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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
七章 ハロウィン、明かされる秘密
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百八十話「ハロウィン変事3 考察」

 放課後。

 部活に行くクラスメイト、帰宅するクラスメイト。各々の行動に移る中。

「ちょっと水谷、風野、それと火野は付いてきてくれ」

 三人は畑谷に呼び出されていた。




 連れて来られたのは生徒指導室。

 職員室でないのは……おそらく話す内容を周りの先生に聞かれるわけにはいかないからでしょうね。

「それでどういう用件ですか、先生?」

 こういうとき真っ先に口を開く彰がいないので、恵梨が率先して話をすすめる。


「……目下起きている異変についてだ」

「彰について、ってことね」

「確かにあれはおかしいで。俺の挑発も軽くいなしてたし」

 畑谷の疑問はみんなも思っていたようだ。

 ……というか火野君もさすがに気づいていましたか。


「俺も能力のことを知らなかったら調子が悪いんだろうな、で済ませたんだが……本当にそういうのじゃないよな?」

「どうやら正体不明の能力が彰さんにかかっているみたいです」

「錬金術を使っている様子も無いから、それが原因で確定でしょう」

「あんまり魔力の反応は大きくないみたいやけどな」

「……やっぱりか」

 能力のことを知っているとはいえ、畑谷は能力者ではないので魔力の反応を感じることができない。


「心当たりは……あれか。能力者ギルドとかいう組織の」

 畑谷も異能力者隠蔽機関からの説明を聞かされて、事情は把握している。

「だと思います。日本の能力者であんなことが出来る能力は知りませんから」

「このタイミングで他のところから来た能力者が、彰を偶然狙えたとも思えないものね」

「まあそうやな」

「日本の能力者の調査……か」

 能力者ギルドに出されたという依頼。

「確かにタイミングから考えて、能力者ギルドが関わっていることは間違いないだろう。……だが、彼らの狙いは何だ? 高野をおかしくして何がしたい?」

「それは……」

 考えてもいなかった。

 彰さんをあんな風にした理由……。女の子の気持ちを理解して、あんな言葉をかけるようにした意味……。

 まさか狙いは……私と彰さんをくっつけることで……! ……何が起きるんでしょうか?


「恐らくだけど、あの彰の態度は副作用みたいなものね」

 口を開いたのは彩香だった。……私もふざけたこと考えてないでちゃんとしないと。そもそもそんな狙いだったとしたら、由菜や彩香にもあんな態度を取らせる必要はないですし。

「何か気づいたんですか、彩香」

「……さっき教室を出る前に彰に少し話を聞いたのよ」

「話って何や?」

「能力者ギルドについて。……おかしくなっていても彰は彰だし、何か気づいているんじゃないかって思ったんだけど」

 そうですね、彰さんなら私たちじゃ到底気にもしなかった情報からある真実を導き出したという可能性も少なくは無い。……けど、それにしては彩香の顔は暗い。


「もしかして……」

 彩香の顔が晴れないことから、畑谷も何か起きたことを察する。



「彰の第一声はこうだったわ。『能力者ギルド……何だそれは?』」



「…………それはふざけていたわけではないですよね」

「そんな感じは見られなかったわ。ギルドのことだけじゃなくて能力者のことを聞いても、ゲームか何かの話なら恵梨の方が詳しいと思うぞって言われて……」

「あの彰がか……」

「つまり能力者ギルドの狙いはそこにあるということか」

 畑谷がしてやられた感が表れる顔で続けた。




「高野彰の無力化。そのためにあの能力はかけられた……と」




「彰さんが……」

 これは……大変な事態になりましたね。

 科学技術研究会の襲撃を食らったこの前も、彰さんが私たちをまとめ先生の意図を読み切ることで生き残ることが出来た。彰さんはこの中で一番戦闘力はあり、同時に私たちが一番頼れる精神的支柱でもある。

 それが無力化された。

「………………」

 近くに能力者ギルドの連中が来ているのは確定的なのに、これで戦えるでしょうか……?


「私もそう思うのだけど……」

 彩香の言葉のキレが悪い。

「彩香は何か他の可能性があると思うんですか?」

 彰さんを無力化した後、私たちを攻撃する。十分に考えられる戦法だ。

「いえ……」

 なのに彩香は自分が出した結論なのに、納得していない。


「……そうね。これ以上私たちだけで考えても堂々巡りになりそうだし、詳しい人にアドバイスを頼みましょうか」

 彩香はポケットから携帯電話を取り出しかけ始める。学校内では原則使用禁止だが、場合が場合だ。畑谷は注意せずに見守る。

「誰にかけているんですか?」

「雷沢さんよ」

「……こういう事態には一番慣れているかもしれませんね……妄想の中ですけど」

 中二病の大学生、雷沢。彼なら彰がおかしくなるというこんな状態に対しても、何か助言をくれるはずだ。


 平日ということで向こうも大学があるはずだが、電話はすぐに繋がった。

「もしもし………………ええ、そうね。ちょっとおかしな事態になって…………そうね、あなた好みだと思うわ。状況を一から話すから、何か気づいたことがあったら言ってもらえる?」

 そして彩香は今日起こった事態を最初から説明して見せる。



 数分後、話し終えた彩香は雷沢の申し出を受けて、スピーカーモードに切り替える。



「話は聞かせてもらった。その上で気づいた点を何個か言わせてもらおう」

「……さすがですね」

 口頭での説明を聞き終えた直後なのに、もう何かに気付いているというのか。


「まず、気になったのは彰くんが昼休み開始直後からどこかに行っていたということだ。その行動はいつもと違うものなんだな?」

「そうです」

「だったら彼はどうしてそんな行動を取った?」

「……わざわざ嘘をついてまで出て行ったんですから、異能力者隠蔽機関から知らされて能力者ギルドの依頼を受けた者のところに行ったと考えたのですが」

「そうだな。彰くんは自分から能力者ギルドに接触に向かった可能性が高い。……では、どうしてその彰君が昼休み終了前には帰って来たのだろうか?」

「どうして……?」

 それは考えたことが無かった。


 頭を捻る中、雷沢は話を続ける。

「彰くんの性格上、諦めて戻ったということは考えらにくい。なら、三つの可能性が考えられる。

 一つは能力者ギルドを倒したから。……だが、こんなおかしな状態が続いているのに倒したというのもおかしい。

 そしてもう一つ、本当は能力者ギルドの依頼を受けた者がいなかったから。……しかし、現に日本にいる能力者ではない能力にかかっている以上それも考えられない。

 だから最後の可能性。ギルドの返り討ちにあったが、何らかの理由で帰されたということだ」

「彰さんが返り討ちにされた……ってことは、そんなに強い能力者がこの結上市に……?」

「いや、恐らく返り討ちにあったといっても、その彰くんをおかしくする能力をかけられて、そもそも勝負にならなかったのだと推測するが」

「まあ、あの状況になったら勝負も何もないのは分かるけど」

 なるほどその通りですね。……しかし、それだとどうして彰さんは帰されたんでしょうか?


「彰の無力化を狙ったんやないのか?」

 さっき出た考えを述べる火野。

「いや。もし本当に能力者ギルドが彰君の無力化を狙ってたら、そのまま学校に帰さないだろう。能力のことも忘れている彰くんなら拘束するのも簡単だしな」

「そうですね……」

 あっさり否定された。……やっぱり雷沢さんに頼んで正解でしたね。

「なら、ギルドは一体何が目的でこんなことを……」

 彩香の疑問に雷沢は答えた。



「それはこの状況こそが目的なんだろう」



「この状況が……ですか?」

「そもそも今回ギルドに出されていた依頼は能力者の調査だ。そしてその調査の詳しい内容は明かされていない。……だからこういう状況に陥った能力者の調査だった……という風にも考えられる」

「???」

 こういう状況に陥った能力者の調査……? おかしくなった彰さんに対しての反応でもまとめて何かが得られるのか……?


「どうしてそんなことを……?」

「それは研究会能力研究部門の鹿野田にでも聞いてくれ。さすがに彼ほどの変人は僕の妄想にも登場したことは無い」

「鹿野田……」

 あの狂った人物なら……この調査にも何かの意味を見出しているのか……?


「結局俺たちはこの後どうすればいいんや?」

「普通に過ごしていればいいだろう。調査が終わったら彰くんも元に戻してもらえるはずだ」

「それなら分かりやすいで」

 火野君は納得していますけど……何でしょう、この感覚は。


 雷沢さんの説明は筋も通っている。恵梨にだって理解できるものだ。

 なのに……何かが。

 自分の中の感覚が、何かが違うと叫んでいる。


 私は何に違和感を持っているんでしょうか……?

 これまでの情報? この状況? 雷沢さんの考え?

 それとも……その全て?


「…………?」

「恵梨、どうしたの?」

「……あ、何ですか?」

「いや、ボーっとしているように見えたから」

 考え事に集中しすぎたようだ。彩香に心配される。


「どうやら恵梨くんは何か悩んでいるようだな」

 電話の向こうの雷沢にも気づかれたようだ。

「すいません、話の途中に」

「……そういうときにいいおまじないを教えよう」

「おまじない……?」



「テベス・ノカタ・ラキア・ダクサノ」



「…………え?」

 今、何て言ったんでしょうか?

 彩香の電話からスピーカーから聞こえてきた音声に耳を疑う恵梨。


「どういう意味や、それ?」

「……意味は特にない。『魔法探偵ミライ』の主人公ミライが使う謎解き魔法の一つだ。助けになればと思ってな」

「魔法……探偵……?」

 どうやら物語の中の話ということですか。……そんな呪文でこの謎が解けるなら苦労しないというのに。


「そろそろ講義の時間だな……それではよろしく頼むよ、恵梨くん」

 その言葉を最後に雷沢は電話を切った。






「ということか。いつも通り過ごしていれば大丈夫ということなら心配ないだろう。……みんなも帰っていいぞ」

「そうやな……ならハロウィンパーティーを楽しむだけやで!」

「ハロウィン……そうか、今日はハロウィンか。……こう大人になるとそういう行事には疎くなる物だな」

 畑谷が思い出したようにつぶやく。

「みんなで集まって仮装するんやで」

「これが若さか。……まあ、楽しむのはいいが羽目を外しすぎるんじゃないぞ」

 最後に先生らしい注意をして畑谷は生徒指導室を出て行く。


「……あの彰にまた迫られていつも通りでいられる気がしないのだけど」

「それは私も同じです……」

 昼休みの出来事を思い出す彩香と恵梨。


 能力者ギルドの依頼を受けた者がこの結上市まで来ていることは気になる。

 けど、害を与えるつもりが無いというのなら無視して構わない……はずだ。


「……テベス・ノカタ・ラキア・ダクサノ」


 だが、この違和感は放置していていいもなのだろうか……?


「おまじない唱えてどうしたのよ。まだ何か悩んでいるの?」

「……いえ。では行きましょうか」

 考えを振り払うように首を振って、恵梨達は生徒指導室を後にした。

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