、図星なんだね。本当にいつもの彰らしくないよ」

「……そういう由菜こそ、いつもとは違うな」

 ここまで由菜に言いくるめられるとは思っていなかった。……そういえば恵梨の時もそんなことを考えていたな。どうも俺には人を下に見てしまう癖でもあるようだ。


「………………」

「………………」

 静寂が訪れる。

 全てバレてもう誤魔化しようのないところまで来てしまった以上、彰から言うことは無い。


「やっぱり彰は謝らないんだね」

 だから必然的に口を開いたのは由菜だった。


「『お互いに辛いことや苦しいことがあったら隠さずに話す』……彰は二年前にしたあの約束を破ったっていう自覚はあるの?」


「……あるよ」

「そうだね。自覚はあるけど、気にはしていないんでしょ? だから謝るなんてことをしない」

「…………」

「私にとっては大事な約束だと思ってたんだけど……彰にとっては違ったんだね」

「…………」

「恵梨たちには話せるのに、私には話せないんだ。……まあ常識を超えた力だからね。そう簡単に話すことも出来なかったんだろうけど」

「…………」

「それでも私は話して欲しかったな」

「…………」

「彰がその力について話してくれなかったのは、私が信じてくれないと思ったから? それともそういうルールだから?」

「…………」

「けど、私が彰の言うことを疑うと思ったの? 私との約束はそのルールよりも軽い物だったの?」

「…………」

「ねえ、答えてよ……彰」

 懇願する由菜は今にも崩れ落ちそうな儚さを抱えている。


「………………」

 由菜の中ではあの約束は大きなものだったんだろう。

 確かにそれを誓った時点で俺たち二人の関係は大きく変わった。表面上はそれまで通りでも、俺の中では大きく変わったんだ。

 だから俺が今言うべきことは……。






「帰れ。そしてここで見たことは全て忘れろ」






 由菜にとって大事な約束。

 だけど、それは俺にとってただの手段。

 そのときに自分に誓った思いを胸に、俺は由菜を拒絶した。


「……そう」

 怒っているとも、悲しんでいるともとれない平坦な声での返事。

 由菜はそれだけを残して工事現場を出て行った。




「………………」

 残された彰。

 俺は悪くない。

 全部由菜のためなんだ。

 それに……すぐに悩む必要もなくなる。


「来てるんだろ、ラティス」

「……あちゃ~、バレちゃったか」

 工事現場の奥、機材の影から異能力者隠蔽機関の三人が現れる。


「『空間跳躍テレポート』の魔力を感知されましたか」

「彰さん……」

 事務的に応対するリエラに、何か言いたげなハミル。


「恵梨たちも来ているな」

 由菜が出て行った方と反対の入り口を見る彰。

「……色々と言いたいことがありましたが」

「今はそれどころじゃなさそうね」

「由菜にバレるなんてなー」

 恵梨と彩香と火野がぞろぞろと入って来る。

 由菜と話している途中で入り口から覗いているのは見えたが、場面を気にして出てこなかったようだ。


 一気に人口密度が増した工事現場。しかし、用があるのは一人だけだ。

「それでラティス……言いたいことは分かっているな」

「……え~、何のことかな?」

「とぼけるな。……そもそもおまえ、スイカ割りで由菜が火野が能力使うところを見て疑問に思っていることを分かってたんだろう」

 あのスイカ割りの後、異能力者隠蔽機関は彰の前に現れた。そして『記憶メモリー』を使うのかどうか聞いて来た。

「『記憶メモリー』の効果の一つとして、誰がどんな記憶を持っているのか大まかだけど分かるんだよ~。……だから念押ししたよね。本当にそれでいいのかって?」

「ちっ……だったらそう言ってくれればいいだろ」

「僕がそんな性格良いように見える~?」

「……そうだな、思わねえよ」

 本当こいつは全容が掴めないやつだ。


「まあいい。とにかく由菜に『記憶メモリー』を使え」

「……え? 彰さん、それは……」

「何を驚いている。由菜は一般人なのに能力のことを知ったんだから、その記憶を思い出させなくするべきだろ」

「ですけど……」

「それで全部解決だ。……俺が約束を破ったことも全部由菜は忘れることになる」

「言いたいことは分かるんですが……」

 本当にその解決方法でいいのか、と言いたげな恵梨。だが、彰はそれに気づきながら無視する。

 これが一番いい解決方法なのだ。

 昨日までの、上手く行っていた関係に戻る。……由菜はこんな世界に関わるべきじゃないんだ。


「なるほどね~。言いたいことは分かったよ」

 ラティスが頷く。

 それはそうだろう、異能力者隠蔽機関は一般人から能力者の存在を隠す組織。その目的に合った行為を長のラティスが拒むわけが無い。

 ラティスは本当は何を考えているか分からない奴だが、俺が頼み事をした場合大体引き受けてくれる。

「だけど――」

 今回も当然そのようになると思って。





「駄目だね~。あの子に『記憶メモリー』を使うわけにはいかない」





「……え?」

 ラティスが断るところを初めて見ることになった。

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