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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
一章 水の錬金術者
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十八話「戦闘終了?」

「彰さん。これはどうします?」

 恵梨の言う「これ」とは、戦闘人形(ドール)のことだ。恵梨の攻撃で、気絶して地面に転がっている。

「とりあえず後回しだろ。まずは、あいつからだな」

 彰は鹿野田を指差す。鹿野田は戦闘人形を倒されたことが信じられなくて放心状態だ。

「そうですね」

 恵梨は鹿野田の方に向けて歩き出す。

 彰もそれに続こうとしたが、

「そういえば、こいつの素顔ってどうなってんだ?」

 横たわっている戦闘人形が気になり始めた彰。戦闘人形はフルフェイスメットを着けているため素顔が見えなかった。

 メットを外そうとした彰に、

「彰さーん。どうしましたか?」

 恵梨が振り返って声をかけてくる。

「ああ、すまん。今から行く」

 後からでもいいか、彰も恵梨についていこうとする寸前。

 戦闘人形のフルフェイスメットの中が、光の反射加減で少し見えた気がした。

「? どっかで見たことがあるような……?」

 その顔にどことなく、見覚えがある気がする。

 しかし、恵梨が鹿野田のところに着きそうだったので、気になるのを振り払ってあわてて追った。



 鹿野田の前で立ち止まった二人。

「さて、おまえはどうするか?」 

 彰が鹿野田に剣を向けながら宣告した。隣では恵梨も剣を向けている。

「俺たちはお前らのように無駄に殺したくないんだ。……もう俺たちの命を狙わないなら、おまえの撤退を許してやる」

 戦闘人形を倒された今、武器を突きつけられている鹿野田自身に戦闘力は無い。彰のセリフは交渉に見えて、実際は脅迫である。

 それなのに、鹿野田は困った様子を見せなかった。

「………………」

「さぁ、どうする」

 無言の鹿野田に彰は決断を迫る。鹿野田は口を開いた。


「……分かりました。私は反省しました。もうお前たちの命をもう狙いません――」


 そして懐から何かを取り出す。


「なんて言うと思ったか!」

 その小さな球状の物体を地面に転がす。

「なっ!」

「!」

 彰と恵梨は驚く。二人は本物を見たことは無いが……テレビや漫画で見覚えのあるその形は手榴弾のように見えた。

「やばい!」

「っ!」

 彰はとっさに剣を解除して、新しく盾を作る。恵梨も剣を水に変換後、盾に作り変える。


 そして手榴弾は爆発したが、

「スタングレネード!?」

「何これ!?」

 閃光と爆音を発しただけであった。驚きの叫びを上げる彰と恵梨だが、その声はかき消されて自分の耳にさえ聞こえない。盾に隠れていたので、閃光を直視していないが間接的に見たため視界もはっきりしない。

 くそっ! 鹿野田が自分の近くで爆発させるような物だから、殺傷力が無いと何故気付けなかった! この間に攻撃されたら対応できないぞ!

 彰は見えない視界と聞こえない聴覚に集中して周りを警戒する。

「?」

 しかし徐々に視覚と聴覚が戻ってくる間、攻撃されなかった。

 彰は辺りを見回す。辺りに鹿野田の姿は無かった。そして戦闘人形の姿も無かった。

「撤退したか……」

「どうなったの?」

 遅れて回復した、恵梨が聞く。

「俺たちが動けない間に、戦闘人形を連れて撤退したようだな」

 気絶している人を運ぶのには、時間がかかる。近くに車があったとしても運ぶのに時間がかかる。彰たちを攻撃している時間も惜しかったのか、それとも鹿野田自身あのスタングレネード以外武器が無かったのかもしれない。

「助かったの?」

「どうやら、そうみたいだな」

 ふぅ、恵梨が安堵の息をつく。彰も同じく安堵の息をついた。

 こうして、二人と研究会の戦いは幕を閉じた。


「恵梨。そういえば、最後の攻撃のとき」

「ん?」

「作り出したの剣じゃなかっただろ」

「そうですよ」

 戦闘人形の防御を無力化し、恵梨が事前に用意していた水で作ったのはハンマーのような物……つまり鈍器だった。

「殺す気は無かったですから……ていうか考えもしなかったですよ」

「まあ、そうか」

 普通の高校生に、人を殺すという感覚はやはりきついものがある。

「彰さんだったらどうしましたか?」

 その質問に彰は少し考える。

「……俺は……確かに人を殺すというのも嫌な感覚だが、戦闘用機械のようになってしまった人をそのまま生かしておくというのもかわいそうな気がするな。だけど……」

 そこで言葉を切る。疑問に思った恵梨が尋ねる。

「だけど……何ですか?」

「いや、なんでもない。結局俺はどっちでもいい。恵梨が殺したくないなら、俺も同じだ」

 一応結論付ける。


 しかし彰はあえて言わなかった、その可能性を考えていた。

 恵梨を殺すために戦闘人形は使われた。つまり能力者を殺すためには、戦闘人形を使う必要があると思っていたんじゃないか? もしくは戦闘人形は能力者を殺す役割だったのかもしれない。

 そしてあいつら科学技術研究会は、能力者であった恵梨の両親を殺している。

 要するに、恵梨の両親を殺したのは戦闘人形なのではないか?

 鹿野田がこぼしていたが、戦闘人形を修繕したと言っていた。最近戦闘人形(ドール)を使ったからこそ修繕が必要だったんじゃないか?


 だから、もし俺が恵梨の立場なら――。


 親の(かたき)ということで殺していたと思う。


 ……恵梨はこの可能性に気付いているのだろうか?

 一瞬聞こうかと思ったが、気付いてなかった場合やぶへびだし、気付いていた場合はそれを考えた上で殺さないことを選択したのだろうだから、意味が無い。

 ……まぁたぶん、気付いてないように思えるが。




「しかし、彰さんの考えた作戦が上手く決まりましたね」

 恵梨が話しかけてきて彰の思考は途切れる。

「それは、恵梨が上手く作戦を遂行(すいこう)したからだ」

「それでもあんなことを思いつくなんてすごいですよ」

 恵梨もこの能力を使い始めて十数年ほどだが、剣が水に戻ることを上手く利用したり、ペットボトルの水から剣を作っていたらスピードが遅れるからといって、先にブレスレットを身につけて必要なときに水に戻して使用するなど考えたこともなかった。

「そこまで褒められると照れるぜ」

 彰は照れる様子もないのに、そんなことを言う。


 その顔を見て、恵梨の心に暗雲のような疑念が沸き起こる。

 彰さんは少なくとも一つは嘘をついていると思う。

 裏通りで戦ったとき、追っ手を一撃で倒したことに空手を習っているからと言っていたが、当然ながら空手では剣の使い方を習わない。

 それなのに、私や戦闘人形と同じレベルの剣術を持っている。……もちろん、他に剣道を習っていたという可能性もあったが、それを恵梨は理屈ではない感覚で否定した。

 というのも、戦いに対して彰はそんなに恐怖心を持っているように見えなかったから。恵梨は戦っている間恐怖でいっぱいだった。防御に失敗して殺されたらどうしようと不安でいっぱいだった。しかし彰は恵梨と戦闘人形の戦いに乱入したときに、彰は恐怖を全く抱かずに怒りすら浮かべていた。

 そこから恵梨には、彰は普通の人ではなくどこか戦い慣れているように思えた。空手とかの試合なんかではない戦いを経験しているように思えた。


 彰が歩み寄ってくる。恵梨は浮かべていた疑惑をあわてて消した。

「どうしましたか?」

「全部終わったし、家に帰ろうぜ」

 普通に手を差し出してくる彰。


「えっ!」

 それに恵梨は驚いていた。

「どうした? そんなに驚いて」

「その……私はあの家に帰ってもいいんでしょうか?」

「? 良いに決まっているだろう」

 彰は、なぜ疑問に思っているのか分からないといった顔をしている。

 その表情が少し恵梨をいらいらさせる。

「だってこんなことがあったんですよ」

「こんなこと?」

「今日、科学技術研究会に襲われたことです」

「それがどうした?」

 彰は何故そこに疑問を持つのか分からないといった表情をしている。

 それが、また恵梨をいらいらさせる。溜まっていた思いが爆発する。


「だから! 私が近くにいるとこんなことに巻き込まれるんですよ! そんなの嫌じゃないんですか!?」

「………………」

「絶対いつか嫌になります! 私を面倒だと思います! 私が重荷に感じます!」


 そこで一転、怒った表情から寂しげな表情になる。

「……そんなの私が一番嫌なんです」

 昨日から溜まっていた思い。あの家は居心地がいいが、そこに私が居ては迷惑ではないか?

 そんな恵梨らしい遠慮から来た思いである。



「…………つまり」

 彰が確認するように言った。

「家に帰るのが嫌って訳じゃないんだな」

「……はい」

「俺に面倒ぐさがられるのが嫌だと」

「…………はい」

「なら、大丈夫だ」

 彰は断定する。その断定の力強さに、恵梨が少し押される。

「……何でですか?」



「俺たちは今日……じゃ無かった。昨日から、あの家に住む家族だろ。家族が迷惑をかけるのは当然だ」



「……」

「迷惑をかけあいながらも助け合うのが家族だろ」

「……でも」

 恵梨はまだ表情がすぐれない。

「それにおまえそれ昨日考えてたことだろ」

「……それが何か?」

「昨日とはもう状況が違うんだ。俺も能力者だって分かったし、研究会に立ち向かったし、もうおまえがいようといまいと俺は巻き込まれているんだ」

「……」

「おまえが巻き込んだんだ。全てが解決するまで、俺のことを助けてもらわなきゃ困るぜ」

 少し偽悪的に言って、彰は恵梨に笑いかける。


 恵梨はそれを見て、固まりきった心を溶かされるような思いになって、ようやく笑った表情をする。

「……ふふっ。分かりました。その代わり私のことも助けてくださいね」

「ああ、もちろんだ」

 どちらの表情にも笑いが浮かぶ。

 その笑い顔は二人の頭上の、春の空模様のように晴れ晴れしていた。


「じゃあ、帰りましょうか」

「そうだな」

 うなずきあって、歩き出した二人。





 そのすぐ背後から、

「良くやってくれたね~。お二人さん」

 と声がした。





 「「!」」

 驚いて振り向く。

 そこには男が一人に女が二人の三人組がいた。

 両脇の二人は、スーツを着た女性だ。頼りなさげな雰囲気の一人は新任OL、メガネをかけたもう一人は有能な秘書を思わせる。

 そして、真ん中の男もスーツ姿だ。しかし、その顔にはニヤニヤとした笑いが浮かんでいて、サラリーマンなどの印象を抱かせない。自由奔放そうな人だ。


 いつの間に近づいた!? 接近の気配は無かったぞ!?

 彰は油断させておいて奇襲するといった、前も研究会にやられた作戦に備えるため周囲をそれとなく警戒していた。

 が、しかしこの三人組の接近に気付けなかった。彰の感覚としては接近したというより、三人が突然(とつぜん)沸きあがったように思えた。


 ……しかし、相手から声をかけてきたということは、敵ではないのか?

 とりあえず現状、三人の表情に敵意は無いようなので相手に聞けばいい。

「誰だ!」

 それに、三人組の真ん中にいた男が答えた。

「誰だなんて、ひどいね~。僕たちは異能力者(いのうりょくしゃ)隠蔽(いんぺい)機関(きかん)の者さ。僕はその機関長、ラティスさ」

 真ん中の男が飄々(ひょうひょう)と名乗った。

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