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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
七章 ハロウィン、明かされる秘密
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百九十話「彰と由菜1」

「『器官オーガン』の能力反応消失。『風使い』の反応は残っていますし、どうやら彰さんが勝ったみたいですね」

 『探知サーチ』で彰VSディール戦の行方を見守っていたハミル。

「そうですか。……また彰さんは一人で全て解決したんですね」

 その報告を受けて恵梨は複雑な思いだ。

 彰が勝ったことは嬉しいが、また自分が置いてきぼりにされたことは腹正しい。


「じゃあこれはもう必要ないってことだね~」

 ラティスが指を鳴らし『記憶メモリー』を解除。

「いやあ、ほんまにスゴイ能力やな」

「そうね。その対象が私たちに向いてなかったら素直に称賛したのだけど」

 火野と彩香は動くようになった足をぶらぶらとさせ、改めて『記憶メモリー』の凄さを確認する。


「彰さんの場所は……変わっていませんね」

 『記憶メモリー』の力を十分に理解している恵梨は、さっさと次の行動、スマートフォンで彰の位置検索をかけた。

「心配しなくても戦闘が終わったんだから、そのうち帰ってくると思うよ~」

「そうですけど……一刻も早く彰さんを問い詰めたいんです」

 物騒な発言の恵梨。さっきまでは彰のことを心配していたが、無事を確認できた以上、後は怒りが残っているだけだ。




「あら、みんなこんなところでどうかしたの?」

 そのとき由菜家の玄関の扉が開いて、優菜が出てきた。

「ゆ、優菜さん。……えっと、これは」

「こんな寒いところに三人で集まって……あ、何か秘密の相談でもしていたのかしら?」

「三人?」

 恵梨が振り返るとさっきまでいたはずの異能力者隠蔽機関の三人の姿が無い。

 優菜さんがやってきた瞬間リエラさんの『空間跳躍テレポート』でどこかに行ったんでしょうか……?


「優菜さんも外に出て、何かあったんですか?」

「あ、それよそれ。どうやら家の中に由菜の姿が見えないのだけど、ここを通らなかったかしら?」

「由菜さんですか? 見ていませんけど」

「十数分前からいるけど、誰も家から出てきていないわね」

「あら……。それならあなたたちがここに来る前に家を出たのかしらね? それとも家の中に隠れて……? けど、探せるところは全て探したわけだし……」

 由菜さんの行方ですか……。

 彰の元に急ごうと思っていた恵梨も、友人の消息が分からないとなれば足を止める。


 由菜さんを最後に見たのは……あの質問の時でしたね。

 偽彰ことハミルさんに優菜さんが昔した約束を訪ねたそのとき。さすがにこの短期間の演技の為に、彰さんもそんなことまでは教えてなかったのかハミルさんは答えられなかった。

 どうやら結婚の約束というのは嘘で……だとしたら本当は何なんでしょうか?


「いえ、それより……」

 あの質問の後、美佳さんの話を聞いて十分もしない内にこの場所まで来たはずだ。

 つまり家の中に由菜さんがいないのならば、その間に家を出たということになる。

 そして未だに帰ってきていないということは、コンビニにちょっと買い物に行ったとかそういう目的でも無さそうですし……。


「ところで彰くんの問題は解決したのかしら?」

「はい。いろいろありましたが、もうすぐ本人が帰ってくると思います」

 ……って、待ってください。

 優菜に返答した恵梨は気付く。


 優菜さんも美佳さんもハミルさんの答えが違うことに気付いたってことは、由菜さんも答えが違うということに気付いたということです。

 つまり由菜さんも彰さんが本物じゃないって思ったかもしれないということ。

 だったらそれを確かめるためにどうするか?



「そういえば由菜さんにもあのサービスを…………」















「どうして由菜がここに……?」

 彰がまず疑問に思ったのはそこだった。


 一つ目にまだハロウィンパーティーの途中だということ。

 あれだけ張り切って企画していた由菜が、こんな途中で抜け出すような真似をするはずがない。

 二つ目にどうしてこの場所が分かったのかということ。

 サーシャに『交換リプレイス』で飛ばされたわけだから彰もこの場所に意図して来たわけではないし、この工事現場は周りから見えにくいため俺の姿が見えたからふらりというのはあまり考えにくい。


「どうして……はこっちのセリフよ! パーティーにも出席しないで、こんな場所にいるわけ!?」

 思わずこぼしてしまった言葉が、由菜の神経を逆なでしてしまったようだ。

「すまん、すまん」

 謝る彰には今の言葉で見えてきたものがあった。

 パーティーに出席しないで……か。俺がハミルさんを替え玉にしたことは気付かれたみたいだな。

 由菜に気付かれたということは、どうせ恵梨にも気付かれているだろう。……このまま暗黒面ダークサイドを見ることなく、安寧に終わる展開は無いみたいだな。


「それでどうしてこの場所が分かったんだ?」

「悪びれもせずに……! 恵梨に登録してもらった携帯電話の位置検索サービスを使ったのよ!」

 そう言って携帯を彰に突きつける由菜。

 位置検索サービス……藤一郎さんに手伝ってもらったのか。

 恵梨が俺にやたらスマートフォンに変えるように勧めていたのはそういう理由があってか。その目的は……今回みたいに俺が一人で問題を抱え込んだ時に、その場所を特定するためだろうな。ハミルを替え玉に立てて無かったら、すぐにバレていたに違いない。

 ていうか携帯の位置検索を仕掛けるって……浮気を気にする奥さんみたいだな。怖えよ。



 そうして彰の疑問は解消されて……ようやく現在のやばい状況に気付くことが出来た。

 ちょっと待てよ……由菜はどこから見ていたんだ?

 尋常じゃない量の冷汗が彰の背中を流れる。

 俺はさっきまでディールと戦って、空を歩くなんて普通の人間じゃできないことをしていた。それを由菜に見られていたとしたら……非常にマズイ。

 能力者は世間から隠れた存在。普通の人間に能力を使っているところを見られるのは避けるべきことだ。

 だが、そういう常識以上に彰は由菜に能力のことを知られることを恐れていた。

 知るということは関わりを持つということ。……俺は由菜が能力者の世界に足を踏み入れることを良しとしない。由菜には……特に由菜には、平和な日常を過ごして欲しいのだから。


「そ、それで由菜は、ど、どこから見てたんだ?」

 直球で聞く彰。

 いつもの彰ならばこんな質問どう考えてもおかしいと自然な流れで聞き出していたはずだし、こんな動揺してつっかえながらのセリフにはならなかったはずだ。それほど彰は由菜に能力者について知られることを恐れている。

「どこから、ってそんなの――」

 ゴクリ。生唾を飲み込んで続きを待つ彰。


「今に決まっているじゃない」


「………………ふぅ」

 彰はホッと一息つく。

「って、何? そんな安心して? 何か私に見られちゃまずいことでもしていたの?」

 露骨な彰の反応に由菜が詰問する。

 いつもの彰ならここも安心した真似をせずに文句でも言って誤魔化していたところだ。いつもなら流れるように嘘を付く彰のキレが、今は全く感じられない。


「な、何もしてねえよ」

「だったらさっきの反応は何だったわけ?」

「そりゃ、あれだよ、あれ。……ていうかパーティー休んですまなかったな。今からでも遅くないし帰ろうぜ」

「バレッバレな話の変え方してるんじゃないわよ!? だから、何があったっていうのよ!?」

「た、大したことじゃねえよ」

「……本当に?」

 声のトーンを一段階落として聞く由菜。


「本当だよ、本当」

 それに気づかないまま答える彰。


「そう……」

「だから帰ろうぜ。な?」

 由菜の肩をぽんぽんと叩き彰は歩き出す。


 ふう、どうやら誤魔化しきれたみたいだな。

 彰は歩きながら安堵する。

 ちっと動揺してらしくないゴリ押しをしてしまったけど……まあこれくらいなら許容範囲だろ。

 一時は俺の変な反応のせいで気にするかもしれないが、一週間もしない内に忘れるだろう。人間なんてそういうものだ。


「……ん?」

 隣に付いてくる影がないことに気付いて彰が振り返る。

 見ると由菜は俯いたまま立ち止まっている。

「どうしたんだよ、由菜? 帰ろうぜ?」

「……あとちょっとだけ、いい?」

 彰の言葉を無視して確認を取って来る由菜。

「まあいいけど……」

 何の気も無しに返答する彰。


「……だったら」

 そして由菜は聞く。















「最後にもう一つ質問…………どうしてそんな嘘をつくの?」















「……え?」

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