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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
七章 ハロウィン、明かされる秘密
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百七十六話「研究会調査結果2」

 若いころの姿が彰に似ているという話の、風野藤一郎の叔父、風野大吾。能力は家系で同じなので風の錬金術だ。

 その下二つの名前に彰の声を契機として皆が注目を始めた。


「……高野透と野田美佐子……?」

「確かに彰とは同じ苗字だけど……父親だっていうの?」

「けど、母さんって……ならこっちの野田美佐子っていうのは彰のお母さんということ?」


 次々に疑問を口する皆に彰は答えていった。


「高野透は俺の親父と同姓同名です。そして野田美佐子の方ですが……母さんと名前が同じ、旧姓も野田だったはずです」

「結婚する前だったということなのかしら?」

「だとしてもどうして彰さんの両親が研究会、能力研究部門の設立に関わってるんですか!?」

「それは……俺にも分からない」


 両親の過去はよく知らないが、親父は普通の会社員、母さんの方は普通の主婦のはずだ。

 なのにどうしてこんなところに名前が……。


「やはり君の両親だったのか。一応そっちの方も調べて、名前が同じだとは分かっていたが」

「藤一郎さん、これ以外に何か資料は無いんですか!! どうして親父と母さんが……!」

「すまないがこれくらいしか無かったようだ。研究会というのは本当研究の為だけに存在していたような組織でな。こんな情報でさえ残していた方が奇跡だった。調査チームが他に発見したのは、全部兵器派の研究に関することで特に君たちに伝えて意味のある情報は無い」

「くっ……」

 ここまでもどかしいと思ったことはない。

 どうして、どうして、どうして?


「ですけど、一つ分かったことがありますね。能力者会談のときに、彰さんの父親と電話をして能力のことと研究会のことについて知ってることが判明してましたけど、こんな経歴があったのならそれも納得です」

「そうね。……けど、ならどうして彰と連絡を取らないのかしら? 研究会に関わっていたことだって、教えたって構わなかったはずよね」

「何か理由があるんじゃないのー?」

「その何かが分からないんやな」

 確かに能力と研究会について知っていたことには納得だ。しかしそれ以上に……。



「俺が風の錬金術を持っているのにも親父たちは関わっているんじゃないか?」



「……言われてみればそうですね」

戦闘人形(ドール)なんて風の錬金術者がいる組織に彰の両親。……関わりが無いという方が不自然ね」

「けど、どうやって彰君に能力を持たせたのー?」

 光崎の疑問はもっともだ。俺に能力を持たせるための方法……。




「この件に関しては引き続き調査を行っていく。彰君の両親が研究会に関わっていたということはもちろん、叔父さんの風野大吾が関わっているというのもやはり気になるからな」

 風野藤一郎がそう締めくくって話は終わった。










「ところでタッくん、みんなで話してた時途中からずっと黙ってたけどどうしたの?」

 全体での話の後、彰個人の相談を受けてからの帰り道。雷沢は一緒に帰る光崎にそう質問された。


 確かに科学技術研究会、能力研究部門の創立メンバーが判明してから一回も口を開いていなかったが……。

「少し気になることがあってな……」

 ……いや、本当は少しなんかではないか。

 能力研究部門のメンバーに風の錬金術者と彰君の両親がいると分かって。

 これまでに判明したことを繋ぎ合わせると……全てのことに説明を付けることが出来る途方もない可能性が浮かび上がるのだ。

 彰君が能力を持っていることも、彰君が戦闘人形(ドール)の顔を見たことがあるかもしれないと言ったことも、彰くんがこの前の襲撃でナイフを止めることが出来たのも、全て。


 だが……そうだとしたら。

 研究会は人類の禁忌を犯している。……いくら研究のためとはいえ、ここまでやるはずが……あるのか?


「…………」

「むう……タッくんが難しい顔しているー。……ねえー、構ってよー」

「……ん、何だ純?」

 光崎に返事をしながら、もう一度だけ自問する。


 さすがにあるわけない……よな?
















「それで今日の仕事は何ですか?」

 上司の部屋に赴いたルークが尋ねる。

「この前見つかった麻薬密売組織の強硬調査だ」

 肘を机につき、手を組んで、その上に頭を置きながら上司は答える。


 随分と偉そうなポーズですね……これが出てくるってことは何か良いことでもあったのでしょうか?

 機嫌がいい時の上司の癖を、同僚『演算予測カリキュレーション』から聞いていたルークは考える。



 アメリカ、能力者ギルド。

 能力者を取り締まる執行官であるルークは、今日も変わらず仕事である。



「何か良いことでもあったんですか?」

 直球で聞くルーク。

「ああ、君にとってもいいニュースだ。今回の件が終われば、一時休みをもらえるそうだ」

「他に特に立て込んでることが無いってことですか」

「そうだな。久しぶりに学校に行くといいだろう」

「……そうですね」

 ここ最近学校に行っていない。出席日数的にもそろそろやばいはずだ。


 しかしそれよりもやりたいことが……。

「言っておくが、科学技術研究会の私的な調査は認められないぞ。」

「どうしてですか!!」

 まさに考えてたことを言い当てられるルーク。

「やっぱりか……娘や妻みたいな能力は無いが、さすがに今のは分かったぞ」

「執行官というじゃなくて、ルークという一個人としてなら……!」

「君がそう言い張っても、周りはそう見てくれないということだ」

 上司は頑として首を縦に振るつもりは無い。




 この背景には能力者ギルドに届いた一枚の依頼書があった。

 その内容は『日本の能力者の調査について』

 詳細は仕事を受けてから話すとなっていたが、誰が出した依頼なのかはすぐにルークもピンときた。




「あの依頼書の差出人を追えば、研究会にたどり着くはずです!」

「だからそれが駄目だって言ってるんだ。どうせ何箇所か仲介しているだろうから、大本に辿りつけるわけが無い。……それに依頼部の信用を落とすようなことをしてみろ。能力者ギルドが潰れるぞ」

「ぐっ……」

 能力者ギルドは主に二つの役割から成り立っている。

 能力者に対する依頼を扱っているのと、ルークたち執行官を含む能力者を取り締まるところだ。


「俺たちは依頼部の方に食わしてもらってるんだ。もし依頼部が機能しなくなって金が入ってこなくなったら、おまえはまだ子供だから親に養ってもらえばいいが、俺や『過去視パストビジョン』はどうやって生きていけばいいんだ」

「そうですけど……」

 能力者ギルドは一応政府の方から援助も貰っているが、一般から隠された機関であるため回ってくる金も少ない。

 そのため依頼の仲介料ということで入ってくる金がメインの収入だ。


「依頼についてはよほどのことが無い限り、俺たちは関わってはいけない。……でないと、誰も依頼してくれなくなる」

「…………」

「というわけだ。……見逃してやったが、依頼について異能力者隠蔽機関を通して君の友達に伝えたのもかなりグレーだからな」

「気づいていたんですか……」

「って、本当にやっていたのか」

「……っ!」

 カマをかけられたと気づくルーク。


「まったく、おまえも執行官ならもうちょっとそういうところは気を付けるようにしろよ」

「良いんです、僕は現場に出て犯人を捕まえるのが仕事なんですから!」

「いつまでも現場にいてもらっても困るんだが……」

「調査はあの二人に任せとけば安泰ですし」

「そうだが……それでいいのか……?」

 上司が呆れる気配。


「まあいい、それより目の前の仕事だ。ブリーフィングがこの後会議室で行われる」

「分かりました」

 強硬調査ともなれば他のチームとも協力が必要だろう。足並みをそろえるために、情報共有は大事だ。


 仕事用に頭を切り替える前にルークは今一度思う。

 未だ手がかりはそんなに多くないですが……あの家族を引き裂いた能力者、サーシャは絶対にこの手で捕まえてみせるんだ……!











 そのころ、能力者ギルド、ロビー。

「フムフム『ニホンノノウリョクシャのチョウサ』デスカ」

 一人の能力者が張り出された一つの依頼に目を止める。

「……ナカナカ、オモシロソウデスネ。チョットチームノミンナニモカケアッテミマショウカ」


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